4-2 レプラホーン
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ドアの先は外の暗さを忘れてしまう程、昼間のように明るい空間が広がっていた。
大体アルロフの店の二倍程の大きさの空間には両脇に天井まで伸びる年季が入っている木製の棚が配置されている。棚の中には、それぞれ形や色が違う革製の靴が並べられていた。
天井には沢山のランタンが吊り下げられていて、その光を全ての靴が反射し綺麗に艶がでているあたり、店主のこだわりようが見て取れた。
「なんだ、アルロフか」
嗄れた声で返事をし、店の奥から顔を出したのは背がアルロフの腰ぐらいまでしかない小さな老人だった。
皺だらけの顔に髭をこれでもかというほど伸ばし、小さな丸眼鏡をとんがり鼻に乗せ革のエプロンを付けたその姿は、まさに職人と呼ぶに相応しい風貌だった。
「邪魔してるよ、ちょっと警吏に追われててね」
レプラホーンが出てきたのを確認したアルロフは、苦笑しながら挨拶した。
「また何かやらかしたのか。今回は食い逃げか?」
冗談めかしく言って、レプラホーンは一度奥に戻りティーポットと三つのカップを木のトレーに乗せて戻ってきた。
「私にまで……。申し訳ないです」
「そう言わずに飲みなさい。ずっと歩き通しだったんだろう?」
エーリが三つ目のカップが自分への物だと気付き、慌てて遠慮するがレプラホーンは全て分かっているかのようにポットの紅茶を進める。
「ありがとうございます……」
その行為に甘え、エーリも恐縮しながらカップを受け取った。
「で、原因はそこのお嬢ちゃんかな?」
全員に茶が回り、一息付いたところでレプラホーンはそう切り出した。
「まぁ、そんなところ」
アルロフが紅茶を飲みながら軽く答えるのに対し、エーリはカップを手に持ったままコクコクと頷く。
緊張気味のエーリの様子に気付いたアルロフは、そう言えば紹介がまだだったな、カップを近くにあったカウンターに置いた。
「エーリ、彼はレプラホーンと言って見た通りの靴職人さ」
一部の界隈では結構有名な職人なんだよと紹介する。
「ブローグ=レプラホーンだ。ったく、なぜアルロフは名前を覚えようとしない」
「だってレプラホーンって、直ぐに代替わりしちゃうから覚えらんないんだよ」
レプラホーンが呆れた様子で愚痴るのに対し、アルロフは全然気にした素振りがなく紅茶を飲み続けた。
レプラホーンは妖精達の靴を作る専門の靴職人である。靴を作るだけでなく、踊り好きな妖精達が底を擦り減らした靴を直したりもしている。しかし、その場合は片方の靴のみを直す捻くれ者でよく妖精達に靴を大切に使うようにと怒り散らかしているらしい。
「そちらは?」
自身の紹介が終わり、レプラホーンは小さい眼鏡越しにエーリのことをギロリと見つめた。
「え、エーリ=ワーソンと言います……」
レプラホーンの眼光に怯みエーリの声は尻すぼみになる。一方、レプラホーンは名前を聞いて、やはりな、と呟いた。
「人間のお嬢ちゃんか」
これまた面妖な奴をアルロフが連れてきたもんだ、とレプラホーンは笑い口元にカップを運ぶ。
「で、アルロフは俺にどうして欲しいんだ?」
流石にそこまでは分からんぞ、とため息を付き半眼でアルロフを見る。
「この娘を一晩預かってほしい。あとバンシーへの紹介状を頼みたい」
頼めるか、と言うアルロフの両手はカップをギュッと握った。
「それだけでいいのか? というかお嬢ちゃんはそれでいいのか?」
不安そうだぞ、と言うレプラホーンにアルロフは、大丈夫だ、と言い切る。
「それに、この娘をバンシーの所に連れて行くのはリスクがある。もう専門店街まで警吏が来ているはずだ」
俺はこの娘を連れながらバンシーの所まで行ける自信がないよ、とアルロフは決まりが悪そうに言った。
「ちなみに、ここまできて事情を説明しないって事は俺は知らない方がいい事なんだな?」
「察せるようになったなレプラホーンの坊主」
その通りだ、とアルロフは笑う。レプラホーンのブローグとはブローグが生まれた時からの知り合いである。
「もう俺も老い先短いジジイだがな」
その言葉にレプラホーンも笑った。
「じゃぁ気をつけろよ」
エーリを寝泊まりするためのレプラホーンの店の地下の部屋へ連れて行った後、レプラホーンは紹介状をアルロフに向ける。
「バンシーは変わり者だからな」
嬢ちゃんは任せろ、俺の地下室ほどこの妖精の森で安全な場所はない、そう言ってレプラホーンはアルロフの背中をバシバシと叩く。
レプラホーンの地下室は人間界でも伝承として有名である。彼の地下室には沢山の宝が納められており、捕まえると金持ちになれると言われているのだ。
「大丈夫、バンシーの一族とも旧知の仲だよ」
そう言って、アルロフは大事に紹介状を受け取った。
「お前、本当にとんでもなく顔が広いよな」
「まぁ、だてに長く生きてないよ」
嗄れたレプラホーンの言葉にアルロフは若々しく笑う。
「じゃあ、エーリの事を頼んだ」
「分かった」
レプラホーンの返事を聞き、アルロフはドアノブに手を掛け、外へと出た。
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