4-1 妖精の森の夜
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王城を出た時、既に太陽は眠るように沈み始める夕方の時分になろうとしていた。
空には一点の夜空に輝く恒星のように赤く光る太陽が鎮座している。西のインペリアルトパーズのような透き通るような橙の空は、東に行くにつれて深い海色の空へと変化していっている。
空に斑に浮かぶ綿菓子のような入道雲は陽の光に照らさてれ紅くほんのり色付いていた。
そんな空の下、アルロフとエーリは透明のまま王城の入り口を通り抜け、城下町を歩いていた。
「あの……、エルフさん?」
どこまで歩くんですか、と小声で今にも城下町の喧騒に呑まれてしまいそうな声色で呟く。
城下町は昼に増して賑やかだ。
一日の終わりが妖精達の一日の始まり。そんな決まり文句がある程、妖精達の夜は賑やかだ。
仕事をするために人間界へと出かける者、町に繰り出して酒を喉奥に流し込み陽気に踊る者。それぞれが活動し始めるのが夜なのである。
「アルロフです」
この先の専門店街に信頼出来る妖精が居る、それまで耐えて、とアルロフは水と光の魔法を解き素早く自身が羽織っていた深緑のローブを頭からエーリに被せた。
同時に自身の長い耳を押さえ目を閉じる、ブツブツと文言を唱えた後、目を開けた時には彼の姿は大きく変化していた。
麦色の艶のある髪はそのままである。しかしそれ以外がそれまでとは大きく違った。
あれ程までに尖っていた長い特徴的な耳は妖精と同様に丸みを帯び、銀河のように煌めいていた瞳は新緑の緑の色をしていた。
その様の変わりように、エーリは声こそ口に出さないが目をまんまるにしてアルロフのことを凝視する。
「簡単な変装魔法です」
気にせず歩きますよ、と声を掛け足を進める速さを上げる。
辺りを見渡すと当たり前のように警吏の妖精が街を見回っているのがアルロフの視線が捉える。きっと警吏内の意思伝達でアルロフとエーリが追われているのは知られているだろう。
出来る限り、妖精達に紛れ込まなければ。ここで捕まったら意味がない。
自然とエーリの手首を掴む手に力が入る。エーリがその力に口元を歪めるが、それにアルロフは気づかない。
そのまま歩き続けて、二人は専門店街に入った。太陽は完全に眠りにつき、空は濡羽色に変化していた。太陽の代わりに空に浮かぶのは青白い奇妙に美しい小ぶりの月。
専門店街は城下町に比べたら静かであるが、夜市が出たり、各里を回る行商の妖精があちこちで商談を行なったりしており、十分賑やかだった。
それぞれの店先のランタンは中で土蛍が爛々と光を放ち辺りを照らしている、道を往く妖精達はホオズキの提灯を持ち、どこからか聴こえてくる陽気な音楽に合わせて時々ターンをしながら歩いていく。
アルロフが目指している店は、そんな専門店街の九番目の路地を入った所にある。
「もうローブのフードは外しても大丈夫ですよ」
普通に話す分には問題もありません、とアルロフは左手の中指と親指を滑らせパチンと音を鳴らす。
「あ……」
アルロフが音を鳴らした途端、彼の姿は魔法をかける前のエルフの姿にたちまち戻った。変装魔法を解いたのである。
「大丈夫、専門店街は専門店街の妖精の自治区だから基本的に警吏は居ない」
ここまで何も説明出来なくてすみません、とアルロフは軽く頭を下げる。
「助けてもらった以上、そんな事で謝っていただくなんて」
一方、エーリは彼の態度に困惑した。
「それにきっとエル……じゃなくてアルロフさんの方が絶対年上なんですから敬語は止めてください」
居心地が悪そうに眉尻を下げエーリは続けて言った。
「そうですか……」
貴女がそう言うのなら、とその言葉にアルロフも折れる。
そんな話をしているうちに二人は九番目の路地の入り口までたどり着いていた。
「直ぐそこを曲がった所の店が目的地だ」
店主の妖精は少し気難しい質だけど悪いやつではないから、と前置きをしてアルロフは店の黒くくすんだ黄色の扉のドアノブに手をかける。
「レプラホーン、居るか? 入るぞ」
そう言ってアルロフは返事を待つことなくノブを回し扉を開いた。
次回の更新は4月2日21:00です。
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