013_02_ゲートを閉じにソリドゥスへ
「早くアマネ達に加勢して、ゲートを目指さなくっちゃね」
力強い笑顔のマドカさんに並んで、トライホーンドラゴン駆除の仕事のとき、ジョーとセイ、それからカンと待ち合わせした勝利の門をくぐり、大通りを金騎士団の本部や探検家協会のあるソリドゥスの中心部に向かって走る。大通りに人影は無かったけれど、近づくにつれ剣戟の音や、叫び声が聞こえてきた。うっすらと銀騎士団の背中も見えてくる。
「ところで、結局ゲートは――」
そう聞こうとしたけれど、最後まで言えなかった。マドカさんがふいに、トン、とわたしを突き飛ばしたからだ。さっきまでわたしがいた場所を、何かがすごい速さで横切った。少し先の建物の壁に矢が突き刺さっている。後ろから飛んできた……?
慌てて振り返ると、大通りに繋がる路地の角、建物の影から覗くリカの姿が見えた。そしてそこに凄い勢いで迫るマドカさんの後ろ姿もあった。わたしも急いで、リカを警戒しつつマドカさんを追って走る。
「えっ、速……ちょっと、みんな、何やって……しっかりあたしを守……きゃ……あああっ……痛っ! あ……待って、あたしのクロスボウ! ど……どうするつもりよ」
何か鈍い音と、くぐもったうめき声の後、リカの悲鳴と怯えた声が聞こえてきた。路地に入ると、持ち主のいない壊れた武器が散らばり、その中心に武器をなくし恐怖に震えるリカがへたりこんでいた。えっ、さっきの一瞬でこうなったの? 怖い。
「舐められたもんだわね。こんな奴らを伏せておいただけで、どうにかできると思ってるのかしら。雰囲気イケメンも見通しが甘いなんてもんじゃないわ」
マドカさんはリカを見下ろして、ため息混じりに言った。リカは黙っていた。相変わらず動けないでいるものの、表情はさっきよりこころなしか余裕があるように見えた。何でだろう……あ!
大通りをはさんだ向かいの建物の影で、何かがきらりと輝いた気がした。わたしはそこらへんに転がっていた壊れた武器の破片をつかみ、そっちに向けて思いっきり投げた。ゴン、と鈍い音がした。
「ナイスピッチングだわよ! あら、でもしぶといのねえ」
マドカさんのいう通り、これで終わり、ではなかった。黒い鎧に身を包んだ、すらりとした長身の茶髪の男が、右胸の辺りを押さえて建物の影から出てきた。出会った頃の爽やかな笑顔はどこへやら、ジョーは唇を噛み締め、悔しさと怒りで顔を歪めて、一直線にわたしの方へ向かってくる。続けて破片を投げつけたけど、彼はそれを槍ではじいたり躱したり、とにかく意に介さず進み、わたしに襲い掛かってきた。
彼が凄い速さで繰り出し続ける槍を、わたしは盾で受け止める。やばい、何かくもの巣みたいなのが盾に浮かんでる。反撃しようにも、槍の方がリーチが長いから、もう少し踏み込まなきゃいけないし……。
「やった、間に合った!! ゴリオネエ、ぜってー倒すし!!」
苦戦しているところに、そんな元気な声と共に、ぶん、と大剣が空気を裂くが聞こえた。目の端に、セイがマドカさんに踊り掛かるのが映る。
「余所見してる場合じゃねえだろ!」
ジョーの鋭い突きを受けた瞬間、盾に入ったくもの巣が濃くなり、そしてパキンと音を立てて割れた。彼が勝ち誇ったような笑みを浮かべた隙に、意を決して踏み込み剣を振り下ろす。攻撃は当たったものの、ダメージは薄そうだ。もっと頑張らなきゃ!
「リン、アタシ達の敵はこんな奴らじゃないのよ。分かってるわね!」
ジョーと必死に戦うわたしに、マドカさんのそんな声が飛んできた。そうだった。リスクオンなんてどうでも良いんだった。彼らに足止めをくらってる暇なんてない。早くゲートのところに行かないと!
「でも、場所が――」
「とにかく広場の方に急ぐのよ! そこまで行けば、探検用情報端末が道を示してくれるはずだわ!」
「アイ、マム!!」
なんだかわからないけど、マドカさんがそういうならとにかくここを抜けなくちゃ。わたしはブーストを使って彼に渾身の一太刀を浴びせ、彼が怯んだ隙を見て猛ダッシュで広場へ急ぐ。マドカさんがきっちり止めてくれているようで、ジョーが追って来ることはなかった。
「おーおー、頑張るもんだな! お前ら、いつまでも遊んでんじゃねえ! 世の中の道理も、身の程も弁えねえ、真面目だけが取柄のバカ女にとっとと思い知らせてやれ!」
銀騎士団と金騎士団が戦いを繰り広げる広場の入り口のすぐそばまで来たところで、シンさんの余裕たっぷりな嘲笑が聞こえてきた。最前線からはやや後ろの方で、ニヤニヤしながら金騎士団の部下達をけしかけている。なにこの態度! イラっときたわたしは、とりあえずさっき拾った武器の破片を山なりに投げつけた。当たれ!
「ぐっ……!?」
シンさんのくぐもったうめき声が聞こえてきた。やった!
「シン!? 一体何が!?」
「皆さん、今がチャンスです! 騎士の風上にもおけぬ、欲望だらけの獣達を今こそ倒す時です!」
突然よろめき倒れたシンさんに、タクさんが慌てて駆け寄る。その隙をついて、アマネさんが青く輝く剣を閃かせ、金騎士団の人垣を切り裂いた。
「応! 行くぞ! 蹴散らしてやれ!!」
それに勢いづいたカレンさんはじめ銀騎士団の人々が、突然団長が倒れて浮足立つ金騎士団に襲いかかった。よし! わたしもこの機会に突破しよう。わたしは銀騎士団の人達が開いてくれた隙間を縫うように進む。わたしに気付いたアマネさんが、パチンとウィンクすると、わたしの近くにいた金騎士団員を片づけてくれた。よし、広場に侵入できた!
「で、この先はギアを見ろ、だっけ。この通りに進め、って事かな……? ええと……とりあえず、探検家協会に行けってこと、か」
ギアを開くと、赤い矢印で道が示されていた。矢印の指す先は金騎士団の拠点ではなく、探検家協会だ。なぜそこかはわからないけど、そんなことはどうでもいいんだ。それしかヒントはないんだから、とにかくギアの指示に従おう。わたしは協会に急ぐ。
探検家協会の建物の中に人はいなかった。イベント中だからなのか、その辺はよく分からないけど好都合だ。さて、どっちに行けばいいんだろう……とギアを取り出しもう一度地図を確認すると、探検家協会の館内案内図に、赤い矢印が引かれていた。これもレイさんが調べてくれたのかな? 最近はなんだかやたら道案内サービスが優しい。
矢印が示す方向に廊下を進み、奥にあった扉を開け、その先の階段を指示通りに降りる。地下室……かな。何となく今までのヨーロッパ風の瀟洒な内装とは雰囲気が違う。この石の壁とか、どっちかっていうと遺跡みたいな感じだ。やっぱりここがゲートのありかなのかな? って、進めば分かるか。
さあ、急ごう!




