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3-3 隠し部屋の存在

 慌てて他のタペストリーに触れてみる。しかし他のタペストリーの裏にはしっかり壁がある感触がした。

 もう一度、中央の大木のタペストリーに触れてみる。ゴワゴワとした生地はとても温かく感じた。

 スカッ――――。

 やはりここだけ(・・・・)壁がない。大木が織られたタペストリーの部分だけ壁がないのだ。

 やはり、神殿には何かがある。アルロフはここに来て確信を持った。人間が現れたころから生きる彼の感がそう言っている。


 進むしかない。


 それがあの二人が望んだことなのだ。ただの友人で居続けてくれ、とだけエルフに祈った無欲な王と妃が望んだことなのだから。

 バサッ――――。

 タペストリーに跡がつくほど握った手を勢いよく持ち上げる。

 そこにあったのは隣接する部屋への短い通路だった。

 神殿内は四方に置かれたランタンのおかげで真昼の明るさほど明るいのに対し、その部屋は夕闇の時分を思わせる明るさだった。

 しかし、アルロフ自身が光源を作る必要があるほど暗いわけではない。

 恐る恐る、一步一步足を進めていく。

 短い大理石で綺麗に整えられた通路を通り、その部屋へとそっと足を踏み入れる。


 その部屋にはまさしく、夜があった。


 薄暗い灰を敷き詰めたようなグレーの天井には月が一つ浮かび、周りにはあるかないか分からないほど頼りない星々が浮いている。

 それに加えて、甘ったるく体に絡みついてくるような異様な香り。花や蜜、砂糖菓子とは比べものにならないほどのそれは、まさに今にも気が触れそうな危険な匂いだった。

 部屋の中央には妖精が二人ほど寝れそうな、大きな木製のベッドが置かれている。

 なぜこんな所に? その疑問がまずアルロフの頭に浮かんだ。

 ベッドに近づくにつれて、まるでベッドにある何か(・・)の匂いを隠すようにむせ返るような甘い香りが強まる。

 ベッドの上に掛け布団を掛けて寝かされていたのは、二人の若い人間(・・)の男女だった。

「なぜ人間が……」

 思わずアルロフの口から驚きの色をした言葉が漏れる。

 本来、王城にましてや妖精の森に存在しないはずの人間がそこにはいた。

 眠っているが、彼らはどこか諦めたような精気を感じさせない顔をしていた。

「?」

 斜めにずれた掛け布団をアルロフが直そうとすると、男のほうの足が見えた。異様に白く、男の足とは思えないほど滑らかな肌だった。

 足の生え方も上半身の位置に対して、おかしいとしか言えないほどベッドの中央から生えているように見える。

「……ゴクッ」

 思わず生唾を飲み込んだ。

 きっとこれがこの妖精の森の在り方を大きく変えてしまうようなものであると感じた。

 掛け布団を握る右手が小刻みに震える。手だけではない、両ひざが笑っている。


 緊張などではない。


 想像の範疇に収まらない妖精の森の闇。

 それに想像が出来ない、その二人の人間への恐怖。

 体が、本能がその掛け布団をめくるることを必死に拒んでいる。

「クソッ」

 ここまで来て怖気づいている自分にアルロフは舌打ちをした。

 ここまで来たんだ。神殿に来る途中から覚悟をしていたはずだ。

 バッ――――。

 意を決して布団を持ち上げ、床には捨てる。

「ッう゛ぅ」

 その銀河の瞳に映ったベッド上の光景を前にアルロフは咄嗟に口元を覆う。

 人間の肉が腐った匂いが鼻腔を通過して体内に流れ込んでくる。吐き気がした。


 そこには、下半身が無理やり繋ぎ合わされた切傷だらけの人間の男と女の体があった。

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