1-15 星の海で、あなたが好きです
◇ソーダの視点
星の海に入った僕たちの前に、見渡す限りの星空が広がった。
城内の喧騒が嘘みたいに静かだ。
通路に足を踏み出すと、後ろで扉が閉まった。
上も下も、前も後ろも、漆黒の夜闇と無数の輝く星々が広がっている。
瀟洒な白い通路だけが、星空をまっすぐに貫いていた。
「わぁ、きれい……」
おこめさんが静かに呟いた。
「きれいだね……」
僕も言った。本当に綺麗だった。
おこめさんの手を引いて奥に進む。
予約制だけあって人が少ない。
通路の両脇に小さなバルコニーが並んでいる。
ほとんどがカップルで、星空を眺めながら何か話している。
空いているバルコニーに入った。
静かだった。空気が澄んでいる。
頭の上にも、目の前にも、足元にも星空が広がる。
まさに星の海だった。
何か言いたいのに、舌がうまく動かない。
心臓がドキドキとうるさい。
おこめさんの様子をちらっと見て、また星空に視線を戻した。
時折、流れ星が目の前を横切る。
「きれいだね……」
また言ってしまった。自分でツッコんだ。
「本当に……、きれいですね」
おこめさんも返した。その声がどこかうっとりしている。
そのまま静寂があった。
気まずくはなかったけど、気の利いたことも言えそうにない。
……もう良いや。
最後に、横切る流れ星に願いをかける。
うまくいきますように。
それから、体ごと、おこめさんに向いた。
星空を見るおこめさんの横顔を、しっかり見る。
「おこめさん」
「はいっ」
おこめさんが、ぱっと振り返った。
やけに良いお返事だった。おこめさんも恥ずかしそうにしている。
僕は吹き出しそうになって緊張が解けた。
両手で、おこめさんの両手を静かに握った。
覚悟を決める。勇気を出す。
「おこめさん、僕は、おこめさんが好きです。付き合ってください!」
言えた。言い切った。返事は!?
おこめさんが嬉しそうに微笑んだ。
「はい、私もソーダさんが好きです」
おこめさんの手が、しっかり握り返してきた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
じんわりと喜びが胸の中に広がる。
「これからよろしくね」
そう言うと片方の手を離して、もう片方を恋人つなぎにした。
僕はもう、おこめさんと恋人同士だ。
「もう少し、先に進んでみる?」
「はい。進みましょうっ」
おこめさんの声が、いつもより高い。
ウキウキしている感じが伝わってくる。それも嬉しかった。
恋人つなぎで歩きながら、城の中でたくさん遊んだ。
初めて二人の写真も撮った。
手をつなぎながら背中合わせで立って、逆の手で魔法使いの杖を構える。
強敵に挑むカップルの魔法使い、という感じ。
実際、映画のマネだ。
写真に写ったおこめさんと僕は、二人とも少し照れながら、満面の笑顔だった。
写真を見て、また二人で笑った。
早めの夕食を東京駅の地下で食べた後、新幹線のホームに上がる。
おこめさんが、わざわざホームまで見送りに来てくれた。
夏の夕暮れが、ホームをオレンジ色に染めている。
新幹線が来た。
手を離したくなかった。じっと見つめあった。
「……そろそろ出発しちゃいますよ」
「うん、行かないと」
返事はしたけど動けなかった。
半歩、おこめさんが近づいた。僕も近づいた。
おこめさんが、さらに近づいた。顔が近い。
おこめさんが目を閉じる。
ドキドキした。心臓の音がうるさかった。
人生、初めてのキスだ。
ゆっくり慎重に、そっとキスをした。
柔らかかった。
どれくらい、おこめさんとキスをしていただろうか。
発車ベルが鳴った。
顔を離した。
おこめさんも名残惜しそうな顔をしてくれている。
「今度は、私が新潟に行きますね」
「うん、ありがと。また会おうね!」
新幹線が走り出して、おこめさんが見えなくなった。
ため息をついて席に座る。
僕の彼女。人生で初めての言葉だ。
おこめさんが僕を好きだと言ってくれた。あんなに素敵な人が。
それだけで世界が明るく見える。
おこめさんと早くまた会いたい。
もっと知りたいし、もっと仲良くなりたい。
おこめさんは、今、何を考えてるのかな。
僕と同じ気持ちなら良いけど。




