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戦しか知らない将軍に一目惚れした私。彼が私に本気になったら、誰にも止められませんでした  作者: *ほたる*


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8話 彼が目を逸らした理由

 ドン――ッ!!


 床が震える。

 続けて、鋭い金属音。


 キィンッ!!


「な、なに……!?」


 飛び起きる。

 見慣れない天井。

 一瞬混乱するが、すぐ思い出す。


 ……ここは、異世界。

 まさか、誰か戦ってる!?


 あれだけの音なのに、何の騒ぎもない。

 ……おかしい。


 耳を澄ませば、衝撃は外――庭の方角から響いている。


 嫌な予感がして、縁側へ駆け寄る。

 思いきって襖を開け放った。


「何が――」


 一歩、踏み出した瞬間――

 視界の正面から黒い影が迫った。


 ふいに体を横へ引かれる。

 それと同時に、誰かが弾き飛ばされてきた。


 縁側を越え、襖の内側へと滑り込んだのは――

 ユーリス。


 大剣を振り下ろしたヴァルガスの一撃を、刀で受け止めきれず、吹き飛ばされたのだ。


 けれど。

 体勢を整えたユーリスは、すぐに立ち上がる。


 乱れた呼吸もない。

 静かに刀を構え直す。


「……まだだ」


 低く、真剣な声。

 ヴァルガスが大剣を肩に担ぐ。


「ほう」


 次の瞬間。

 踏み込み。


 刀と大剣が真正面からぶつかる。

 キィィン――!!


 甲高い金属音が庭に響き渡る。

 衝撃で砂が舞い上がる。


 ……。


 ……いや、

 朝からやることじゃなくない?


「危なかったね」


 背後から声。


「さ、サイガ!?」


 さっき腕を引いたのはこの人か。


「おはよう。あれ、毎朝だから」


「毎朝……?」


 庭では、再び衝撃音。


 ヴァルガスの大剣が振り下ろされ、

 ユーリスが一歩引き、受け流す。


 無駄のない動き。

 空気が、張り詰める。

 ただ、研ぎ澄まされた殺気。


「紅の國の目覚ましだよ。

 皆、あれで起きるんだよね」


「……」


 廊下に誰もいなかった理由が分かった。

 館中が、この金属音で一日を始めているらしい。


「すごい国ですね……」


 思わず本音が漏れる。

 サイガがくすりと笑う。


「でしょ?」


 庭では再び刃がぶつかる。

 火花が散る。

 サイガが、わざとらしく肩を寄せてきた。


「で? あれ見ても、まだユーリスのこと好き?」


「ちょ、ちょっと! 声大きいです!」


 思わず小声で抗議する。


「大丈夫だって。聞こえてないよ、あの二人」


 庭では、まだ刃と刃がぶつかり合っている。


 キィン――。

 衝撃音の中、二人とも実に楽しそうだ。


 ……楽しそう、というのも変だけど。

 真剣そのものなのに、どこか生き生きしている。


「最初の印象とは、だいぶ違いますけど……」


 思わず本音が漏れた。


「でも、あんな顔を見てると……って、サイガには関係ないでしょう!?」


「あはは。まぁね」


 絶対楽しんでる、この人。


「それより」


 サイガがふっと視線を下げる。


「その格好、まずくない?」


「え?」


 自分を見る。


 ……あ。

 寝巻きのままだ。


「え、えっと……朝のご挨拶にこのままじゃ失礼ですよね」


「いや、そういう問題じゃ――」


「ユイカ!?」


 声に振り向くと、いつの間にかユーリスがこちらを見ていた。


 視線が合う。

 心臓が跳ねる。


「おはようございます、ユーリスさん」


 軽く頭を下げる。

 しかし、ユーリスは固まったままだ。


「……?」


 どうしたんだろう。

 次の瞬間。


「っ……失礼する!」


 真っ赤な顔で、ユーリスはくるりと背を向けた。

 そのまま早足で縁側を離れていく。


 え、待っ……、


「……あーあ」


 隣でサイガが肩をすくめる。


「ちょっと刺激強すぎたね」


「刺激?」


「だから――」


「ユイカ」


 低い声が割って入った。

 振り向くと、ヴァルガスが歩いてくる。


「よく眠れたか?」


「は、はい。おはようございます、将軍」


 その瞬間。

 ヴァルガスの目が、わずかに見開かれた。

 そして苦笑する。


「なるほど。あやつが取り乱すわけだ」


「え?」


「着物が乱れておる」


 言われて視線を落とす。


 ……あ。


 走ったせいで、合わせ目がずれている。

 胸元が、少しだけ。


「なっ……!?」


 慌てて両手で押さえる。


 うそでしょ!?

 今までこの格好で!?


 ゆっくりと、サイガを睨む。


「サイガ……知ってましたよね?」


「言ったじゃない。まずいって」


「なんでもっと早く言ってくれなかったんですか!?」


「だって、あのままの方が面白いじゃん」


 にやりと笑う。


「……ユーリスさんに見られちゃったじゃないですか!」


 顔から火が出そうだ。


 その日、ユーリスさんとまともに目を合わせられなかったのは、言うまでもない。

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