23話 少しは、好かれてると思ってもいいですか
小鳥のさえずりに、ゆっくりと目を開ける。
見慣れた天井。
……自室。
結花は布団の中にいた。
いつ、戻ったんだっけ。
しばらくぼんやりと天井を見つめていると、
昨夜の記憶が、一気に蘇る。
――抱きしめられた。
途端に、顔が熱くなる。
眠気なんて、一瞬で吹き飛んだ。
慌てて身体を確かめる。
制服のまま。
……夢じゃ、ない。
その先の記憶は、ない。
ということは。
ここまで、運んでくれたのは――
「……うそ」
布団の中で、思わず顔を埋める。
泣いて、
抱きしめられて、
そのまま眠るなんて。
……どんな顔をして会えばいいの。
羞恥と後悔で、胸がいっぱいになる。
けれど。
昨夜の声が、よみがえる。
―― 俺の前でまで、強がらなくていい。
―― つらいなら、俺に言え。
胸の奥が、じんわりと熱を持つ。
嬉しかった。
きっと、友情から来るものだ。
それでも、あんなふうに言ってもらえるなんて……思ってもいなかった。
「……少しは、好かれてるって思ってもいいよね」
小さくこぼしたその言葉は、すぐに空気へ溶けていった。
声に出してみると、ほんの少しだけ胸が落ち着く。
――とりあえず、今は先のことを考えよう。
今日は、大切な日だ。
「ユイカさん、いらっしゃいますか?」
襖越しに、なじみの侍女の声がする。
「あ、はい」
返事をすると、向こうから続けて声が届いた。
「これから将軍と重臣の朝議がございます。
その前に、将軍がお話ししたいとのことです。
その後の朝議にもご出席いただくように、と」
少し間を置き、丁寧に言葉を重ねる。
「まずは大広間へお集まりください、とのことです」
「分かりました。ありがとうございます」
足音が遠ざかる。
結花は深く息をつき、着物に着替えると、大広間へ向かった。
「あ、サイガ」
「ユイカじゃん。久しぶり」
大広間へ向かう廊下で、手をひらひらと振るサイガと目が合った。
「いつ戻ってきたんですか?」
「昨夜だよ。戦の“後処理”でね。もうくたくただよ」
「それくらいで音を上げるな」
背後から低い声。
「ユ、ユーリスさん!?」
振り向けば、そこに立っていた。
……どうしよう。
昨日のことが一気によみがえる。
「き、昨日はすみませんでした! あの、部屋まで運んでもらって……」
逃げたい。
でも逃げられない。
頬が熱くなるのを感じながら頭を下げると、彼は微かに笑った。
「謝る必要はない。……俺がしたかっただけだ」
どくん。
胸が跳ねる。
――だから、そういうことを言わないでほしい。
「お二人さん? そろそろ広間に行かないとまずいんじゃない?」
サイガがわざとらしく割って入る。
助かった。
「そ、そうですね! 行きましょうっ」
結花は勢いよく歩き出す。
背中に視線を感じるのは、きっと気のせいではない。
「……サイガ」
ユーリスが、低く名を呼ぶ。
「そんな目で見るなって。俺、悪くないでしょ?」
「……まだ時間はある」
ぼそりと返す。
「昨日から分かりやすいんだよ」
肩をすくめる。
「急に顔に出るようになったね」
くく、と笑う。
――後ろでそんなやり取りが交わされているとは、
結花は知らない。




