『三年間』4
「イルヴァは?」
「僕?」
「今日、何を教わったの?」
「魔法の術式」
「どんなの?」
僕は今日やったことを話した。
魔力の流れ。術式の組み方。同じ魔法でも使う魔力を減らせること。セレナさんが説明してくれたことを一つずつ話していく。
「……というわけ」
「へえ」
「分かった?」
「全然」
「僕も」
二人で笑った。
それから僕たちは毎晩のように、お互いの訓練の話をするようになった。
相手が昼間に何をしているのかは、夜になって少しだけ分かる。ガルドさんがどれだけ厳しく教えているのか。リディアがどれだけ必死についていっているのか。そして僕もリディアに聞かれることで、自分が何を学んでいるのかを考えるようになった。
話しているうちに、声がだんだん間延びしていく。どちらの返事が先に聞こえなくなったのか分からないまま、僕たちは眠っていた。
それもいつの間にか僕たちの日常になっていた。
*
そんな日々が何度も繰り返された。
朝になれば、別れる。昼は、それぞれの師匠について訓練する。夕方になれば、大樹の下で合流する。そして夜、今日一日のことを話す。
大樹の葉が、緑から黄色へ、黄色から茶色へと移ろって、やがて枝が裸になった。雪の朝には白い息を吐きながら、いつもの場所で手を振って別れた。枝の先に小さな芽が膨らんで、また葉が茂る。
季節が巡っても、朝と夕方の景色はほとんど変わらなかった。
変わっていくのは、夜の会話の方だった。
「今日は何した?」
「魔法の威力を調整した」
「私は剣を百回振った」
「百回?」
「うん」
「腕、痛くない?」
「痛い」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないよー。そっちは?」
「僕は魔力を使いすぎて疲れた」
「じゃあ、お互い様だね」
「そうだね」
そんな会話を何度もした。
灯りを落とした暗い部屋で、隣から聞こえるリディアの声は昼間より少しだけ柔らかかった。疲れていると語尾がふにゃっと溶ける。それを聞く度に、今日も一日が終わったんだと思った。
失敗の話も沢山した。
僕は線を一本間違えた術式で、水を自分の頭にぶちまけた話をした。リディアは足をもつれさせて、ガルドさんの目の前で盛大に転んだ話をした。どちらも話し終わる前に、二人とも笑ってしまった。笑いすぎて隣の部屋から母さんの「もう寝なさい」が飛んできたこともある。
昨日より、少しできるようになる。今日できなかったことを、明日はできるようにする。
その繰り返しだった。
ある日、僕は大きく安定した火を初めて出せた。
両手の上に同じ大きさの炎が、ぼうっと灯る。熱が頬と指先を同時に温めた。いつもならすぐにバランスを崩して暴れ出すのに。その日は、どちらも蝋燭の火みたいに静かに揺れていた。
「できた!」
その夜、リディアに話す。
「すごいじゃん」
「うん!」
「じゃあ私も負けてられないね」
「僕だって」
別の日。リディアが初めてガルドさんの攻撃を一度だけ受け流せたと言った。
「本当に?」
「うん」
「すごい!」
「でも、そのあと五回倒された」
「……それは、あんまりすごくないかも」
「ひどい」
また笑う。
そうやって僕たちは、互いの成長を見て知るのではなく言葉で知っていった。
それでも次の日になれば、また自分の訓練へ向かう。僕は魔法を。リディアは剣を。それぞれ違う場所で。
目指すものは同じだった。
強くなるために。




