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1-2 刻印屋のエルフ

「お久しぶりです、アルロフさん。刻印の予約をしていたライネです」

 ライネが先導して足を踏み入れた店内は物こそ溢れかえっているが、整頓されていて一種の静けさが感じられた。

 カウンターらしき場所には誰も立っておらず、店の奥の方でガサゴソと何か動かしている音がする。

「あぁ、ライネさん。いらっしゃいませ」

 今日は娘さんの仕事道具に刻印する予約でしたね、とその人物はカウンター奥から珠のれんをめくって店内に入ってくる。

「?!」

 その瞬間、爽やかなミントの香りが店内を包んだ。陶器のような白い肌。腰元まである麦色の髪は一つに束ねられていて、顔の脇に垂れた髪の隙間からは異様に尖った耳が顔を覗かせている。


 刻印屋の店主は、エルフだった。


「え、母さん。お店の人ってもしかしてエルフさん?」

「そうよ。城下町でも珍しいエルフの刻印屋さんよ」

 そう言ってライネはにっこりと微笑んだ。

 エルフは妖精の森の住人であるが、妖精ではない。いわば異民族のような者である、と各郷の大人達は子どもたちに教えられている。真実を知っているのは実際にエルフが住み着く以前から妖精の森に住んでいる、上級よりも更に上の最上級妖精(ロイヤル•フェアリー)の王家の妖精のみだ。いや、正しくはだった。

 というのも、妖精の森を作った妖精王オベロンとその妻ティタニアは五十年程前に他界しているのだ。よって、その真実を知っているのは、妖精の森ができて間もなくニ人の間に生まれた現•妖精王-スペイル=コーノーグルのみと言われているのである。

「アルロフさん、ニ週間後に春の郷で英霊祭があるんです。今年でこの子も遂に一人前の妖精になるんです」

 どうかこの子の将来が良いものであるように素敵な刻印をよろしくお願いします、とライネはアウネの頭を手で抑えて共に深々と頭を下げた。

「勿論です。素敵な刻印をいくつか用意しているので一つ選んでください」

 どれも考えるに考えて作った刻印なんです、とアルロフは顔にかかった髪を尖った耳に掛け、カウンターの下から彼の肩幅程ある木箱を取り出した。

 中には何かが描かれた三枚の羊皮紙が入っているらしい。

「アウネ、今から選ぶ刻印は一生使うことになるんだから真面目に選びなさい」

 真っ直ぐと箱の中を見つめるライネに倣ってアイネもまじまじと覗き込んだ。

「わぁ、すごく可愛いし綺麗!!」

 よくよく見るとそれぞれの紙には円が描かれていて、その中に更に細かい絵が描かれていた。

 一つは花々に囲まれた妖精、一つは植物の芽と戯れている妖精、そして蝶たちと共に飛ぶ妖精。そしてどの絵にもアイネ=ディオデンとアイネの名が組み込まれている。

 黒一色のペンで描かれているはずなのに生き生きとしている。線の書き込み量からアルロフの熱量が想像できた。

「母さん、一生使うってどういう事? これが刻印なの?」

「そうよ、1人の妖精に刻印は一つ。とても大切なものなのよ」

「よくわかんないよ……」

 いくら大切なもの、とい言われたってその大切さがアウネには、いまいち分からない。

「刻印についてなら私から説明しますよ」

 アルロフの提案に、それなら、とライネは説明を頼んむ。どうやらライネ自身、刻印について詳しくは知らないらしい。

「まず刻印とは、妖精の所有物として確定するためのものなんです」

 そう言って、アルロフは自身が制作したアウネの刻印の候補を眺めながら朗々と説明を始めた。

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