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1-5 刻印の準備

「お待たせしました。まだ全工程は終わっていないのですが、折角なのでお二人に刻印の過程をお見せしようと思いまして」

 照明の光を反射してキラリと光る金属製のペンと若葉色のインクが入った小瓶、そしてアウネのシャベルを持ったアルロフが店の奥から顔を出した。そして珠のれんをジャラジャラと肩で退けながら店内に戻ってくる。

 時計を見ると三十分も経っていたようだが、体感としては十分程。それだけ店内が二人のあまり馴染みない物で溢れかえっていたことがわかる。

「え! いいんですか!」

「見てても大丈夫なんですか?」

 アルロフの言葉に興奮を隠しきれないのか二人は思わず羽をバタつかせる。

「えぇ、勿論です」

 なので落ち着いて、とアルロフは2人の前に慣れた手つきで刻印用の道具を綺麗に配置していく。

 やっと真上の照明から光が当たったおかげで、金属製のペンには飾り細工がされていることが分かった。どうやら四季それぞれの花と妖精が精密に掘られているらしい。

 飾り細工は少し骨ばった彼の手にとても馴染んでいて、長年愛用していると思われた。

「では最後の刻印の工程に移ります。と言っても、名前を掘り入れるだけですが」

 その言葉にアウネとライネはアルロフの手元を興味津々で凝視する。

「あの、そんな大したものじゃないので」

 そこまでガン見しなくても、とアルロフが言うものの2人は、まだかまだか、と言わんばかりにアルロフの手元に集中している。

「めったに刻印している場面なんて見れないので!」

「刻印って絶対すごいんでしょ!!」

「……分かりました、すぐ始めますね」

 拳を握りしめて瞳を輝かせる2人の様子に折れてアルロフはとっとと刻印をすることにした。

 始めますね、という言葉と同時にアルロフはアウネの魔力が注がれた若葉色のインクが入れられた小瓶の蓋をポンと音を立てながら開けた。

 するとスノードロップ特有のまるで雪の中にひっそりと咲く力強くも凛とした温かい匂いが店内に立ち込める。心なしか、香りと共に螺鈿らでんの様に輝く魔力の欠片が空気中を漂っているような気がした。

 大量の物が棚や床の木箱に並べ入れられている狭い店内に三人居るのにも関わらずシン――と静まり返っていた。のだが、小瓶の蓋を開けた時から、店内のあちこちからカタカタといくつかの小瓶が揺れる音がする。

 音と匂いに反応して親子二人はキョロキョロと店内を見回す。一方、アルロフは小瓶と金属製のペンに右掌を、左胸に空いた手をかざし瞳を閉じる。

 少しの間があったかと思うやいなや、バッと音がするんじゃないかと思われる勢いでその瞳は開かれた。

 その瞬間、店内は暗闇に覆われ、彼の周りにそらに浮かぶ星々の様な細かい光の粒子が円を描くように広がった。これまでになく見開かれたアルロフの瞳には通常時に増して銀河のような光彩が見られる。まるで店内が満天の星空に溶けてしまったようだった。そんな、なんとも幻想的な光景が広がっていた。

 妖精界に生まれた時から住んでいるアウネとライネにすらそう思えるのだから、ここまで美しい光景は世界できっとここだけだろう。

 彼の周りを飛び回る無数の粒子は何度か対流しカウンターに置かれた金属製のペンへと流れ込んでいく。それに比例するように店内の照明は段々と明かりを取り戻していった。

「これで準備は整いました」

 名前を刻んでいきますね、とアルロフはペンを手に取る。

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