1-4 刻印用のインク
「なんですか、これ?」
「綺麗な色ですね」
アウネとライネは突然目の前に置かれた小瓶とそれを置いたアルロフを交互に見た。
「これは今から刻印するために使う特別なインクです。物によって違いますが、これはスノードロップの蜜ですよ」
「スノードロップって言うと、あの綺麗な白い花のことですか?」
「そうですよ。スノードロップは『春を告げる花』ともよばれているんです。きっと春の郷に住んでいるアウネさんに合うと思って、予約が入った頃に取り寄せたものなんですよ」
自分が選んだインクが依頼者ニ人が満足している様子を見て、アルロフは、それでは、と話を進める。
「この小瓶の中のインクに向かって自分の魔力をめいいっぱい流してみてください」
刻印の前にまずこれをしなければならないので、とアルロフは小瓶の周りに手をかざして魔力を流すイメージをアウネに教える。
「まぁ、取り敢えずやってみてください」
「わかりました」
促されるままアウネは取り敢えずアルロフがやっていたようなポーズをとってみるが、どうも緊張して手が震えてしまう。なんせ魔力を使うのは仕事の修行の時だけであまり馴染みがないのだ。
「緊張しなくても大丈夫よ〜」
ほらリラックス、と能天気に応援するライネの声に内心アウネはキレながら目を閉じて魔力を注ぐことに集中する。
少しの間そうしていると手のひらから何か温かいものが流れ出す感覚がした。
「アウネさん。その調子です」
上手く出来てますよ、というアルロフの声を聞きアウネは閉じていた目を開ける。
「わぁ、え、凄く綺麗!!」
先程までほんのり黄金色をした透明のインクは春の木漏れ日に当たった若葉の色に変化していた。
「所有主の魔力によってインクの色が変化するんですよ」
「そうなんですね〜」
「とにかく、これで準備は整いましたね」
いつの間にかカウンターの上にいくつかの道具を置いたアルロフはにっこりと微笑んだ。
「アウネさんの仕事道具をお貸し頂いても?」
「はい、お願いします」
そう言ってアウネは、自身の肩に紐を掛けて背負っていた腕の長さ程のシャベルをカウンター越しのアルロフに手渡す。このシャベルを掘り返すことで僅かながら土に栄養をあたえるのだ。
「では、三十分ほどお店の中を見て待っていてください」
刻印してくるので、と言った彼は金属製のペンと
アウネの魔力が注がれた小瓶、そして刻印の図案が描かれた羊皮紙をもって店の奥へと入っていった。
「母さん、刻印ってそんなに時間がかかるの?」
店の棚に置かれた薬草や種類の違う紙、そして何かは分からないが店内のロウソクの照明に当たって輝いている小瓶を見て回りながらアウネは、同様に店内を見回しているライネに向かって聞いた。
「いいえ、普通は十分くらいよ。でもあなたの刻印はだいぶ細かいから、きっとそれくらいかかるのよ」
出来上がりが楽しみね、とライネはアウネに笑った。そしてアウネも、うん、と笑い返した。




