04探偵泣かせ『過去見魔法』
どど~んっ!
爆音を轟かせて3人は魔法使いが圧死した時間のちょっと前の時間と場所へ跳躍してきた。
因みに『過去見魔法』は時空間を跳躍するが、過去には干渉出来ないので当時の人たちには3人の姿は知覚出来ない。
つまり今の3人は見えないし触れも出来ない幽霊的な存在なのである。そして幽霊だから壁などの障害物も意味をなさない。それ故何処でも出入り自由。当然結界もスルーである。
そして今、魔法使いは生活道具一式がなくなり殺風景となった小屋の中で床に直座りしている。そして画像通話アイテムを使って不動産屋と明日の最終確認について打ち合わせをしているところだった。
「これ、不動産屋。明日の最終査定確認は期待しておるからな。色よい値段を提示してこないと酷い目に合わすぞよ。」
魔法使いの恫喝とも取れる買い取り価格上乗せ要求に電話の向こうからは「勘弁して下さいよ~。」との声が漏れ聞こえてきた。
だが、魔法使いは更に被せてくる。
「心配するな、物件自体は最高級クオリティとなるように我が魔法で隅々までリフォームしたから貴様も満足するはずじゃ。特に小屋周りは突風魔法でゴミ類をきれいさっぱり吹き飛ばしたからな。うむっ、今はまるでその昔隕石が墜落した『ツングースカの森』みたいに小屋を中心にして放射状に木々がなぎ倒されておる。なので見晴らし抜群じゃっ!」
魔法使いの言葉に不動産屋はかなり慌てたようだ。その理由を耳にした魔法使いは自分のやった事が法律的にまずいと知る。
「えっ、周りは国有地だから無許可で木を倒すのはまずい?およ、そうなのか?むーっ、ならば木々だけは戻しておくか。なに、大丈夫じゃ。折れたところはご飯粒でも付けておけば1ケ月後にはくっついておるじゃろう。仮に枯れたとしてもそれは自然の摂理じゃ。我のせいではない。」
いや、その状況で木が枯れたとしたら、それはほぼほぼ魔法使いが発動させた突風魔法のせいだろうから思いっきり魔法使いのせいだと思うのだが?と、魔法使いと不動産屋のやり取りを幽霊的な立場からその場で聞いていた3人はそれぞれの心の中で突っ込んだ。
ただ、魔法使いの言葉の中に殺人現場を密室化させていた状況証拠のひとつである、小屋周辺の地面にうっすらと埃が積もっていた原因についての説明はあった。
そしてこの事が、魔法使いを圧死させた犯人がまだ小屋の中にいるのではないかという根拠の元となっていたのである。
何故ならば事件後の小屋周辺の地面には不動産屋の足跡しか残されていなかったからだ。
さて、その後不動産屋とのやり取りが終わった魔法使いは、明日の最終査定確認において査定額アップのアピールポイントになるかも知れない小屋のセキュリティシステムを確認しようとしたようである。
「そう言えば、このセキュリティシステムは今まで発動した事がなかったが、ちゃんと機能するのかのぉ。おっ、なんかテストモードというやつがあるらしいぞよ。どれポチっとな。」
<ピっ、テストモード起動。テストグレードを指定して下さい。>
「むっ、グレードがあるのか。まぁ、一番高いやつがちゃんと動けばその下位も当然動くであろう。と言う事で、このスペシャル・デンジャラス・スーパー・ウルトラ・メガ盛りをポチっとな。」
<ピっ、最終確認です。スペシャル・デンジャラス・スーパー・ウルトラ・メガ盛りのテストモードが選択されましたが本当によろしいですか?>
「おっ、さすがはセキュリティシステムである。ちゃんと確認してくるのじゃな。まぁ、こうゆうのを嫌がる輩もおるが、こうゆう確認こそが転ばぬ先の杖である。なのでOKをポチっとな。」
<ピッ、スペシャル・デンジャラス・スーパー・ウルトラ・メガ盛りのテストモードの実行指示を確認しました。これよりスペシャル・デンジャラス・スーパー・ウルトラ・メガ盛りのテストモードを実行します。セキュリティシステムの影響範囲にいる方は衝撃に備えて下さい。テスト開始まで後10、9、8・・。>
「ふむっ、衝撃とな?あー、じゃがここで『全方向防御魔法』を使ってはシステムの強度を実感できん。まっ、所詮はテストじゃ。衝撃と言ってもちょっとびっくりするくらいのものであろう。なので『全方向防御魔法』はOFFじゃっ!よしっ、ばっちこいっ!スペシャル・デンジャラス・スーパー・ウルトラ・メガ盛りがどれ程のモノか我が確かめてしんぜようっ!」
魔法使いの気合の言葉が終わると共に、セキュリティシステムのカウントダウンも『0』となった。
その途端、ガタガタと小屋が揺れだす。そして次の瞬間魔法使いは強力なチカラで押さえ込まれたかのように床へ倒れこんだ。
「ぐぬぬぬ、どうゆう事じゃ?何が起こった?やけに体が重く感じるがのぉ。」
見えないチカラによって床に押さえ込まれながらも魔法使いは呑気な事を言っている。
だが、ちびっ子探偵隅田川コロンと事故調査委員、よろず課員の3人は大空めがけてぐんぐんと上昇してゆく小屋をポカンと口をあけて見上げていた。
そう、なんと魔法使いの小屋は只今絶賛3G加速で天空目掛けて飛翔しているのだ。つまり魔法使いがやけに体が重いと感じたのは加速により擬似慣性質量が増加した為である。
しかも驚け、そんな凄まじい加速をしていても小屋自体に損傷は見られない。本来これ程の加速をしていたら10秒後には時速約1058km/hに達し、高度は1.47kmに到達しているはずだ。
そんな状況に木造の小屋が置かれたとしたら普通は風圧でバラバラになるはずである。
だが、セキュリティシステムで守られている小屋は窓ガラス1枚割れていない。上昇時の風圧により小屋自体はガタガタと振動しているがそれだけである。
そうゆう意味では、この小屋に掛けられているセキュリティシステムは相当優秀なものなのだろう。
しかしそんな上昇も60秒後には加速が止まった。だが、その時点での到達高度は実に53kmにも達していた。
とは言え小屋自体にはまだ上向きの慣性が働いているのでゆっくりではあるが惰性で上昇を続けている。
因みにこれくらいの高さになると区分的には成層圏と中層圏の境である。そしてこの高さになると大気は地上の1千分の1くらいなので空気はほぼないのと同じだ。つまり限りなく真空に近いのである。
だが、小屋はセキュリティシステムのおかげで空気の流出がないらしく、小屋の中は1気圧が保たれているようだった。
で、漸く上昇加速度による圧迫から解放された魔法使いは、やれやれと言った体で床からむくりと立ち上がると、状況を確かめる為に窓へと向かった。そして遥か眼下に広がる地上を見た。
「おーっ、これはびっくり。セキュリティシステムのテストモードって宇宙船になる事じゃったのかぁ。じゃが我としては巨大ロボットに変身してくれた方が嬉しかったがのぉ。むーっ、そうゆうオプションはないのかのぉ。」
頭が状況を拒否して現実を受け入れようとしていないのか、はたまた本当に気にしていないのか判らないが、魔法使いはこの状況に対して然程慌てた様子はなかった。
まぁ、確かに60秒前には地上に居たのにセキュリティシステムのテストモードを発動させたら地上から55kmの上空に居たなんて事は普通は受け入れられまい。
というか、この魔法使い、見た目は華奢なのによく3Gもの上昇加速に耐えたな。訓練している者でなければ普通は気を失うぞ?
だが、質量を持つモノは何かしらかの支えや浮力を有していない限り空には浮かんでいられない。
なので上昇する慣性が地上からの引力と相殺された途端、小屋は物理法則にしたがって落下し始めた。
因みにこの場合は自由落下になるのでその加速度は1Gだ。これは地上からの重力と等しいので必然的に小屋の中は無重力状態となる。
ぷかぷか。
「なゃははははっ!これは愉快、ゆかいっ!うむ、まさか小屋の中で無重力ごっこが出来るとは思わなかったぞよ。これは地上に降りたらもう一度やるかのぉ。」
いや、何を暢気な事を言っているのだ?今、小屋は地上に向けて1G加速で落下しているんだぞ?確かにその加速度は上昇時の3Gよりも小さいので地上に到達するまでは100秒程かかるが、上昇時の緩やかな加速停止と違い、落下時の加速停止は地面への激突だから、その時の衝撃は1千G以上だ。
いや、自由落下の場合は空気抵抗により速度の上昇が時速400kmくらいで止まるはずなので衝撃は100Gくらいかも知れないが、それでもぺしゃんこになるには十分な値だ。
つまり如何にセキュリティシステムの結界が高性能だとしても、この衝撃に耐えられるとは思えない。
そう、物理法則的にはあり得ない・・のだが、ここは魔法が存在する世界である。そして魔法使いは2級の上位だった。
いや、実は実力としては3級の能力を有していたのだが、面倒がって昇級試験を受けなかったので肩書き上は2級だったのである。
そして3級魔法使いにとって高々100G程度の衝撃を小屋ごと中和する事など昼飯前だったのである。




