4-3 奥から十三番目の路地
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外に出て路地の影から大通りを見てみると、やはりというべきか警吏が数人街を出歩いていた。
既に夜は更け、専門店街の妖精通りは更に活発になっている。
「やっぱ変装魔法しかないか」
透明化は魔力消費が大きいし、何より光が少ない。
急いで耳を手で覆い、目を閉じる。そして決まった文言を唱える。
「ふぅ、よし」
耳も尖ってないし、瞳の色も変えた。一応、ローブのフードも被って置いたほうが良さそうだ。
エーリにローブを返してもらっておいて良かった。
これからアルロフが向かうのはバンシーの館。
バンシーは、死の預言者といわれている女の妖精だ。人間界では目を真っ赤に泣き腫らし、コウモリのように泣き叫びながら夜空に飛んで、死を告げ知らせると言い伝えられている。
特に偉大な人物が死ぬ時、大勢のバンシーの泣く声が夜空に響くとも言われている。
そんなバンシーの一族が住むのは専門店外の奥から十三番目の路地を突き当たりまで行った所にある、と妖精達の間では噂だが実際の所は分からない。
バンシーは不吉な妖精として、妖精達からも忌み嫌われているのだ。
アルロフの店が大体、専門店街の奥から二十番目の路地あたりに位置するのを考えるとここからはだいぶ遠いことが分かる。
「行くしかないか……」
本音を言うと行きたくないのだが、アルロフは彼女に確認しなければならないことがあった。
出来るだけ周りを確認して、しかし怪しまれないように、アルロフはそろりと路地から身を出して専門店街の奥へと歩き出した。
四十分ほど歩いただろうか。五分程前にアルロフの店の前を通ったから、バンシーの館まではもう少しだと思われる。
流石にここまで専門店街の奥まで来ると妖精通りはまず無い。アルロフは出来る限り闇に紛れるようにバンシーの館を目指した。
途中、警吏ともすれ違ったが深くローブを被っていた事もありアルロフであることは気付かれなかった。軽く会釈をしてやるとあっちも手を挙げて挨拶してきたが、顔は上げずこちらも手を挙げて挨拶してやったら警吏は去っていった。
「ここだ……」
レプラホーンの靴屋からだいぶ歩いた。アルロフは件の専門店街奥から十三番目の路地の入り口に立っていた。
路地の奥には明かりが一切無い。仕方なくアルロフは右手を出し星の光源を出す。
王城の神殿の入り口を思えば、何も怖いものはない。バンシーの館には何度も足を運んだことがある。彼女達もアルロフの事を迎え入れてくれるだろう。
そう思い路地に足を踏み入れる。自然と温かさを感じた。
「お、おう……」
そして目の前にはバンシーの館があった。
いや、いくらなんでも近すぎる。以前来た時はこんなにも近くなかったはずだ。
歓迎されているのだろうか。
アルロフは、取り敢えず目の前に現れた館の両開きのドアのドアハンドルを手前に引いた。
ギィ――、という不気味な音を立てながら開いた建物の中は明かりが灯っているものの少々薄暗い。これがバンシーの館である。
中にはアルロフと同じぐらいの背のウェーブのかかった赤髪の整った顔の女性が待ち構えるように立っていた。
「アルロフさん、お待ちしておりました」
そう言って深々とお辞儀をした女性がバンシーである。
「フィリさん、まさか貴女が直々に迎え入れてくださるとは」
レプラホーンの紹介状が無駄になってしまいましたね、とアルロフは眉尻を下げて笑った。
フィリ=バンシー、彼女は現•バンシーの一族の長である。闇に溶け込むような緑の色の簡素なドレスに灰ネズミの色の長いローブを羽織っている。
人間界の言い伝えでは、醜い姿で伝えられているが実際は美しい姿の妖精である。バンシーの泣く姿は人の死が悲しくて泣くのだ。
「今回は急ぎですので私が対応しています。仕えてくれている妖精達は居たら騒ぐので城下町の祭りに行かせているんです」
だから気にせず中へ、と彼女はアルロフを奥の部屋へと案内する。
部屋は館の入り口に比べて、一層暗かった。部屋の中央には一脚のテーブルと二脚の椅子が置かれている。テーブルの上では一本の蝋燭がゆらゆらと赤く燃えていた。
「ではアルロフさん、先にそちらから」
椅子に座り互いに向き合う。バンシーの白い顔が炎の灯りに奇妙に照らし出されていた。
「貴方には今、何が視えているのですか?」
そう問うバンシーの瞳は三日月のように細められているが、口元は笑っていなかった。
次回の更新は4日の21:00です。お楽しみに。
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