013_01_,きっとミライを取り戻す
「君の探検家用情報端末に最後の遺跡の場所を送っておいたよ。さ、急いで急いで」
ログインするや否やレイさんがそう言いながら、わたしをツバサと飛竜のところへ引っ張っていった。
「じゃ、黎明の翼、頼んだよ! 道は彼女が知ってるから。何があっても、君は幸福な未来ちゃんを奪い返して遺跡を修復して! リン、君も頑張ってね。彼女を救い出したら、ゲートを閉じる方もよろしくね!」
そして早口に言って、わたし達を空へと追い立てた。慌ただしいな、と思ったけど、確かに時間もないんだっけ。わたしは飛竜に乗り込み、レイさんに元気よく「はい」と答えて手を振る。飛竜の背でギアのマップを開き、場所を確認すると幸いすぐ近くだった。ツバサに方向を告げて、しばらく飛んで貰ったら、眼下に森に半分飲み込まれた石造りの建物が見えてきた。
「私は必ず幸福な未来を取り戻し、破壊神の復活を防ぐ。彼女と二人で生きられる未来を掴む。たとえあの破壊神の化身が相手でも、私は必ず生き残り、それを成し遂げる。だからうるさい黒雲、とにかく底意地の悪い黒雲の言っていたことを最優先にしてくれ」
近くの開けた場所に着陸し、遺跡に向かう道中、ツバサがわたしにそう、きっぱりと言った。
セイがいたとしたら、きっと彼女はツバサを狙う。そうしたら、わたしは役に立たないと分かっていてもセイを止めようとしちゃう。だけどツバサは強いし、それに最近ずっとマドカさんと鍛錬してたのも知ってる。だから、わたしなんかが心配することじゃ無いんだ。
「わかった。とにかくミライを連れ出して、【超越者】が言ってたように遺跡を直そう。それからわたしは、ソリドゥスにゲートを閉じに行くよ。何があっても、それを最優先にする!」
わたしが答えると、ツバサはにっこりと笑った。
ミライがいるらしい、遺跡の最奥部までの道のりは順調だった。遺跡の中のマップもしっかり作られていて、わたし達はただ、表示された線をたどればいいだけだった。とにかく最速で遺跡の最奥部を目指すことができた。いつもと違って、至れり尽くせりだ。
「これで、最後の封印も解けた。もうすぐ、破壊神が復活する。黒雲が空を覆い、雷が降り注ぎ、破壊神の吐く炎がすべてを焼き尽くす。
封印は解いたわ。黎明の翼、これでもまだ破壊神を止められるというのかしら? やれるものならやってみるがいいわ!」
そうして遺跡の最奥に踏み込んだわたし達を迎えたのは、祭壇の前で儀式をちょうど終えたところらしい、ミライの冷たい嘲笑だった。
「一足遅かったな! 封印は解けた。これでゲートが開く! 我らの目的も達せられる!!」
祭壇の下にいたショウさんが勝ち誇った顔で高笑いした。勝った、と思ってくれているならそれでいいよ。油断している隙にミライを連れ出して、それで装置を直してもらうんだから。むしろシナリオ通りでしょ! わたしとツバサは彼女の元に向かって駆け出す。
「竜人! 今度こそぜってー倒す!」
セイが凄い速さで走り込んできて、ぶん、と剣を振るい、それをツバサが辛うじて受け止める。さっき話し合ったとおりに、わたしはツバサがセイを止めてくれているうちにミライのところへ全力で走る。
もう少しで彼女に届く、そう思った瞬間に、今までにもう何度も聞いた銃声が響いた。わたしの目の前で、ミライが胸を真っ赤に染めて祭壇にくずおれた。
「え……? ミライ……? どうして……?」
「勝手な事を……!」
「ってか竜人、ウチを無視すんなし!」
わたしだけでなく、ショウさんもセイも混乱していた。わたしは何が起きたのか確かめるべく、銃声のした方にさっと目を向ける。祭壇に向けた銃口をゆっくりと下す彼と視線が合う前に、ぷつん、とスイッチが切れたように目の前が真っ暗になり、動けなくなった。
そっか、遺跡の封印を解いたからだ。いつも一時的なシステムトラブルが起きてたっけ。
――幸福な未来は任せろ
そんな力強い声を、気を失う直前に聞いた気がした。
「今落ちたのって……? あ、カンのせいだし! あの子を守るのがイベントの勝利条件なのに殺すからじゃね!? どーゆーつもり!?」
「何の真似だ!」
「勝利条件は彼女が儀式を終えるまで彼女を守る事だよ、正確には。つまり、儀式が終われば後はどうでもいい。イベント自体は期待通りの結果さ。だから落ちたのは俺のせいではなくて、単にシステムトラブルだよ。
で、何の真似かと言いますと、絶望感を味わってもらうための演出、ですよ。彼らも彼女を連れ去ろうとしていたようですから、それも無駄なこととはっきり思い知らせてやろうと思いまして。ルールの範囲内では自由に演じられるのがこのゲームの醍醐味の一つでしょう? 何か問題が?」
再び意識が戻ってきたところに聞こえてきたのは、セイとショウさんのイライラした声と、それに答えるカンの悪びれもしない冷たい声だった。それにショウさんが舌打ちして「まあいい」とつぶやいた。
「ちょ、しかも竜人消えてるし!! 今のシステムトラブルのせいっしょ!? 運営! どーしてくれるの!!」
セイが怒り心頭、といった様子でショウさんをキッと睨みつけ、詰め寄る。ようやく戻ってきた視界にツバサの姿はなかった。ミライもいない。遺跡の封印を解いた後のシステムトラブルで動けなくなるのはわたし達だけだから、その隙にツバサが連れ出してくれたんだと思うけど……でもミライは撃たれちゃったんだし……。いや、ツバサが任せろって言ったんだ。信じよう。
「……次の竜人との戦いのイベントで君には便宜を図ろう。そうだな、次のイベントのためにも今回のソリドゥス防衛は重要だぞ。銀騎士団の残党に邪魔をさせるわけにはいかないだろう? 折角予定より早く片付いたんだ、さあ、行くぞ」
ショウさんがため息交じりに、かなり面倒臭そうにセイを宥めて、スターリングに帰るよう促した。カンもそうだったけど、セイに対してはあくまでもゲームのイベント、って体みたい。そして二人とも、わたしには全く注意を払っていない。ミライを遺跡の管理装置のところに連れて行くのは、ツバサがやってくれることになったんだし、ここでセイを倒して――
パン、と銃声がしたと思った次の瞬間に、わたしの体はバランスを失い、冷たい床に叩きつけられた。右足が痛い。立ち上がれない。
「うわ、撃ったし。ってか元は仲間っしょ?」
思いっきり引いた様子で尋ねるセイの声が聞こえた。
「それを言ったらセイさんもじゃないか? いや、そんな事は良いんだよ。時間が惜しい。邪魔されたくないんだ。
ショウさん、約束、忘れないで下さいね。早くゲー……いえ、ソリドゥスに戻りましょう」
カンは早口にそういって、二人を促しさっさと祭壇の間から出て行った。彼は去り際、ほんの少しだけわたしの方を見て、意味ありげに口の端を歪めた。
ようやく、この前お迎えしたスウィスウィちゃん――自動回復してくれるユニコーン――が現れ傷を回復してくれたころには、彼らはもういなかった。
ミライはきっと、ツバサが何とかしてくれたはず。遺跡の方は二人にまかせよう。セイもカンも、ソリドゥスに戻るって言ってた。ゲートを閉じに行かなきゃだし、銀騎士団とのこともあるし、わたしもソリドゥスに向かおう。
「リン! さ、乗って! 早くソリドゥスに行くわよ!」
三人がいなくなった後、ようやく動けるようになったわたしが急いで外に出ると、丁度そこにマドカさんが何か軍隊っぽい感じの四角いカーキ色の車で滑りこんできた。怖いくらいぴったりな車だなあ……なんて感心してる場合じゃない。わたしは助手席によじ登り、シートに体をうずめる。
「舌噛まないようにしなさいよ!」
マドカさんが叫ぶのとほぼ同時に、ぎゅっとシートの背もたれに体が押し付けられた。すごい急発進だ。そして道なんてなくて、ただの荒れ地を走っていくため上下動が凄くてお尻が痛い。植物やらそこら辺の野良竜達やらの障害物をハイスピードのまま神業的なハンドル捌きで避けるたびに、右へ左へ吹っ飛ばされるんじゃないかって思う。でもすっぽり体を包むシートのお陰でそうはならなかった。怖くて叫びたくなるけど、叫んだらマドカさんの言ったように舌を噛むだろうから、しっかり歯を食いしばって耐える。
「さ、急ぎましょ。まずはソリドゥスの中心に向かうわよ!」
地獄のドライブの後、そんなすぐに動けないよ、と弱音を吐きたくなるけれど、そうも言ってられない。わたしはマドカさんの後について、どうやら激しい戦いがあったっぽいソリドゥスの城門をくぐり、剣戟の音や叫び声の飛び交う街の中心に向かって走り出す。
ぜったい、全部止めてみせるんだから!




