第八話 ニャン助①
ニャン助 助信紳助
彼の両親は、オリンピック選手だった。
両親から受け継いだ。
身体能力。
ルックス。
そして、アホ。
良いところだけ受け継いでいれば、良かったが…。
アホさ加減も全て受け継いでしまった。
一言で言い表すなら
ダメなイケメン。
幼少期から、両親の英才教育が入り、幼稚園児とは思えない速度で走り、オリンピック選手もビックリな、跳躍をみせた。
小学生で百メートル十一秒台。
走幅跳も六メートル超と誰もが超人と認めるほど。
ただ、当の本人は普通の事と思っていた。
これで、全力を出していなかった……。
***
小学生高学年の、学年対抗リレー。
俺は、アンカーに選ばれた。
その日は、快晴で申し分ないコンディションだった。
いざ、リレーが始まると俺たちのクラスは、下から数えた方が早い順位を走っていた。
周りからは、声援が飛んでいる。
「ウチらには、助信がついとる!最後まで諦めんといて〜!」
「差を開け!もっと!」
前の走者が走り出し、アンカーのタスキを着た俺は、スタートポジションにつく。
緊張してきた。
練習では上手くいっていたが、今は大勢の観客がいる。
個人競技しかほとんどやってきていない自分に、アンカーという大役が務まるのか。
そして、出番はまわって来た。
震える手を抑え、バトンを受け取るため走り出す。
極度の緊張から、受け取ろうとしたバトンが地面に落ちてしまう。
(カタン……)
そんな、音がしただろうか。
永遠とも感じる長い時間が流れる。
気が付いた時には、バトンは下に寝っ転がっており、自分はそこから十メートル程離れていた。
慌ててバトンを拾いに戻り、すぐに走り出す。
(まずい…やらかした…)
そんな考えが頭をよぎるが、知らない。
とりあえず、ゴールしなくては。
走った!
いつも以上に。
今まで他の人に見せなかった真の実力を。
しかし、バトンの影響は大きく…この組の最下位となってしまった。
自分のせいだ——。
***
運動会が終わり、教室へ戻る。
みんなにどんな顔して会えばいいんだろう。
そんな気持ちは、とうになくなっていた。
緊張さえしなければ。
絶対に勝っていた。
俺は、オリンピアンの息子なのだから。
教室へ着くと、クラスの子が話しかけてくる。
「心配すんな!お前は頑張ったよ!」
(励ましが欲しいわけではない)
「俺らが、もっと上手く繋げてたらな〜!」
(そうじゃない……俺一人で全て走れたら勝てた)
(絶対に——)
その時の俺が、どんな顔だったか今では、覚えていない。
家に帰ると、両親が出迎えてくれた。
「ただいま」
元気がなさそうに応える。
両親は、笑顔で「おかえり」そう応える。
「どうだった?」
「全然ダメだった」
「そう。」
「俺が全て走れたら、絶対一位取れたのに……」
「そうだね。紳助には、その実力がある。でもね、リレーっていうのは、みんなで協力して一位を目指すスポーツなんだ」
そう言うと、俺の顔をみて続ける。
「一人で戦うスポーツなら、個々の実力勝負になる。
ただ、複数人でやるスポーツは、一人が抜きん出ても意味はない。
複数人で一つの目標を目指すその過程、その意識が大事なんだよ。
一人ではない、みんなのために」
そう言い終えると、俺の頭を撫でて
「よく頑張りました。大丈夫。この経験があなたをもっと強くする。」
***
中学最後の運動会。
また、アンカーの大役がまわって来た。
小学生の時の失敗をしない。
そう誓い、今までソロのスポーツばかりやっていたが、複数人での競技もやってきた。
(ここでみせる)
順調にリレーは進んでいく。
俺の前の人がコーナーで一度コケてしまった。
「頑張れ〜!」
そう、応援した。
最終コーナーをまわり、俺の出番が近づく。
今の順位は、四位。
俺の実力なら、一位を目指せる。
バトンを受け取る時、その子に言った。
「任せろ!」
綺麗にバトンの受け渡しが成功し、加速していく。
最初のコーナーで三位を走る人を捉える。
コーナーの外側から抜かしていく。
会場からどよめきが聞こえるが気にしない。
直線に入り、さらにギアを上げる。
二位を捉え。二位の倍近い速度で走る。
二位を抜き去り、最終コーナーへ差し掛かる。
左前の方をみると、一位の代表がもう少しでゴールに着きそうになっている。
観客は、盛り上がっている。
最終コーナーを抜けさらにギアをあげる。
三位とは、相当の差が着いているだろう。
一位がゴールする、0.1秒前にゴールテープを切り、大逆転をしてみせた。
「勝ったんだ……」
***
教室へ戻ると、周りで応援してくれていたクラスの皆が、それぞれ褒めてきた。
「なにあの加速!あんなん俺達出来んぞ!」
「ラストの直線まじ震えたわ!」
「流石やね!助信!」
嬉し泣きしながら、
「みんなのおかげだよ!リレーは、一人のスポーツやない!みんなで作るスポーツやから!」
教師が入って来た。
みんな、そろそろ結果が出るよ〜!
俺達の中学は、全校生徒の数が多いのと、熱中症対策で結果等競技に関係しないことは、教室にあるモニターで共有される。
教師がモニターのスイッチを入れる。
運動会の電光掲示板が移されると、点数が下一桁、三桁と表示されていく。
二桁目だけ開けられず、ドラムロールがなり始める。
司会の人が盛り上げる。
「さて、結果は十の位の勝負となりました!どうなるんだ〜?」
(ドドン!)
太鼓の音が響いたと同時に、十の位が開示される。
一瞬教室が静まり返る。
そして——
歓声が上がった。
俺達のクラスが勝ったのだ。
モニターには、リレーでの個々のタイムや、個人種目のタイム、スコアが順々に表示されていた。
それを、目を見張る様子で凝視している。
「俺……何秒だったんだろう」
近くにいたクラスメイトが応える。
「知らんけど…お前がめっちゃ早かった事だけは記憶に残っとるよ〜!」
「そっか〜!」
そんな会話をしていると、教師がこっちを見て手招きをしていた。
教師の机の前に着くと
「助信、お前本気で陸上やらないか?」
と言われた。
しかし、自分の中では陸上はあくまで娯楽であり、本気で挑むものではなかった。
「いや、ちょっと!キツいっす!」
そんな感じで返答していたと思う。




