『三年間』6
一方でリディアも、ガルドさんから剣だけじゃないことを教わっていた。
夜になるとリディアは、それを話してくれた。
「相手の剣だけを見るなって。身体全体を見ろって」
「身体全体?」
「足の向きとか、肩の動きとか。そこから、次にどう動くか分かるんだって」
「分かるの?」
「まだ、全然。でも今日は、ガルドさんの肩が先に動くのは、気づいた」
「それで?」
「気づいたけど、避けられたのは、半分だけ」
リディアが悔しそうに笑う。
「攻撃することより、まず生き残ることを考えろって、何回も言われる」
「……うん」
それは僕が昼間に聞いた言葉と、同じだった。
別々の場所で別々の人に習っているのに、同じものを二人とも少しずつ受け取っている。そう思うと暗い部屋の天井が少しだけ近くなった気がした。
「それでね」
リディアがぽつりと言った。
「お前の剣を作れ、のこと。……まだ、よく分からないけど」
「うん」
「でも、自分の剣っていうのは、ちょっと楽しみかも」
「僕も見てみたい」
「じゃあ、強くなったら見せる」
「約束ね」
「うん」
窓の外で風が枝を揺らす音がした。
*
時間が経つにつれて僕たちの訓練は、少しずつ難しくなっていった。
僕は、火、水、風、土。四つの属性を一つずつ練習するようになった。
最初は維持し続けるだけで、一苦労だった。ずっと魔法を出していると、集中が切れて崩れて消えてしまう。けれど何度も繰り返しているうちに、少しずつ長く持つようになった。
炎を大きくする。小さくする。形を変える。消す。必要な分だけ魔力を使う。
「今のはいいわね」
セレナさんが言った。
「本当ですか?」
「ええ。前よりずっと、無駄が少ないわ」
その言葉が嬉しかった。
魔力をたくさん使うことが、強さだと思っていた。でもそうじゃなかった。少ない魔力でも、正確に扱える方が強い。そんなことも少しずつ分かってきた。
それにいつの間にか、セレナさんの教え方も変わっていた。
最初は「ここが違う」「こうするの」だった。それが少しずつこう変わっていった。
「どうして、こうなったと思う?」
僕の火が急に大きく膨らんで、前髪の先をじりっと焦がした日のことだった。
「……えっと」
焦げた匂いが、鼻をくすぐる。
僕は消えた術式の跡を、じっと見た。
どうして、だろう。
魔力は足りないんじゃなかった。むしろ多かった。入口の線が、広すぎたのかもしれない。流れが途中で溜まってしまった。
「……入口が、広すぎた?」
「どうして、そう思ったの?」
「あふれたから。……水みたいに」
「そうね」
セレナさんは、頷いた。それ以上は教えてくれなかった。
夜にそのことを話したら、リディアが言った。
「ガルドさんも、最近そう」
「そうなの?」
「今、なんで避けたって聞かれる。どうしてそこに動いたのかって」
「答えられる?」
「半分くらい」
「半分」
「分からないって言うと、分からないなら考えろって。でも、なんで負けたのかは、ちゃんと教えてくれる」
リディアはそこでくすりと笑った。
「怒鳴るけど、理由なしには怒鳴らないの」
「いい先生だね」
「うん」
別々の師匠。別々の昼。
それでも夜になると、同じ場所に帰ってきて同じ天井を見ていた。




