2-4 仕事内容
暫くの間、と言っても十五分程度、アルロフも先に到着していた刻印屋達に倣って案内された大部屋の中を見て回った。
五十年前は妖精王達の顔を見に通っていたため、このような事務部屋には入った事がなかった。
部屋に入った時はカーペットと照明に目が行っていたが、それよりも室内に並べて用意されていた木製の長机と椅子にどうしても惹かれる。何か異質な、しかし温かいそんな雰囲気がするのだ。
近づいて見てみると草花や鳥、獣達が精密に掘られている事が分かった。
「……なるほど」
加えて机の裏にはそれぞれ妖精王家の刻印が描かれていた。妖精王家の刻印は妖精個人が持っているそれとは、また違ったものである。
妖精個人が持つそれが所持者である妖精の力を最大限に出すという目的で描かれるのに対し、妖精王家の刻印は妖精王家並びにこの妖精の森の所有物という意味で描かれるのだ。
部屋のあちこちに置かれる花を模した壺や四季折々を描いた絵画にもどうやら同様に刻印が施されているらしい。部屋のあちこちから妖精王の魔力を感じた。
きっとティタニア妃の趣味なのだろう。あの人は、美しい自然を愛していたから。
今は亡き旧友達との思い出にふけながら、アルロフは窓から外を眺めた。大木の中間とはいえ、十分に高さがある。
遠くを見てみると妖精の森の東に位置する春の郷が小さく見えた。
そういえば、あの親子は今頃どうしているだろうか。そんな事を思いながら窓に手をかけていると、宰相様がいらっしゃいました、という声が部屋の入り口からした。
「刻印屋の方々。本日は我々の召集に応じてくださり、ありがとうございます」
そう言って深々と頭を下げたのは宰相と名乗る青年の妖精であった。切れ長の目にフワフワとしたうなじまである濃紺の癖毛が印象的な人物である。
昔の妖精王の側近達は、魔力こそあるが地位を愛していた様な者達であったためアルロフはあまり好きではなかったのだが、彼には好感が持てそうである。
「単刀直入で申し訳ないのですが、皆様にはこの話が終わった後には直ぐにでも仕事に入ってもらうことになります」
恐縮した顔で言う彼は宰相というよりも、演劇を仕事としている人物のように見えた。
「その仕事というのは具体的に……?」
「刻印をするのは何となく予想はしていたのですが……」
何をすればいいのか、と宰相の言葉に対して何人かの刻印屋が声をあげた。見回す限り、呼び出された刻印屋の中でエルフなのはアルロフだけらしい。というより、妖精の森ではエルフはとても希少な種族なのだ。道を歩けば会えるほどそこら辺にいるわけではない。
それぞれの不安な声に対し宰相は、勿論、説明します、と薄っぺらい笑顔で答えた。その表情にアルロフはどうしても引っかかった。
過去にどこかで彼に会った事がある気がしたのだ。
「皆さんには『人間に妖精王家の刻印を描く』仕事をして頂きたいのです」
アルロフがそんな不審な目を向けられる中、青年宰相はそうゆっくりと告げた。




