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1-14 女神は、二人乗りの箒に乗りたい

◇ソーダの視点


やっと「魔法使いの城前」駅にたどり着いた。

新宿駅は、ダンジョンという異名に相応しい難易度だった。

早めに出て良かった……。


今日も良い天気だ。

まだ朝なのに、道路で目玉焼きを作れそうだ。


約束まで少し時間があるので、コンビニの中をブラブラする。

ファッション誌が目に入った。


今日のおこめさん、どういう格好で来るんだろう。

おこめさんはオシャレ好きだから、僕もつい楽しみにしてしまう。



おこめさんから、もうすぐ駅に着くと連絡があった。外に出て待つ。

すぐに汗がじわりと出てきた。今日は倒れないように、水分を多めにとらないと。


改札の向こうから、おこめさんがやってきた。

白いリネンのマーメイドワンピースに、ロイヤルブルーのカーディガンを肩掛けしている。


爽やかな白と青が、明るめのショートボブに良く似合う。


「おはようございます! 今日もソーダさんは素敵ですね!」

不意打ちだ。顔が赤くなる。

「あ、ありがと。おこめさんも可愛いよ!」

おこめさんが、嬉しそうに笑った。


こんな素敵な人と、これからデートだ。

しかも午後には、星の廊下で告白する。

ちょっと緊張してくる。うまくいくと良いな。


改札から伸びる大通りを歩く。

すぐに装飾された石造りの壁と、大きな城門が見えた。


入る前からファンタジーの世界に迷い込んだみたいだ。


「私たち、これから入学ですね!」

「だね! ワクワクする」

大きな城門をくぐって中に入る。

ひんやりとした空気が気持ち良い。


高い天井にはスモークが焚かれ、可愛らしい妖精や不思議な生き物達が出迎えてくれる。


中は、想像以上に暗くて混んでいた。

はぐれたら大変だ。


「ソーダさん、まずは『失せ物探し』の魔法を習わないといけません」

「え?」

「ほら、はぐれたら大変です」


「おこめさん、いい方法を思いついた!」

「なんですか?」


「……手を繋いでも良い?」

手を差し出す。内心ドキドキだ。


「それはいい方法ですね!」

おこめさんが、にこりと手を取ってくれた。


嬉しい。

ほっそりとした手を握る。

手の感触が、滑らかで柔らかい。


ポンチョ式の制服を被って魔法使いになった後、城内を歩く。もちろん、手をつなぎながら。



途中で寄り道しながら、目玉アトラクションの「空とぶ箒の練習場」に来た。

90分待ちだ。


おこめさんと顔を見合わせる。おこめさんの顔に『乗りたい!』と書いてある。


「どうしよう。待つ?」

「待たないで乗りましょう」


「優先パスってこと?」

けっこう高い。


おこめさんは頷いた。

「今日は、ここの入場チケット以外、私が持つ約束ですからね」


「う、うん。でも高いよ? なんか申し訳ない」

「大丈夫です。それに私は乗りたいし、待ちたくないので」


力強い決意に満ちていた。止められない。

昨日も思ったけど、おこめさんは頑固なところがある。


「分かった」


おこめさんがサッと優先パスを買った。

長蛇の列の脇をスイスイと進む。

初めての経験だ。


僕たちだけ先に行くのは申し訳ない気もするけど、たしかに便利。



通路の奥には魔法使いの映画で箒を教えている、あの先生がいた。

テンションが上がる。


先生の背中越しに、扉が並ぶ通路が見える。


「空とぶ箒の練習場へようこそ。よく来ましたね」

魔法使いの先生が挨拶してきた。


「今日は、一人乗りと二人乗り、どちらを練習したいですか?」


固まった。

つないだおこめさんの手に少し力が入った。


おこめさんの顔を伺う。

どうしよう。二人乗りが良い。

おこめさんはどうかな。


おこめさんが何か言いたげに僕を見る。


「……あー。一人乗りにしておきますか?」

しびれを切らした先生が聞いてきた。


僕が頷きかけたところで、おこめさんが言った。

「二人乗りで、お願いします」

凛として良い声だった。


僕も慌てて続く。

「はい、二人乗りで!」

心臓がドキドキしてきた。


先生は重々しく頷いた。

「よろしい。では5番の扉を開けて箒にお乗りなさい」



5番の扉を開けると、長めの箒が空中に浮いていた。

そんなわけはないと思うけど、今の技術はすごい。


先輩という設定のスタッフから、二人乗り箒の乗り方を案内される。


跨っても良いし、腰掛けても良い。

前席と後席は、かなり近い。


僕は跨り、おこめさんは腰かけた。

安全ベルトをする。



箒が空に向かって飛び始めた。


おこめさんが僕の腰に、ぎゅっとしがみついてくる。

昨日と同じ、レモンのように爽やかで、ジャスミンのようにさりげなく甘い匂い。


ドキドキが止まらない。

箒で空を飛ぶのは迫力があったけど、ちょっとそれどころじゃなかった。



箒を降りた。なんか足がふわふわしている。

ふたりで手をつなぎながら、ゆっくり歩く。


早めのランチをとるため、カフェに行く。

おこめさんがランチのパンをツンツンしてる。


「どうしたの?」

「逃げてくれないかなと思って」

「ホントだ。スープも空を飛んでない!」

二人で大笑いした。


食べている途中、おこめさんがスマホを見て一瞬だけ、眉を寄せた。

何かあったのかな。


「どうしたの?」

「ごめんなさい、大丈夫ですよ。大したことないです」

おこめさんは柔らかく微笑んだ。

少し気になるけど、そっとしておこう。


「おこめさん、次、どこに行く?」

「私、秘密の部屋と魔法練習場に行ってみたいです」

「いいね! 僕も気になってた。こっからだと秘密の部屋のほうが近そうだよ」

「じゃあ、秘密の部屋からですね! 透明マント、本当に透明になるんでしょうか」

「確かめてみよう!」


驚くことに、秘密の部屋の透明マントは本当に透明になった。


「えっ!? おこめさんどこ?」

「ここですよ!」

背中をツンツンされた。振り返っても誰もいない。薄暗い壁があるだけだ。


手を伸ばしてそのあたりを触ると、ツルツルして少し硬い透明マントの感触がした。

「きゃっ」

「ご、ごめん! 変なところ触った?」


「いえ、大丈夫です……。仕返しです!」

ツンツンツンツン!

「やったな!」

こっちもツンツンする。


マントが外れた。

笑い転げるおこめさんの顔が出てきた。

僕もマントを脱いで大笑いする。



午後3時が近づいた。

いよいよ、星の廊下に行く時間だ。


「そろそろ行ってみようよ」

「はい、行きましょう!」


二人で頷きあって向かう。


星の廊下の扉は城の最奥部にあった。

予約しないで近づいた人に、扉の蝶番が威嚇してる。

3Dプロジェクションといっても迫力がある。



僕達も近づくと、角の生えた中世的な怪獣の蝶番が恐ろしい声で話しかけてきた。


「合言葉を言え」


合言葉は予約の時に、自分達で決めてある。


「一緒に言う?」

「ええ」


おこめさんと頷きあう。

「「僕と私はエイリアン!」」


言うと、すんなり通れた。


いよいよだ。

重々しい扉は、二重になっていた。

そして奥の扉が開いた瞬間、僕達は言葉を失った。


お読みいただき、ありがとうございます。

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