1-13 女神の親友が、僕を認めてくれた
◇ソーダの視点
銀座のお店で、おこめさんの友達と合流した。
舞さんは明るめのポニーテール、美香さんは黒く長いストレートヘア。二人とも華やかで、いかにも都会の女性という感じだ。
自己紹介のあと、舞さんがさっそく聞いてきた。
「出会いはなにー?」
「ネットゲームです」
「ネトゲかー。まさか、あやとリアルで会えるとは思わなかったでしょ?」
「まったく思ってなかったです。でも会えて良かったです!」
「あや、ゲームでどんな感じだったの?」
今度は美香さんから質問だ。
「おこめさん、あ、つまり彩夏さんは、本当にすごいリーダーで……」
初代リーダーだったお味噌さんが突然失踪した後、おこめさんがリーダーとしてどれだけすごかったか説明する。
美香さんは、おこめさんをチラリと見た。
「想像つくわ。あや、頼られると頑張っちゃうから」
隣で頷いていた舞さんが僕に視線を向けた。
「颯太さん、お仕事は何されてるんですかー?」
少し固まった。
でも正直に話した。
昔は児童養護施設で働いてたこと、体調を崩して実家に戻ったこと。だんだんと回復してきて、今は食品工場の契約社員として働いていること。
ふたりの反応が怖かった。
「うわー……、ブラックな職場ってほんとやばいよね!」
「今は回復してきてる感じですか?」
舞さんが『怪談を聞いた』という感じに反応して、美香さんは気遣ってくれた。
二人とも見下す感じも、腫れ物にさわる素振りも無い。ただ、率直で温かかった。
「ちょっとずつですけど」
「良かったねー!」
今度は僕から質問する。
「高校のときのおこめ……彩夏さんって、どんな感じでしたか?」
舞さんが目を輝かせた。
「もうね、すっごく頭良くて! 皆から頼られて。でもちょっとズレてて」
美香さんが頷いた。
「そうそう。流行りのアニメとか全然知らないし。皆で『宇宙人が送り込んだ地球探査ロボじゃないの!?』って言ってたよね」
驚きのニックネームに、思わずおこめさんを見た。
「今は、だいぶ地球に慣れましたよ」
おこめさんが恥ずかしそうに、でも少し笑いながら言った。
反論しないんだ。それが驚きだった。
三人とも屈託なく笑いながら「本当だよねー!」と盛り上がっている。
解散前、おこめさんがお手洗いに立った隙に、美香さんが静かに言った。
「あや、最近、楽しそうに笑うんです。昔は何が楽しくて生きてるのか不思議なくらいだったのに。この1年で、すごく変わった。ソーダ君のおかげかもしれません」
何も言えなかった。
「大切にしてあげてください。完璧に見えて、全然そうじゃないですから」
美香さんの言葉が重い。
でも、その重さに応えないと。
僕はしっかり頷いた。
その後、解散した。
華やかな銀座の灯りの下、おこめさんと二人きりで駅まで歩く。
昼の暑さが少し和らいで、ずいぶん歩きやすかった。
「友達、良い人たちだね」
「ありがとうございます」
おこめさんが笑った。
「明日のランチ、魔法使いっぽいのあるかな」
「あると良いですね」
「……逃げるパンとか」
「逃げるんですか!?」
「うん。捕まえないと食べられない」
「じゃ、スープも逃げます。蓋を開けたら、空を飛んで」
「スープも!?」
「フォークも足が生えて逃げ出します」
おこめさんが指を下に向かせて歩かせた。
「もう食べさせる気ないじゃん」
「魔法使いなら捕まえられます」
「なるほど」
何がなるほど、なのか分からないけど、楽しそうなランチだ。
「じゃあ明日は、まず昼ごはんを捕獲しよう」
「はい!」
二人で笑った。
改札に着いた。僕達は別の路線だ。
何となく、見つめ合った。明日も会えるのに名残惜しい。
「途中で具合悪くなってごめん。でも今日は楽しかった。明日もよろしくね」
「こちらこそ! 明日も楽しみです」
おこめさんの声も弾んでいた。
お別れした後、電車の中で今日を振り返る。
今日は、本当に楽しかった。
明日も、おこめさんの笑顔をもっと見たい。できればこの先ずっと。
さっきの面接、大丈夫だったのかな。
今ごろ、おこめさんは美香さん達と電話してるんだろうか。
◆◆◆
◎おこめの視点
ホテルに戻ってから、美香、舞とグループ電話をする。
窓の外、東京の明かりが宝石箱のようにキラキラ輝いている。
「今日は、ありがとう。遠慮なくぶっちゃけで、どう?」
これが気になっていた。
ソーダさんが大丈夫な人かどうか、自分でちゃんと判断できている自信は無かったから。
「どうだったもなにも、止められないでしょ。宇宙人の探査ロボが、恋する乙女になるとはね……」
「そんなに恋する乙女でした?」
「なってたなってた」
美香に即答された。
「んー、優しそうな人じゃない? 仕事のことも変にごまかさなかったし、浮気もしなそう」
舞も穏やかに言ってくれる。
「同じ意見。ぶっちゃけ、あやのスペックに釣り合う男なんていないと思ってたけど、ソーダ君みたいな人は、意外とあやに合ってるかも」
二人とも、反対じゃないみたいでホッとする。
「でもさ」
美香の声色が低くなった。
「あやのこと隠してって言われたから、普通の会社員で東京に住んでるってことにしたけど、これからどうすんの?」
「これからって?」
「本当は2回も会社を売った超お金持ちで、3社目も、たまにニュースになるくらい成功してるでしょ。シンガポールに住んでるし。いつかは隠せなくなるよ」
美香が冷静に聞いてくる。
痛いところをつかれた。
「……でも私は、本当の私を好きになって欲しいんです」
「本当の私とか言って、嘘ついてるけど!」
容赦ない舞のツッコミに、心が痛む。
舞の言うとおりだ。
女の子の私だけが、本当の私じゃない。
大金持ちで有名起業家な自分も、私だ。
でもソーダさんには、ただの女の子として私を見てほしい。
隠してでも、嘘をついてでも。
舞が続けた。
「でも気持ちはわかるよ。お金目当てじゃないか、みたいになるのは良くなさそうだし」
美香が、さらに詰めてきた。
「普通に、ニュースとかでバレるかもよ?」
ごもっとも。
正直、不安はある。
「わかってます。でも、せめてもう少しでも。お付き合いして、もっと仲良くなって、結婚を考えられるくらいお互いが分かるまでは」
「そこまで隠されたら、むしろソーダ君、傷つくんじゃない?」
そうかも、と思う。でもどうすれば良いのか。
心配してくれているのは分かるけど、泣きそうになる。
美香の意地悪。
「まあまあ、難しいことは置いておいて、まずは明日を楽しんできなよ。あやは今、恋する乙女なんだから」
舞が、重くなりかけた空気を断ち切って元気づけてくれる。
美香も優しい声で続けた。
「たしかにね。今日の感じだと、ここまで来て何も言わないヘタレじゃなさそうだし。楽しんでおいで!」
思わず照れ笑いした。
「そうだよね。ありがとう!」
将来の不安は棚上げして気持ちを切り替えてみれば、明日が楽しみだ。
窓の外では、夏の月が冴え冴えと輝いていた。
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