夏の終わりは
8月22日
「ベータテストも31日で終わりか〜」
「ずっとここに居たいよな....」
オゼは夜に蒼風の街を一人歩いていた。何をするわけでもなく、ただ、ぼんやりとこれまであった事、人、情景などを思い出しながら。
ポツンポツンと付いている家の明かりが、今日は寂しく思えた。
小さなベンチに座り、ヌーンに貰ったタバコを吸う。煙が静かに手から離れ、空中に消えていく。
「私の大事な物って、消えていくんだよなぁ....」
この日、ステラ運営から解決困難な問題が発生したため、ゲームの開発を中止する旨のアナウンスがされていた。プレイヤーからは失望や怒り、嘆きの声が世界中から寄せられ、一大ニュースになった。
オゼは露店でビールを一本買い、近くでヤケ酒している人たちの側で、ぎこちなく剣でビールの王冠を開けた。
「俺はなー。ヒクッ、ここに永住するつもりだったんだ」
「オイラもさ。現実なんてクソだからな」
オゼはビールを飲みながらスクショを見返した。
「素敵な笑顔....楽しかったな〜」
ビールを一気に飲み干した。
ポツポツと小雨が降ってきた。小雨は次第に大粒の雨になり、雷も鳴り出した。雨は服から染み込み、ゆっくり体温を奪っていく。鼓膜に伝う雷の衝撃に怒りを感じる。
「コーヒー飲みたいな」
オゼはカフェに入った。
カフェの中の客はまばらで、みんな、どこか浮かない顔をしていた。
「お客様、砂糖は入れますか?」
「ブラックで」
大きな窓の側でゆっくりコーヒーを飲む。
そう言えば、今日は何も食べていないことを思い出した。オゼは角砂糖を齧ってみた。
「クルスさん、まだお店続けてるかな....」
ゆっくり視線をカウンターの奥にあるスノードームに向ける。スノードームの中の雪が、まるで流星のように思えた。
「サンクさん優しかったな」
オゼは、窓に映った寂しげな自分の顔を見て、目に薄っすら涙が滲む。
「なんで....いつもこうなるの」
数時間、時間を忘れて店で物思いにふけっていると、雷雨は止んだ。店を出ると朝焼けが眩しかった。オゼはフラフラと歩き出した。
夕はログアウトした。
ベッドに座り、いつも以上に静かに感じる真夜中に、怒りと焦燥感を感じる。
机の上のおにぎりが固くなっている。
「この夏がずっと続けばいいのに....」




