第五話 バグレ
臨むところだ!と言わんばかりにバリバリ運動系イケメンアバターのニャン助が応える。
「どうせ、俺の勝ちやで。いつも通り"ペナルティ"を稼いどきー」アイツがニマニマしながら喋っているのを想像しながら返答する。
「今回はどうやろーね。ペナ〇は無理やけど、出来るだけバグのみ狩れるように努力してみるわ」
さて、始まったバグレ。
バグレとは、社会でルールを守らない。
守れない人を狩る事を言う。
今回の主なターゲットは、階段やエスカレーター横の赤線待機不可エリアや、ドア正面に立ち、頑なに降りようとしない奴のことを指す。
朝のラッシュが始まった。三・四番線は朝から非常に混む。
そこで現れるのが、階段やエスカレーター近くの待機不可エリアで待ち続ける乗客。
そして、降りてくる乗客が居るのにもかかわらず、確実に座りたいという欲求を暴走させ、流れに逆らう乗客。
彼等はルールというものを知りながら、他者を妨害する事を厭わない。
いわゆる、バグというわけだ。
「いざ、ゆかん」
ニャン助が先手必勝と言わんばかりに、三番線に目を配る。
さっそく、ターゲットをみつけた。
「みーつけた!」
ねっとりと、半ば気持ち悪いような言い方でバグを見つけると、一目散に走り出す。
丁度中間号車辺りにたむろするバグを目指す。
年齢層はバラバラ。
バグリ方もバラバラ。
例えば、人が二人通れるスペースしかないところに、前にバッグを抱えて立つ。
そして、当たられると舌打ちをする。
前に押し返し、通行人の妨害をする。
そういう奴には、死というプログラムからの解放を与えるべきだと猫マチは考えている。
「おっしゃー!二体目〜!」
バグとは関係ない一般ピーポーを一人巻き込んだ気がするが気のせいだろう……。
(WARNING――非バグ全損)
いきなり、画面に警告表示と地震速報のような警告音が流れる。
巻き込んでしまっていたみたいだ……。
巻き込んでしまったのは、仕方ないが…これっきりにしたい。
この一人で、一億円だ。
しかも警告音は、心臓にとても悪い音だった。
エスカレーター横の通路でたむろするバグを一網打尽にし、次のターゲットを探す。
(まもなく、三番線に桜木町~大船方面。各駅停車大船行が到着いたします~)
アナウンスが聞こえたので、三番線の方をみると電車が入線してくる。
ドアが開く。
しかし、三号車付近から誰も降りてこない。
すぐに向かうと、後ろの人に押されながら必死にこらえるバグが四人いた。
(え?頭おかしいんちゃうかこいつら)
そう感じたが口には出さなかった。
「お前らマナー悪いんじゃ!このっ!」
と言いながら、首をはねていく。
四人狩り終わると、少し笑みが溢れた乗客がいた。
気のせいだろう。
四人の残骸が消え、乗客が降りてくる。
(大船行きは、車内トラブル対応のため、現在運転を見合わせております。)
そんな、放送が入っていた気がする。
昇降が終わり、発車ベルがなると電車が何事も無かったかのように走り出す。
*
猫マチが、これはやばいバグだ!と思った奴は全て、リアルな血飛沫をあげる。
リアル志向のゲームだけあって、周りの反応もすごくリアルだ。
「ひ、人殺し!」「殺人鬼だ!逃げろ!」
バグを一人駆除すると周りの乗客が騒いで逃げる。
しかし、少し経つと、何事も無かったかのように人が戻ってくる。
ゲームだから……。
何人。いや、何体。
バグを狩っただろうか。
両手では数え切れない程のバグを処理した気がする。
ラッシュ時間が過ぎ、手隙になったタイミングで今の成果を聞いてみる。
「助!調子どうや?」
調子よさそうな、ハキハキとした、いや、スッキリしたような声が聞こえる。
「あー?今気持ちええとこよ!横須賀線、東海道線ホームエグいで!」
「ホンマ?」
五・六番線から九・十番線へとホームを飛び越えながら応える。
「ホンマホンマ!やっぱり、俺運動神経いいし?」
煽り気味で応えるニャン助に、少し苛立ちを覚える。
三つのホームを、階段やエスカレーターを使用せず、自身の身体能力だけで行き来するニャン助に、劣等感を抱きつつ、負けじと猫マチもホーム上を駆け回る。
目に付いたバグは、一人たりとも逃がさない。
駆逐してやる!という強い意識で辺りを見渡す。
傍から見るとただの不審者だ。
ゲームだからと言って、バグ以外を駆除
(※完全にデータとして抹消した場合適用。一部破損の場合は適用外となる。)
した場合、ゲーム内通貨で罰金が課される。
その為、人が密集している所でのバグレは、誤爆するリスクが高い。猫マチも数人ほどミスって駆除してしまい、一人あたり一億円(※現実換算百万円)請求される予定だ。
成果をトントンにするか、プラスにしなくてはいけない。
猫マチは、慎重になった。
さっきまでの、大胆不敵な大暴れと違い、チーターのように獲物を定める。ターゲットがいたら足音を立てず、背後から襲いかかる。
どのくらいたっただろうか、遅れて女性陣二人組が通話に加わった。
マム猫の元気な声が聞こえる。
「二人とも何しとん?」
「助がさー。バグレやろーって言うから横浜駅でやってたわ」
「どうやったん?」ミリにゃんが聞く。
「俺は、こんくらい稼いだわ」
と言いながら、ニャン助が今日の成果を共有する。
そこに書いてあったのは、
バグ討伐数二百。
非バグ破損数〇。
ボーナス二。
差引十億支給。
と書かれていた。
「さすが超人やねー!」
と、マム猫が褒める。
「マッチーは、どーなん?」
ミリにゃんがきく。
「俺は…いつも通りよ。」
少し元気がなさそうな猫マチが、成果を共有する。
バグ討伐数四十。
非バグ破損数四※内全損一。
ボーナス〇。
差引▲九千二百万。
「どんまい…私達が手伝うから元気だしーね」
そう……声をかけるしかなかった。
「……ありがとう」
猫マチは、そう応え通話を抜けデバイスを外す。
内心すごい悔しかった。
前半は、めっちゃ気持ちよかったのに、助と合流してから実力差が明白になった。
自分の、不甲斐なさと実力差。
それを、今味わっている。
(悔しい、悔しい!)
(もっと!強く。強くならんと)
そう自分に言い聞かせ、その日は眠りについた——




