永遠の夏
8月31日
ベータテスト最終日。夕はこの日、いつものログイン時間からは数時間遅れてインしようとしていた。
「うん、さっぱりした。私ボブも似合うじゃん!」
朝早く起き、掃除をし、美容室に行っていた。
「夏ももう、終わりだね〜」
茹だる様な真夏のピークが過ぎて、朝晩は少し涼しくなっていた。
「みんなでスクショ撮りませんかー。誰でも参加OK!」
蒼風の街は大賑わい。酒を酌み交わす者、無料で豪勢な食事を振る舞う者、歌手さながらの歌を披露する者、無限に踊る奴。
「嬢ちゃんも飲まない?パエリアもあるよ」
オゼはスクショを撮りながら、ゆっくりと街を練り歩く。初めてここに来た時のことを思い出しながら。
ベータテストは現実世界の夜12時まで。それ以外ステラ公式からのアナウンスは無い。
オゼはみんなとは少し離れたベンチに、ちょこんと座る。貰ってきたパエリアを食べながら、ゆっくり背筋を伸ばした。
すると、辺りがざわつき始めた。
「か、カンストプレイヤー!?」
「本当だ、スゲー」
「トッププレイヤーきちゃ」
見ると、顔に大きな刀傷があり、両手剣を背負った大男のプレイヤーが、ノシノシこちらへ歩いて来る。
ヌーンだ。
「よう。元気してたか?オゼ」
「元気してましたよ。落ち込む日もありましたけど」
オゼは驚くこともなく、平静に答えた。
「ヌーンさんとまた会う気がしてました」
「そうか....。今日で終わりだな」
ヌーンは焼き鳥を食べながら、清々しい顔で言った。
「終わりですね....」
「俺はおまえに救われたんだ」
「え!」
オゼが少しむせった。
「強さばかり追い求めていた俺が、おまえに出会って、この世界には他の魅力もあることに気付いた。景色を眺めたり、うまい飯を食ったり、仲間と会話したり....本当に楽しんだ」
二人は、草原を撫でるような爽やかな風に包まれながら、気が済むまでタバコを吸った。
日が暮れていき、街は少し、しんみりとした雰囲気になっていった。
「終わっちまうのか....」
ヌーンは涙を堪えきれなかった。
「いいえ。この夏は永遠なんです」
オゼは凛とした表情で言った。
「ベータテストは一瞬でも、思い出はずっと在る。だから永遠なんです....」
終了まで残り1分。
夜空に花火が打ち上がる。
すると
「ステラありがとうー」
「楽しかったぞ!」
「一生待つぞ」
「忘れないよ」
「次は新大陸追加してくれ」
「ビール最高だった」
「またお会いしましょう」
みんな自分の思いを叫び始め、手を大きく振り出した。
オゼはその様子をじっと目に焼き付ける。
オゼが何かを言おうとしたその時
サーバーメンテナンスの為、通信を切断します
ベータテストは終わった。
夕はゴーグルを外し、暫く一点を見つめていた。
次第に夕の瞳から大粒の涙が流れ、涙は頬をつたい、握りしめていた手の甲に雨のように滴り落ちた。
「....思い出をありがとう。ステラ」
おわり
最後までお読みいただきありがとうございました。
自分の実力不足は重々承知してますが、また書いてしまいました。
次もよろしくお願いします。




