014_02_そんなこんなで女子トーク#1
さらに翌日、月曜日。いつも通りに大学に行く。セイは……まだ来ていないみたい。必修だし出席とるから、来ると思うんだけど。来たら話しかけよう。何だかんだ言っても、ゲームでケンカ別れなんて嫌だしね。ムリなら諦めるしかないけど、できる限りのことはしよう。
そう思いながら教室の出入り口に目をやると、ちょうどセイが入ってきて、こちらにずんずんと向かって来た。
「セイ、ちょっと――」
と、声をかけたのだけど、セイは答えることなく、というか目も合わせずに、わたしが座る席の横をうつむいて足早に通り過ぎ、後ろのほうの席に着いた。やっぱり、怒っているよね。わたしにあれだけ言われて、セイが怒らないはずないんだよね。
「聖子、どうしたのかな? なんかすっごく……いつになくブサイクだったけど」
わたしの隣の席に座る相沢 詠美――わたしとセイ、共通の友達――がセイをみて、ひそひそとささやいた。ブサイクってさらっとヒドイこと言うなあ。あんまり見えなかったからわからなかったけど、どんな顔してたんだろう? 気になったけれど、まもなく講師がやってきて授業が始まり、見ることはできなかった。授業終わってから再チャレンジだ。逃げられないように気を付けようっと。
その前に講義、講義。
「That's all for today. See you next week!」
よーし、終わったあ! 教科書やノートを片付け、セイのところへ行こうと思ったのだけど、彼女の方からやってきて、トン、と机に両手をつき、わたしの方をじっと見た。
あ、確かに詠美の言う通り、なんかブサイクだ。いつものぱっちりした目はぼんやり赤く腫れてアイラインが引けてないし、いつもはキメの整った肌もどことなく荒れている。うん、全体的に化粧のノリがよくない。
「リン、午後空いてるよね? ちょっと付き合って」
こっちから捕まえようと思っていたから好都合なんだけど、でもこの有無を言わさない感じはどうかなあ。体育館裏に連れていかれるんじゃ、なんて思っちゃったくらいだ。セイが武闘派なのはゲームの中だけで、まさか現実世界でそんなことはしないと信じているけど。
「じゃ、あたし三限もあるし、学食行くから、またね」
「あ、うん。またね」
気を利かせたのか、それともわたし達の間に流れるただならぬ空気にさっさと退散した方がいいと判断したのか、詠美はさっと手を振ると他の女の子達と行ってしまった。
「空いてるよ。っていうか、わたしも話したいことあるんだ。じゃあファミレスにでも行く?」
体育館裏は嫌だし、昼ごはんも食べたいし、ってことで提案してみる。学食だと混んでるし、知り合いばっかりだからこういうときには不向きだけど、ファミレスならそこそこ人もいないし、のんびりしても大丈夫だしね。いつもならカフェ・フォルトゥナなんだけど、ゲーム終了に伴って閉店してしまったんだよね。
ああ、惜しい店をなくしました。あの素晴らしい味と雰囲気がもう楽しめないなんて!
「うん、そうしよ!」
セイも了解してくれたので、大学から歩いて10分ちょっとのところにあるファミレスに向かう。
「ジョーと喧嘩して別れたー」
ドリンクバーからとってきたオレンジジュースを一口飲むと、やや唐突にセイが軽い調子で言った。
「へっ?」
さらっと言われた重い内容に、わたしはそんな間抜けな声を上げることしかできなかった。ああ、セイがいつになくブサイクな理由はそれなんだ。言われてよく見てみれば、グラスにかかる彼女の指にはいつも嵌っていたはずの指輪がない。
そうだよね、考えてみれば色々あったからそうなるのもありえるか。……って、あれ。わたしも別れた原因の一つじゃない?
「あの時はごめん。あんな状況だったからってのもあるけど、少し言い過ぎたと思う」
「それは……いいよ。あのときはムカついたけど、ウチもけっこうヒドイこと、色々言ったし……その……ゴメン」
セイは少し俯いた。前半ちょっと気になるけど、でもそう言ってくれるだけ嬉しい。わたしはいいよ、と笑って、セイに続きを促す。
「ずっと、ちょい気になってはいたんだけど、リンに言われてあらためてウチ、ジョーにはなんも言えんかったなって思って。それで昨日、ジョーにいろいろ聞いてみたんだよね。ジョーは結局、ウチのこと利用してただけなのかって。ホントはリカとはどうなのかって。でもジョー、なーんも答えてくれんくって」
肩を落とし、セイは大きくため息をついた。
「何か答えてほしいよね。何も言わないって一番辛いかも」
何を言っても無駄って思ってるのか、答えてもどうせいい答えは返って来ないから面倒とか、とにかく相手のことじゃなくて、自分が傷つかないことが第一って感じちゃうんだよね。もう、こっちに関心がないっていうか、どうなってもいいっていうか……。落ち込んでて、何か言ってほしいからこそ、余計に悪く考えちゃうのもあるけど。
「でしょ? 答えんってことはやっぱりジョー、もうウチのこと好きじゃないのかな、って思ったら、もういっしょににいられんくなってぇ……別れるって言ってひっぱたいてきちゃった。うん、まあ、これですっきりしたし」
はっきり言ってそうは見えない。けど、そういうことにして、先に行くっていうのも一つの手、なんだと思う。
セイは努めて、笑顔で振るまっていた。泣くのはきっと、もう昨日たくさんやったから、今日は誰かと一緒にいて、明るくしていたい、ってことなのかもしれない。だったら、わたしもそうしよう。
まもなくランチのハンバーグがやってきた。食べながら、セイはぷちぷちジョーに対する愚痴やら惚気やら、いろいろまとまりなく話していた。うーん、やっぱりちょっと未練がありそうな感じ。
ジョーっていうとわたしにはどうにも、わたしが白騎士団に入るって言ったとき、これまでとはガラッと変わって冷たく見下した感じの対応をされたのが強く印象に残っているからなあ……。ちょっともう、好きにはなれないな。
でもその前はすごく良い人だったのも事実だ。仲間に対しては凄く面倒見が良かった。強いリーダーシップを発揮して、カンパニーをまとめてたのも凄いと思う。運営の期待に応えて、しっかり仕事をこなしてた。いいところもたくさんあるんだよね。
「うーん……ジョーはゲームに没頭しすぎたせいで、良くない面が強く出ちゃったってところもあるのかも。
それに……あの時はああ言ったけど、利用してた、っていうよりは、ちょっとセイに甘えてるというか、このくらい大丈夫だろうって油断しちゃってたんじゃないかなあ」
結局のところ、プラスマイナス、いろいろある特徴のどこに重きを置くかってことなんだと思う。セイにとって今までは気にならなかったことが、今回の件で気になってしまったんじゃないかな。
「んー、だとしてもウチのこといちばんに考えてほしいし。ウチはやっぱ、ジョーと一緒にFXやりたかっただけだし」
セイは少し考えてそう答えた。よくある「仕事と私、どっちが大事なの!?」って質問で、私を選ばないとダメなタイプみたいだ。セイって確かにそんな感じするなあ。
わたしだったらどうかなあ? 絶対わたしじゃなきゃ、とは言わないけど、放っておかれるのはやっぱり寂しい。こういうのって結構難しいな、なーんて考えていたらふと、セイがじっとわたしを見ているのに気がついた。
あ、何かイヤな予感がする。




