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戦しか知らない将軍に一目惚れした私。彼が私に本気になったら、誰にも止められませんでした  作者: *ほたる*


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6話 異世界から来たと告げた日

「改めて問おう、ユイカ。

 そなたのような娘が、なぜ戦場に一人でいたのだ?」


 館の一室で、ヴァルガスは静かに口を開いた。


 そこにいるのは、ヴァルガスとユーリス、サイガ、そして結花の四人だけだった。


 大勢の前で話さなくて済むことに、少しだけ胸を撫で下ろす。

 ……もしかしたら、ヴァルガスの配慮なのかもしれない。


 ゆっくりと息を吸う。

 さっきよりも、頭は冷えている。


「最初に……伝えておきたいことがあります。

 私は……この世界の人間ではありません」


 部屋の空気が、わずかに揺れた。

 ユーリスが目を見開く。


「本気で言ってる?」


 サイガの視線が鋭くなる。

 ヴァルガスは、何も言わない。ただ、じっと結花を見ている。


 疑われるのは分かっている。

 それでも、嘘はつけない。


「元いた世界では……

 人が集まって学ぶ場所で、普通に生活していました。

 その屋上で足を滑らせて――

 気づいたらあの戦場に……」


 自分で言っていても、荒唐無稽だ。


「俄かには、信じ難いな」


 ヴァルガスが静かに言う。

 結花は小さく頷いた。


「……そう思われても、無理もないと思います。

 私の国には、戦はありません。

 刃物で人が殺される光景なんて、

 ほとんど見ることもなくて……」


 思い出しただけで、指先が冷える。


「何が起きたのか分からないまま……

 混乱していたところを、

 ユーリス将軍に助けていただきました」


 あのままだったら、確実に死んでいた。

 今でも、背筋が寒くなる。


「ですが……

 私の世界にも、昔は戦の時代がありました」


 結花は一度、言葉を選ぶ。


「だから最初は、過去へ時間移動したのかと思ったんです。

 でも――」


 ユーリスを見る。


「ユーリス将軍の話を聞いて、それは違うと分かりました」


「……理由を聞かせてくれ」


 ユーリスの赤い瞳が、まっすぐ結花を捉える。

 その視線から、目を逸らせなかった。


「……私の世界では皆、似た名前を持っています。

 響きも言葉も――こちらとはまったく違う」


 三人の視線が集まる。


「それに、紅の國なんて国は存在しません。

 人の見た目も……ここまで違いはありません」


 結花はヴァルガスを見上げる。


「将軍のような赤い髪の方は、私の世界にはいないんです」


 サイガがわずかに片眉を上げる。


「……つまり?」


「私の知る歴史とは決定的に違う。

 だからここは、過去ではなく――別の世界なんだと、思いました」


 沈黙が落ちる。


 ヴァルガスは腕を組み、静かに目を閉じる。

 ユーリスは難しい顔をしている。

 やがてサイガが息を吐く。


「……さすがに、それは信じろってほうが無理でしょ」


 当然の反応だ。

 結花は小さく笑う。


「ですよね。でも――」


 ここまで来たら、隠す意味はない。


「私の家系は、少し特殊なんです」


 三人の視線が、再び結花に向く。


「私の世界には、特別な力を持つ人間がいます。

 “超能力”と呼ばれるものです」


 空気がぴんと張り詰める。


「そして……私の家は、その力を受け継いでいます」


「特別な力、とは?」


 ヴァルガスが静かに問う。

 結花は頷いた。


「兄は――前世の記憶を持っています。

 侍だったことも、学者だったこともあると」


 サイガの眉がわずかに動く。


「……他にもいます。

 普通じゃない人が」


 一度、言葉を切る。


「でも私は……今まで、何もありませんでした」


 自分の手に、視線を落とす。


「死にかけたことで、目覚めたのかもしれない――

 そう考えれば、辻褄は合います」


 沈黙。

 ユーリスは真剣な顔で結花を見つめている。


 ヴァルガスは目を細めたまま動かない。

 サイガが口を開いた。


「……証拠は?」


 当然の問いだ。


「異世界から来たって、証明できるもの」


 証拠。

 自分の格好を見下ろす。


 制服。黒タイツ。上履き。

 この世界では、見ない服だ。


 けれど――それだけでは弱い。

 左手の腕輪に目が止まる。

 祖母がくれたものだ。


 ……通知表、どうなったんだろう。

 どうでもいいことが頭をよぎる。


 そのとき。

 スカートのポケットに、硬い感触を覚えた。


 ――これだ。


 ポケットから、黒い板状の端末を取り出す。

 よく落とさなかったものだ。


 三人の視線が、一斉にそれに集まる。


「……何だ、それは」


 ヴァルガスが静かに問う。


「スマホ……遠く離れた相手と会話ができる道具です」


 そっと差し出すと、ヴァルガスは慎重に受け取った。


「見慣れぬ素材だな」


 そのまま何気なく画面をのぞき込む。


「……ほう」


 低い声が、わずかに変わった。

 サイガが身を乗り出す。


「中に、人がいるみたいに見えるね」


 ユーリスも眉を寄せた。

 画面には、結花と兄妹の写真が表示されている。


「それは“写真”です。その瞬間の姿を、そのまま残せるもので……」


 言いながら、スマホの画面を確認する。


「右が兄で、左が……妹です」


 ヴァルガスは静かに頷く。


「なるほど。確かに、我らの知る技術ではないな」


 サイガが目を細める。


「南方の異国文明……とも違いそうだね」


 ユーリスが結花の方へ向き直った。


「どうやって繋がる?」


 結花は目を伏せた。


「……この世界では、相手がいないので使えません」


 そう答えた、次の瞬間。

 軽快な音楽が、部屋に響いた。

 全員の動きが止まる。


「なっ……!」


 ヴァルガスが初めて大きく目を見開く。

 心臓が凍りつく。


 ――ありえない。


「貸してください!」


 スマホをひったくるように受け取る。

 画面には、見慣れた名前。

 震える指で通話を押す。


「も、もしもし!?」


『この大馬鹿野郎!!』



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