013_04_二人で勝利を掴み取る#1
「セイ!!」
邪魔されるわけにはいかない。それに新型機の彼女に遠慮してたらやられる。先手必勝、わたしはブーストを使い、セイに猛然と打ちかかる。
「リン! ってかいきなり襲ってくるとかヒキョーじゃね? ま、ウチには通じんけど。それで勝てると思ってるとか、ありえんし」
でも、あっさりとわたしの攻撃は止められ、逆にはじき飛ばされてしまった。床に叩きつけられたわたしを、セイが呆れ顔で見下ろしている。
「ってかリンだったらうちじゃなくてもよくね? ってかカン、働けし……って、アレ? なにこの空気?? もしかして? まぢ? やべぇ、まぢウケる!!」
この状況から何を想像したのかは分からないけど、とにかく自分の想像がよっぽど面白かったらしく、セイは一人、わたしとカンを見比べ、お腹を抱えて笑っていた。その隙に、わたしは態勢を立て直す。
「笑っている場合か! とっととこいつらに――」
イライラしたショウさんの叫び声をかき消して、急にビー、ビー、とアラーム音が鳴り響いた。音のする方を探すと、ショウさんの後ろに置かれている、大きなパソコンの画面に、すごい勢いで何だかわからないアルファベットの文字列が流れているのが見えた。ショウさんが慌てた顔でぱっと踵を返し、画面に飛びつく。
「ようやく待っていたものが来たみたいですね。貴方をこちらに引き留めておくことができて良かった。おかげで書き換え、完了したようですね」
慌てるショウさんを、冷めた目で見つめてカンが薄く笑った。それを聞いたショウさんがピクリと肩を震わせ、くるりとカンの方を振り返る。カンの冷たい微笑を見て、何かを確信したらしいショウさんは、怒り心頭といった様子でカンに掴みかかった。
「貴様……!! そうか、やはりこれも河瀬の差し金か……!」
「うわ、実際に貴様とか呼ばれたの、初めてだよ……。しかも社会人に。しかし物凄く自然に言い切ったな」
怒りに震える男に襟首をひっ掴まれているにもかかわらず、緊張感のかけらもなくカンがぼそっと小声で呟いた。そのどうでもいいツッコミに、彼を助けなきゃって気がきれいさっぱり消えた。
それにしても一体、何が起きたんだろう? もしかして、これでゲートを閉じるの、完了なの?
「……ま、それは兎も角。前にも言いましたけど、別にレイさんから命令されているわけでも、彼のために動いているわけでもないんですよ。まあ、向こうが利用しているのだとしても、俺にはどうでも――いや、気にしてないわけじゃありませんけど――良いんですよ、利害は一致してますし」
カンは掴まれたまま、ショウさんに同情するような目を向け、静かに淡々とそう告げた。そして不意に、どこか自嘲的に薄く笑った。
「だけど、随分と強いコンプレックスを持っているんですね、レイさんに。そうでなかったら、俺になんぞ騙されなかったでしょうに」
「こいつに注意を引き付けさせておいて、その間にこれを……? くそ……まさか奴はもう、ゲートの制御方法を手に入れていたというのか……? こいつらが、それを探し当てていたというのか……!?」
ショウさんは耳に入らなかったのか、意図的に入れなかったのか、とにかくカンには答えなかった。彼はレイさんが引き起こしたらしい今のこの事態を、悔しそうに唇を震わせながら必死に考えていた。
けれど、すぐにパッと振り返り、コンソールの奥、分厚いガラスで囲われた、よく分からない装置の真ん中にぽっかりと開く、何か沢山のケーブルが這い出ている真っ黒な丸い穴――多分、これがゲートなんだと思う――をじっと見つめて、にやりとどこか陰のある笑みを浮かべる。
「いや待て、まだゲートに反応はない。今ならまだ間に合うかもしれ……いや、間に合わせてやる!」
ショウさんはカンを突き飛ばすと、
「念のためそいつらを決してコンソールに近づけるな! 必ず始末しろ! いいな!!
ここでこいつらに負けることがあれば、たとえ今回のイベントでソリドゥス陣営が勝ったとしても、次は無いぞ!!」
突然の展開にあぜんとしているセイをびしっと指さして睨みつけ、強い命令口調で叫んだ。
「ちょ、なに? まぢ意味わからんし! ま、いいや。はいはーい! ……って、もういなくなってるし。
ま、ウチがリンとカンに負けるとかありえんし。二対一でも負けるわけねーし。ってかこの二人なら自分でやりゃいーのに! だいたい……」
事態を飲み込めていないセイが悪態をついたけれど、当のショウさんは現実でレイさんが起こした何かに対応するためにログアウトしたらしく、キラキラした黒い粒を残して消えていた。
ええと……ショウさんの話からしてレイさんは何かゲートに影響のあることをした。だったら、やっぱりこれで終わりなのかな? 後は時間が経てば、ゲートが閉じる?
ううん、そんなはずない。レイさんが何かしたとしても、それは運営が管理している部分だけのはず。超越者が作ったゲートの発生装置のスイッチを切らなきゃ駄目だってことだったし、その具体的な方法は結局分からなかった。わたしがここにいるのも、ぶっつけ本番なわけだし。
それに、もしわたしの知らない間にレイさんが何か突き止めてて、それをカンも知ってるんだとしたら、ショウさんを現実に戻さず、フォルトゥナに引き留めるようにすると思う。
だからやっぱり、まだここで頑張らなきゃいけないんだ!
すぐにそう結論を出して、わたしはまだぶちぶちと文句を言っているセイにもう一度打ちかかる。まずは邪魔な彼女を止めなくちゃ。だけど、攻撃はあっさりとセイに防がれた。カウンターが来る前に、わたしはバックステップして距離を取る。
「あー、ムカつく!! ってかウチに勝てんの分かってるっしょ? リンなんて敵じゃねーし! ウチ、はやくジョー達んとこ戻りたいんだけど!!」
セイがイライラした声でそう叫び、こちらに踏み込もうとしたところに銃声が響いた。セイは大剣をヒュンと軽く振り、キンと乾いた音を響かせて銃弾を叩き落とす。
「え? 今、まさか剣で止めた? どうして、そんなこと……?」
完全に予想外だったらしく、カンが眉間にしわを寄せ驚きの声を上げている。いくらゲームの中で、凄い新型機を使ってるにしても、そんな漫画みたいなことが出来るなんて!
「ウチ、強くなったし!! けどまぢやばくね!? ってか強くなりすぎたんじゃね??」
セイは満面の笑みを浮かべはしゃいでいた。そんなセイを、苦々しげに舌打ちしながら彼は続けて撃った。けれど、やっぱり全て止められてしまった。
「あっれぇ? もう撃たんの? 弾切れ? それともあきらめた? もっとがんばらんと! そんなんじゃリンにきらわれちゃうよぉ?」
セイは余裕たっぷり、というよりこちらをなめきった様子でニヤニヤと笑った。油断しているならその隙をつけばいい。とにかく、セイを何とかしなくっちゃ!
「カンがやる気ないのはいつもの事! 今更気にしな……痛っ!」
ブーストを使い、こっちに注意を向けていないセイの無防備なお腹に剣を突き刺そうと飛び込む。でも、何か見えない壁でもあるかのようにガキンと固い音がして、わたしははじかれた。何で? 鎧の無い部分を狙ったのに!
「ふふ……特殊効果付きのレア装備だし!」
得意気にセイが笑い、剣でわたしを薙いだ。動きが大振りだったから、ガードすることはできたんだけど、めちゃくちゃ攻撃が重い。吹っ飛ばされて、そのまま床に叩きつけられた。
強い! ……そうだった、新型機は全身固い金属でできたロボット的な何かなんだった。だから攻撃が通らないのは別にセイの言うような特殊効果があるわけじゃない。
けど、さっきからいくらブーストを使ってもダメージ無しなんて! どうやって倒したらいいの!? ペットの自動回復のお陰で、体の痛みは消えたけど、心は折れそうになる。それでも、立ち上がらなきゃ。
起きて態勢を整えようとするわたしに、セイが大剣を振り上げて迫ってくる。間に合わない!
真っ二つにされると思ったその時、乾いた音が響いた。見上げると、カンが必死に、バトンでセイの大剣を受け止めていた。




