012_10_次の作戦立てちゃおう#2
「モチのロンだわよ。ちゃんと用意してるわ。これから話しに行くところ……あら、もうこんな時間じゃない。すぐに行かなくちゃ。リンも来るわよね?」
作戦があるんでしょ、とレイさんに視線を向けられたマドカさんは、分厚い胸をドンと叩いて得意気に答えた。
「もちろん行きます!」
笑顔でうながすマドカさんに、わたしは元気よく答えてついていく。でも、どこに行くんだろう? 聞こうとしたけどマドカさんは急ぎ足で、なんだか話しかけづらかったからやめた。行けば分かるってことだと思う。
「ソリドゥスまでお願いね」
やって来たのはクレーディトの探検家協会のゲート――都市の間を移動するためのゲームのシステムの方――の受付だった。ここに来るのも久しぶりだな。でも何でソリドゥスに行くんだろう?
ソリドゥスって金騎士団の本拠地だよね。ミライがいるかもしれない。そういえば探検家協会の本部もソリドゥスだから……もしかしたらゲートがあるのもソリドゥスかな? まさかいきなり攻めちゃうとかじゃないよね? そんな準備できてないんだけど。
ともかく、マドカさんについて行くしかない。わたしは床から立ち上る光の柱に向かった。
ゲートを抜けると一瞬でソリドゥスだ。相変わらず黙ってついてこい、って感じでずんずん進むマドカさんの大きな背中を、速足――というか殆ど走る感じ――で追いかける。初めてログインしたとき、セイと通った道だな……なんて感慨に浸る暇もなかった。
しばらくしてマドカさんが足を止めた場所は、何か特別な場所って感じではなく、街外れにある3階建ての集合住宅――ヨーロッパの街並みにありそうな感じの――だった。最初のリスクオンの拠点をもっと質素にした感じかな。どこかのギルドの拠点……あ、もしかして!
でも、そうだとすると何だかちょっと悲しい。前のあの大きな騎士の城って感じの拠点と比べると、ずいぶんパワーダウンしちゃってる。たのもー、とかもう言う必要なくて――あの時もなかったけど――すぐそこのノッカーを叩けば済みそうだ。
ノッカーを叩くと、間もなく扉が開けられた。開けた人の顔を見て、やっぱり当たってた、とちょっと嬉しいような、寂しいような気持ちになった。
「白騎士団、よく来てくれた。今日は団長殿がいるのだな。それとリンだったな、この前の……。だが……まあいい、こっちだ。アマネが待っている」
わたし達を出迎えたのは銀騎士団の副団長、銀の全身鎧に青いサーコートを着た、ショートカットのいかつい女性、カレンさんだった。彼女はわたし達を見て何か思うところがあったようだけど、案内することを優先して、くるりと踵を返し、奥へと進んでいった。
あれ? そういえば銀騎士団て、“スターリング”銀騎士団だよね。リスクオンに負けて、スターリングの【支配者】じゃなくなったっていっても、ソリドゥスに引っ越さなくたっていいはずだよね。何かあるのかな? もしかしてアマネさん達も、ソリドゥスに何かあると思って、その調査のためとかだったりするのかな?
「あっ! マドカさん!! よく来て下さいました。リンさんも。昔の拠点に比べたら、随分狭くなってしまいましたし、人も少なくなりましたけれど、何とかソリドゥスに拠点を移した目的は果たせそうです!」
通された先の部屋にいたアマネさんが、嬉しそうに言いながらぎゅんと凄い速さでマドカさんのところに駆け寄った。背の高いマドカさんをキラキラした目で見上げている。わたしが男だったら、こんな顔で美女に見つめられたら舞い上がっちゃうけどな。
「そう、良かったわ。あの後、こんな短期間でソリドゥスのギルドをまとめてその頂点に立って、金騎士団への挑戦権を手に入れるなんて流石ね、アマネ」
でもマドカさんは笑顔で褒めつつも通常営業だった。褒められて、アマネさんの方が舞い上がってる。「ありがとうございます」って柔らかな物腰で頭を下げていたけれど、ホントはもう飛び跳ねて喜びたくて仕方ない、そんな感じがする。隣でカレンさんがちょっと引いている。でも、いいじゃない。恋する戦乙女でもさ。
「はい。後は金騎士団に戦いを挑むだけです。それで、白騎士団にも協力して頂きたいのです。向こうには恐らく、リスクオンも加勢すると思います。私達も色々なギルドに声を掛けてはいますが、やはり戦力的には向こうの方が上ですから――」
「分かってるわ。もちろん協力するわよ。イベントの開始時間は、土曜日の1430で良かったかしら?」
おずおずと頼むアマネさんを安心させるように、マドカさんは力強く即答した。あれ? マドカさんが指定したのって、ミライが最後の遺跡の封印を解く儀式の時間――破壊神の力が最も高まる時がいつなのかは、ツバサに教えてもらったんだけど――と大体同じ……少し後かな? 気になってマドカさんに視線を送ると、笑顔が返ってきた。多分、「黙ってなさい」だ。
イベントと時間が近ければ、金騎士団もリスクオンもそっちを優先せざるを得ないはずだ。ソリドゥスにゲートがあるとしたら、そこを押さえられるわけにはいかないし、この後の帝国攻略にだって支障が出るかもしれないんだし。そっか、それが作戦なんだ。
「ええ、その時間です。ただ、今回は攻城戦という体裁を取りますが、ただの攻城戦ではないのです」
アマネさんは安全な自分達の拠点であるにも関わらず、周りを見回した後、声を落として言った。何か秘密の話みたいだ。わたしは息をのんだ。
「もしかしたらご存じかもしれませんが、ここソリドゥスに強硬派が集めたこちらの世界の宝物が蓄えられているようなのです。そうすると、それらを持ち返るための【ゲート】もここにあるはずです。私達は、それを狙おうと考えています。こちらと現実との道を壊してしまえば、それで全て終わりですから。
勿論、そうすればゲームを続けること自体ができなくなります。ですからもしゲームを続けたいのなら、私達とは――」
「アマネさんもゲートを閉じようって考えてたんですね! もちろん、反対なんてしません! 一緒に頑張りましょう!」
銀騎士団も実は同じ事をしようとしてたってことに、わたしは嬉しくなって思わず立ち上がって叫んだ。……あ、しまった。言っちゃダメだったかな、とマドカさんのをこわごわ横目で見る。特に咎める様子はなさそうだったので、ほっとした。
「よかった! ですが、ゲートの正確な場所は分からないのです。それで、何かを見つけるのが得意な白騎士団の皆様には、主にそちらを手伝っていただきたいのです。ところで――」
そう言うと、アマネさんはわたしとマドカさんを交互に眺めた。言おうか言うまいか、少しの間悩んでいたみたいだったけど、やがて呼吸を整えて、
「一番探し物の得意な方……カンさんはやっぱり、いないのですね。今日、偶々都合が悪かったという事ではないのでしょう?」
と、こちらに遠慮しながら確認した。
「はい。彼は……強硬派に寝返ったんです。でも、『やっぱり』ってどういうことですか?」
「実は、ソリドゥスで彼が金騎士団と一緒にいるところを見たのです。それも、なんだか親し気に話していて……。金騎士団と一緒に仕事に行くのも見ましたから、これは何かあったのだろうと思いまして。やはり、そうでしたか」
アマネさんの言葉がちょっと引っかかって尋ねると、彼女はそう話してくれた。そっか、こっちで金騎士団と活動してるんだ……。いや、まあそうだよね。彼の目的を果たすために向こうに行ったわけだし、そのために動くよね。
「……私達は強硬派を許しません。ですからたとえ貴方達のかつての仲間でも、向こうにつくのであれば倒します。その点、ご承知おき下さい」
アマネさんはわたしを真っ直ぐに見据えて、きっぱりと言い切った。
「はい。大丈夫です。むしろわたしがぶん殴ろうと思ってますから。邪魔する奴には死あるのみ、です。
あ、でも何か知ってるかもしれないから、いきなりはダメですね。持ってる情報次第です」
わたしはぱたぱたと手を振り、さらっと即答した。わたしの答えた内容がなのか、割に明るい声だったのがなのか分からないけど、とにかく予想外だったようで、アマネさんは戸惑っていた。でもわたしもゲートを閉じたいわけだし、その邪魔をするなら許さない、って決めたしね。
「そう……ですか。いえ、それなら良いのです。では、次に当日の作戦を考えましょう。白騎士団には――」
それからあれやこれや、皆で当日の作戦を話し合った。今回の勝利条件は金騎士団と銀騎士団、時間内に相手を全滅させるか、より多く倒した方が勝ちなんだって。また再起して邪魔されないように徹底的に相手を潰す、って事なんだと思う。金騎士団は拠点を守るんじゃなくて、外で戦うつもりらしい。アマネさんはソリドゥスの中央、探検家協会本部や金騎士団の拠点があるエリアに向かう大通りが主な戦場になるんじゃないか、と言っていた。だから彼らの隙をついて、ゲートを探して欲しい、という事だった。
「では、これで行きましょう。当日はよろしくお願いします!」
「共に強硬派と戦おう! 今度こそ、負けるわけには行かん!!」
当日のことも決まったので、きょうはお開きになった。外まで見送ってくれたアマネさんとカレンさんに手を振り、わたし達はクレーディトの拠点に戻ることにした。




