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宇宙戦争 ―遠い朝に蘇る―  作者: 鈴田在可


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3 サンセット

「教授、飛び下りないでください!」


「指令」を受けたヘルストは、とにかく自然に囲まれたくなり、期日までは好きに過ごしていいと言われたこともあって、人型戦闘兵器に乗りグランドキャニオンの崖上に一人降り立っていた。


 切り立った崖上に立ち尽くし、何をするとはなしにしばらく絶景を眺めていると、ユノの乗る濃いピンク色の機体が夕焼け空の中を飛んでくるのが見えた。


 ユノもサンセットを一緒に見たいのだろうかと思ったが、なぜか彼女はコックピットのハッチを開けるなりヘルストの自殺の心配をしてきた。


 思わず笑ってしまう。


「飛び下りるわけないよ、大丈夫だ」


 微笑みながら返すヘルストを見て若干安堵した様子のユノは、機体から降りるとヘルストに近づいた。ユノは訓練中だったのか、私服のヘルストとは違い戦闘服のままだった。


「何をしていたんですか?」


「夕焼けを見ていたんだ。一緒に見る?」


 促すと、ユノも太陽の沈みゆく渓谷の地平線に視線をやったが、その表情はやや思いつめた様子にも言える。


「綺麗だよね」


 ユノを見つめながらそう言うと、彼女が絶景から視線を離してヘルストを見つめ返してきた。


「教授が再びコールドスリープに入る件、お聞きしました」


 ヘルストはユノの言葉を受けてゆっくりとうなずいた。


 ヘルストが冷凍睡眠から目覚めて、その日のうちに異星人たちの襲来を退けてからそろそろ二年ほどが経つ。


 その間、人間と動物をかけ合わせたような姿の異星人たちと何度か交戦はあったが、毎回ヘルストの破滅的強さに大打撃を受け、撤退を余儀なくされ続けた彼らは、とうとう停戦合意に応じる旨を告げてきた。


 和平交渉が進み、戦争が終わってからもう一年だ。


 再び異星人との戦争が勃発する可能性はあるが、政府はその時になったらまたヘルストを起こせばよいと――むしろ鬼のような強さを維持できる年齢のまま早めに眠りに就いた方がよいだろうと――、再び彼にコールドスリープ装置に入る命令を出してきた。


 ヘルストはまたいつ目覚めるかわからない眠りに就く。


 加えて、コールドスリープは失敗の危険性もなくはないので、凍り付いたまま二度と目覚めずに、この世と永遠の別れになることもあり得た。


 優秀なパイロットをみすみす死なせることは政府にも大打撃だろうが、危険を承知で断行しなければならないほど、「異星人の侵略」は地球にとって脅威だった。


 ユノはヘルストのメンタルを心配して追いかけて来たようだが、彼の冷凍睡眠自体には反対しないだろう。ユノもヘルストと同様に政府の人間である。


 二人はしばらく無言のまま太陽の沈んでいく様子を眺めていた。


「今夜はどうされるおつもりですか?」


 太陽の残滓が消えて青と黒の混じった空色が濃さを増す中、ユノがそう切り出してきた。


「明日の朝もここで日の出を見たいから、近くで泊まれる所を探すよ」


「私も教授と一緒にいてもいいですか? 朝まで」


 意味がわからないほどヘルストも鈍くはない。


 頭の中では『駄目だ!』という天使と、『行け!』という悪魔が戦いを始めてしまう。


 出会った時は16歳だったユノも、ついこの前成人したばかりだ。彼女の成人祝いパーティに参加したことは記憶に新しい。


 あの時は、このままユノとずっと同じ時を過ごせたらいいなと思い始めていた。


 しかし、再び使命を受けたヘルストはユノとずっと一緒にはいられなくなった。


 思いを固めたヘルストはユノに一歩近づいた。するとヘルストの接近に彼女の身体がビクリと反応する。


 普段ユノは物怖じせずに度胸もあるが、今回は大胆なことを言うわりには緊張しているらしい。

 

 手を伸ばしたヘルストは、小さな子供にするように、ユノの頭にポンポンと軽く触れた。


「戻りなさい。ユノがいなくなったら『ヘルストさん』が心配するよ」


 ヘルストと同じ名前であるユノの父親の存在を出すと、気まずいのか、彼女はうつむいた。


「戻りなさい」


「……はい」


 ユノは何も言わずしばらくうつむいていたが、再度帰宅を促すと、弱々しく返事をした。


 ヘルストは、覇気のなくなったユノの表情は見ないようにしてコックピットに乗り込み、同じく機体に乗り込んだ彼女とは別々の方向へと飛び立った。


(あの時と同じだな……)


 一度目のコールドスリープに入る前、ユノの祖母ユキとも恋人になりかけたが、ヘルストは再びその道を選ばなかった。


 ユノのことは好きだが、彼女とはもう一緒にいられなくなるのだから、無責任なことはできないと思った。

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