↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/11

第八話 ニャン助①

ニャン助 助信紳助(すけのぶ しんすけ)


 彼の両親は、オリンピック選手だった。


 両親から受け継いだ。

 身体能力。

 ルックス。

 そして、アホ。


 良いところだけ受け継いでいれば、良かったが…。

 アホさ加減も全て受け継いでしまった。


 一言で言い表すなら

 ダメなイケメン。


 幼少期から、両親の英才教育が入り、幼稚園児とは思えない速度で走り、オリンピック選手もビックリな、跳躍をみせた。

 小学生で百メートル十一秒台。

 走幅跳も六メートル超と誰もが超人と認めるほど。

 ただ、当の本人は普通の事と思っていた。

 これで、全力を出していなかった……。


 ***


 小学生高学年の、学年対抗リレー。

 俺は、アンカーに選ばれた。


 その日は、快晴で申し分ないコンディションだった。

 いざ、リレーが始まると俺たちのクラスは、下から数えた方が早い順位を走っていた。

 周りからは、声援が飛んでいる。

「ウチらには、助信がついとる!最後まで諦めんといて〜!」

「差を開け!もっと!」

 前の走者が走り出し、アンカーのタスキを着た俺は、スタートポジションにつく。

 緊張してきた。

 練習では上手くいっていたが、今は大勢の観客がいる。

 個人競技しかほとんどやってきていない自分に、アンカーという大役が務まるのか。

 そして、出番はまわって来た。

 震える手を抑え、バトンを受け取るため走り出す。

 極度の緊張から、受け取ろうとしたバトンが地面に落ちてしまう。

(カタン……)

 そんな、音がしただろうか。

 永遠とも感じる長い時間が流れる。

 気が付いた時には、バトンは下に寝っ転がっており、自分はそこから十メートル程離れていた。

 慌ててバトンを拾いに戻り、すぐに走り出す。

 (まずい…やらかした…)

 そんな考えが頭をよぎるが、知らない。

 とりあえず、ゴールしなくては。

 走った!

 いつも以上に。

 今まで他の人に見せなかった真の実力を。

 しかし、バトンの影響は大きく…この組の最下位となってしまった。


 自分のせいだ——。


 ***


 運動会が終わり、教室へ戻る。

 みんなにどんな顔して会えばいいんだろう。

 そんな気持ちは、とうになくなっていた。

 

 緊張さえしなければ。

 絶対に勝っていた。

 俺は、オリンピアンの息子なのだから。


 教室へ着くと、クラスの子が話しかけてくる。

「心配すんな!お前は頑張ったよ!」

 (励ましが欲しいわけではない)

「俺らが、もっと上手く繋げてたらな〜!」

 (そうじゃない……俺一人で全て走れたら勝てた)

 (絶対に——)



 その時の俺が、どんな顔だったか今では、覚えていない。


 家に帰ると、両親が出迎えてくれた。

「ただいま」

 元気がなさそうに応える。


 両親は、笑顔で「おかえり」そう応える。

「どうだった?」


「全然ダメだった」

「そう。」

「俺が全て走れたら、絶対一位取れたのに……」

「そうだね。紳助には、その実力がある。でもね、リレーっていうのは、みんなで協力して一位を目指すスポーツなんだ」

 そう言うと、俺の顔をみて続ける。

「一人で戦うスポーツなら、個々の実力勝負になる。

 ただ、複数人でやるスポーツは、一人が抜きん出ても意味はない。

 複数人で一つの目標を目指すその過程、その意識が大事なんだよ。

 一人ではない、みんなのために」

 そう言い終えると、俺の頭を撫でて

「よく頑張りました。大丈夫。この経験があなたをもっと強くする。」


 ***


 中学最後の運動会。

 また、アンカーの大役がまわって来た。

 小学生の時の失敗をしない。

 そう誓い、今までソロのスポーツばかりやっていたが、複数人での競技もやってきた。

 (ここでみせる)


 順調にリレーは進んでいく。

 俺の前の人がコーナーで一度コケてしまった。

「頑張れ〜!」

 そう、応援した。

 最終コーナーをまわり、俺の出番が近づく。

 今の順位は、四位。

 俺の実力なら、一位を目指せる。

 バトンを受け取る時、その子に言った。

「任せろ!」

 綺麗にバトンの受け渡しが成功し、加速していく。

 最初のコーナーで三位を走る人を捉える。

 コーナーの外側から抜かしていく。

 会場からどよめきが聞こえるが気にしない。

 直線に入り、さらにギアを上げる。

 二位を捉え。二位の倍近い速度で走る。

 二位を抜き去り、最終コーナーへ差し掛かる。

 左前の方をみると、一位の代表がもう少しでゴールに着きそうになっている。

 観客は、盛り上がっている。

 最終コーナーを抜けさらにギアをあげる。

 三位とは、相当の差が着いているだろう。

 一位がゴールする、0.1秒前にゴールテープを切り、大逆転をしてみせた。

「勝ったんだ……」


 ***


 教室へ戻ると、周りで応援してくれていたクラスの皆が、それぞれ褒めてきた。

「なにあの加速!あんなん俺達出来んぞ!」

「ラストの直線まじ震えたわ!」

「流石やね!助信!」

 嬉し泣きしながら、

「みんなのおかげだよ!リレーは、一人のスポーツやない!みんなで作るスポーツやから!」


 教師が入って来た。

 みんな、そろそろ結果が出るよ〜!

 俺達の中学は、全校生徒の数が多いのと、熱中症対策で結果等競技に関係しないことは、教室にあるモニターで共有される。


 教師がモニターのスイッチを入れる。

 運動会の電光掲示板が移されると、点数が下一桁、三桁と表示されていく。

 二桁目だけ開けられず、ドラムロールがなり始める。

 司会の人が盛り上げる。

「さて、結果は十の位の勝負となりました!どうなるんだ〜?」

 (ドドン!)

 太鼓の音が響いたと同時に、十の位が開示される。

 一瞬教室が静まり返る。

 そして——

 歓声が上がった。

 

 俺達のクラスが勝ったのだ。


 モニターには、リレーでの個々のタイムや、個人種目のタイム、スコアが順々に表示されていた。

 それを、目を見張る様子で凝視している。

「俺……何秒だったんだろう」

 近くにいたクラスメイトが応える。

「知らんけど…お前がめっちゃ早かった事だけは記憶に残っとるよ〜!」

「そっか〜!」

 そんな会話をしていると、教師がこっちを見て手招きをしていた。

 教師の机の前に着くと

「助信、お前本気で陸上やらないか?」

 と言われた。

 しかし、自分の中では陸上はあくまで娯楽であり、本気で挑むものではなかった。

「いや、ちょっと!キツいっす!」

 そんな感じで返答していたと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。