『三年間』3
夕方。大樹の下で、リディアと合流する。
西日が枝の間から斜めに差し込んで、草の上に長い影を伸ばしていた。
「終わった?」
「うん」
リディアは少し疲れていた。髪が汗で額に張りついている。
「そっちは?」
「僕も終わった」
「何したの?」
「術式の練習」
「難しかった?」
「難しい」
リディアが笑う。
「私も難しかった」
「何したの?」
「剣」
「それは知ってる」
「じゃあ秘密」
「えぇ……」
二人で笑った。
その日はそれだけだった。
でもその夜。夕食を終えて、部屋に戻る。
ランプを小さくしてベッドに腰掛けながら、リディアが今日の訓練について話してくれた。
「今日はね」
「うん」
「ガルドさんに、剣を振るなって言われた」
「……え?」
思わず聞き返す。
「剣の訓練なのに?」
「うん」
リディアは楽しそうに笑った。
「最初は走らされたの」
「走る?」
「決められたとこを、何周も」
「何周?」
「忘れた」
「そんなに?」
「うん」
リディアは枕に背中を預けた。
「そのあと、足の動かし方を教えてもらった」
「剣じゃなくて?」
「うん。剣を振るより、足のほうが大事なんだって」
「へえ……」
「私も知らなかった」
リディアが少し嬉しそうに話す。
「それから木剣を持ったんだけど、ガルドさんに何回も倒された」
「リディアが?」
「イルヴァには勝てるけど、お父さんにはずっと負けっぱなしだったからね」
残念ながら僕にはそれに対してできる反論がなかった。
「でも、どうやって?」
「分からない」
「分からないの?」
「気づいたら転んでる」
想像して少し笑ってしまう。
「笑わないでよ」
「ごめん」
「イルヴァだって、セレナさんにいっぱい怒られてるでしょ」
「怒られてないよ」
「でも、今日も失敗した?」
「……した」
「ほら」
リディアが笑う。
それから少しだけ黙った。
「でもね」
「うん?」
「ガルドさん、ちゃんと教えてくれる」
「そうなんだ」
「うん」
リディアは天井を見ながら話す。
「ただ強くなれって言うんじゃないの」
「じゃあ何て言うの?」
「どうしてその動きをするのか、って聞かれる」
「どうして?」
「うん」
リディアが少し考える。
「私、お父さんを真似して剣を振ってるだけだったみたい。それがお見通しだったみたいで、言われちゃった」
「何て?」
「『お前の父親になる必要はない』って」
僕は黙った。
「『誰かの剣をそのまま真似する必要もない』って」
リディアが自分の手を見る。
「『お前は、お前の剣を作れ』って」
「……」
僕は何も言えなかった。
リディアにとってお父さんの剣は、大切なものだ。最後まで村を守るために戦った人が使っていた剣。ずっと追いかけてきたもの。あの剣は今もリディアの中にある。
だからそれを否定されたら辛いはずだ。
でもガルドさんは、捨てろと言ったわけじゃないのだと思う。黙祷をした時のガルドさんの背中を僕は覚えている。あの人はおじさんのことをそんな風には言わない。
「リディアは、どう思った?」
「……分からない」
少しだけ間を置いてリディアが続けた。
「でも、考えてみようと思った」
「そっか」
「うん」
それだけ言ってリディアは毛布の中へ潜り込む。




