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2-1 風の最上級妖精

 小瓶やら羊皮紙やら、物で溢れかえった店内は少し埃臭いように感じた。それにもかかわらず店内の見える範囲には埃など溜まっている様子もなく、なんならガラス製の小瓶はさっき磨かれたかのようにピカピカと照明の明かりを反射している。

「アル、お客さん帰ったの?」

 ころころと鈴を転がしたような甲高い声が店の奥の方から聞こえてきた。

「あぁ、帰ったからもう出てきていいよ」

 チェリン、とアルロフがその声に答える。すると、店内であるにも関わらず店の奥から薫風が吹き抜け珠のれんを揺らした。同時に森の中のような爽やかな匂いが店内を包む。

「ねぇねぇ、さっきの小細工(・・・)やっぱりやりすぎじゃない?」

 そこまでしてお客さん増やしたいわけ? 、と呆れた声で店内に顔を出した少女はクリクリとした水晶の瞳をだるさげに半眼にしている。腰ほどまである白緑びゃくろくの髪は肩に掛けるように流して空いた手に遊ばれていた。

 チェリンことチェリン=シルフと呼ばれる彼女は、妖精の森ができる以前からアルロフに仕えている主に風を操る最上級妖精である。妖精であるのだが、春、夏、秋、冬のどれに属するかというと実はどれにも属さない。妖精の春夏秋冬の区分は妖精の森ができてからのものであり、それ以前から生きている彼女には適応されないのだ。

「だっていると思う? こんな専門店街の果ての方にあるちっぽけな刻印屋にわざわざ足を運んでくれるもの好きな妖精が」

 ただの刻印屋なんてこの専門店街にどれだけあると思ってるの、とアルロフはしっかりと麦色の髪を結んでいた紐を解く。

「にしてもやっぱりやりすぎ。店内に宇宙の投影、魔力の可視化……。大道芸がしたいわけ?」

 店内をコトコトと歩きアルロフの前に仁王立ちするチェリンは頰を膨らませ彼を睨む。

「ちょっとは、こっちの身になって考えてよ」

 さっきの演出全部私がやってたんだから、と絶妙な力加減でアルロフの胸元をポコポコと殴っていく。

「分かってる、分かってるって。地味に痛いんだから止めて」

 ありがとね、と自分の肩ほどの背の彼女の頭を雑に撫で豪快にアルロフは笑った。

 そう、先程アウネとライネに見せた刻印の光景は実を言うとパフォーマンスのようなものだった。刻印はただ魔力を注ぎながら刻印を書き組むだけの作業なのだ。インクに魔力を流すところまでは本当に必要なことなのだが、あの店内が宇宙のようになったりカタカタと音がなったりする現象はただの演出に過ぎない。そしてその演出の大半を担ったのがチュリンである。

「でもこうでもしないとお客さん集まらないし、生活もできないんだからしゃーない」

 諦めて、と懐に入れていた小さな小瓶を取り出す。

「ほら、前言ってた木イチゴ。食べたがってたでしょ?」

 今回のお礼ね、と何も言わずに差出されたチェリンの手のひらの上に小瓶を置く。

「そうそう、これこれ」

 出かけられないからアルにしか頼めないんだよ、とため息を漏らす。

 現在、最上級妖精は王家の妖精だけだと考えられているが実際は違う。チェリンのように妖精の森ができる前から生きている妖精は公にはなっていないが実は何人かいる。最上級妖精は妖精の森に住む一般的な妖精に比べると姿形が異質であった。より精霊という神に近い存在に姿形が似ているのである。薄い色素に異様に長い羽、そして線の細い華奢な体つき。どれをとっても一目見て最上級妖精であることが分かる。

 よって身を隠すために彼らは基本妖精達が暮らす里や城下には姿を現さないのだ。

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