『三年間』2
「今日は術式の基礎から復習しましょう」
「はい」
僕は、セレナさんの前に座っていた。
空中には魔力で描かれた図形が、いくつも浮かんでいる。淡い光の線が円を作り、枝分かれして、また別の円に繋がる。星座をそのまま地面へ降ろしたみたいだった。
「魔法を使うとき、最初に何をする?」
「魔力を集める」
「半分正解」
「半分?」
「魔力を集める前に、何をするのか決める必要があるわ」
セレナさんは地面に描いた術式の一部を指差した。
「何をするのか。どれくらいの力を使うのか。どんな形にするのか。それを決めるために、術式があるの」
「……難しい」
「そうね」
セレナさんはあっさり頷いた。
「だから覚えましょう」
それから僕は何度も術式を書いた。
円を描く。線を引く。その中に別の線を組み込む。指の先で土の上に光の跡が残った。
少し間違える。
「そこが違うわ」
「ここ?」
「ええ。魔力の流れが途切れている」
「どうして?」
「そこから説明すると長くなるけれど……」
僕は少しだけ身構えた。
セレナさんが話し始める。
やっぱり、長かった。
でも聞いているうちに、少しずつ分かってくる。魔法はただ魔力を出すだけじゃない。どう流すのか。どこで変換するのか。どうやって形を維持するのか。全部に意味がある。
「では、実際にやってみましょう」
「はい」
僕は手を前へ出した。魔力を集める。術式を組む。
水。手の前に小さな水の塊が生まれた。
「できた!」
「ええ」
セレナさんが頷く。
「でも、まだ魔力を使いすぎているわ」
「そうなんですか?」
「同じ大きさなら、今の半分程度で維持できるはずよ」
「半分?」
半分、と聞いて僕は少し不満だった。たくさん魔力があるんだからたくさん使えばいいのに、と思った。
それを見抜いたみたいに、セレナさんは言った。
「同じ魔法なら、少ない魔力で同じ結果を出せる方が優れているの。魔力が多いことと、魔法が上手いことは、別よ」
「別……」
「やってみましょう」
そこからまた訓練が始まった。
水を出して。消して。また出して。
魔力を絞る。絞りすぎた。水の塊がふっと痩せて、ぽとりと地面に落ちる。
もう一度。今度は術式の線を一本、間違えた。水が歪んでぐにゃりと潰れる。
もう一度。流れを意識する。細い糸を引き出して必要な分だけ指先へ。
手の平の前の水が、ふるふると震えて、それでも落ちなかった。
「そう。今の感じを覚えて」
簡単な魔法なのに、思ったよりずっと難しい。
でも少しずつ上手くなっていくのが、自分でも分かった。
お姉さんとの時は、魔法が使えることだけで嬉しかった。
今は、違う。
どうすればもっと上手く使えるのか。それを考えることも楽しくなっていた。
昼になるとセレナさんとの訓練は一旦終わる。
「今日はここまでにしましょう」
「ありがとうございました」
「午後は、今の復習をしておいて。魔術師にとって、魔力は生命線よ。少ない魔力で強力な魔法を使えるなら、それに越したことはないわ」
「はい」
「無理はしないようにね」
「分かりました」
僕は昼ご飯を食べてから、また訓練へ向かった。
その頃リディアも、ガルドさんと剣の訓練をしているはずだった。
何をしているのかは知らない。見に行くこともできたけれど、自分にもやることがある。それに見ているだけじゃ置いていかれてしまう。
だから僕も自分の訓練へ戻った。




