第四話 猫マチ
猫町拓海
彼は、当たり屋に強い嫌悪感を抱いている。
中学生の頃、通学中に横浜駅ですれ違った、四、五十代くらいのおじさんに、右肩を思い切りどつかれ倒れ込んだ事があった。
おじさんは、なにも言うことなく、「最近のガキはゴニョニョ」と喋り、舌打ちをして去っていった。
周りにいた人は、心配こそしてくれていたが、おじさんを捕まえることはしなかった。
その理不尽な出来事がきっかけとなり、猫マチは当たり屋を激しく嫌うようになった。
(今日こそ、ゴミを駆逐してやる…)——
*
家に着くと、自室へ戻り部屋着へと着替える。
イヤーカフ型ゲームデバイスの廉価版の充電を確認し、起動する。
「オンライン コネクト」
そう、つぶやき右耳に触れて目を瞑ると……。
(Welcome to ituitu)
(Operated by Kokotsu Zaibatsu)
イケボで起動音が聞けて少し嬉しくなる。
タイトルコール後、暗転し最後にいた場所の近くにあるリスポーンポイントの一つにスポーンする。
(スッチャン)
効果音が終わると同時に、ゲーム内BGMが流れ始める。
(~あなたの幸せ~)
目を開くと……
川崎の映画館にスポーンした。
現在地をゲーム内マップで確認する。
おっと?ここ、ビル内じゃね?
(くっ…九階じゃねーかよ!)
そう思いつつ、エスカレーターを駆け下りる。
地下二階にゲームセンターがあり、そこから川崎駅へと繋がっている。
地下を歩きながら、周りを見渡す。
(この辺も、ちゃんと再現されてるんかな……)
いつも、そう感じる。
何もかもがリアルすぎるのだ。
NPCと言っても、すれ違う人々は様々な会話をしている。
(あの、映画良かったよね〜!)
(緑色のちっこいのマジ可愛かった!癒しにしかならないよね〜!)
最近やっていた映画の会話だろう。
現実世界で公開されている作品の情報も、ゲーム内に反映されている。
パッと見では、現実とゲームの区別がつかないほどだ。
高性能AIをNPC一人一人に搭載している——
それが、いついつの売りだった。
だからなのか。
すれ違うNPCたちは、一人として"同じ会話"をしていない。
リアルすぎる。
……いや。
リアルすぎて、少し気味が悪い。
川崎駅へと到着し、本来の目的地である横浜駅へと向かう。
*
横浜駅を散策していると遠くから悲鳴が聞こえてきた。
プレイヤーがバグを狩っている所ではない場所から、悲鳴の波が近づいてくる。
「痛い!」
「当たり屋が居るぞ!」
もちろん、当たられた瞬間に力を込めて跳ね返そうとする人もいたが、相手のパワーには勝てず無惨に散っていく。
「みつけた!」
興奮した猫マチは、一目散にそいつを目掛けて走り出す。
やつらは、男女、年齢関係なく自分の前を歩く物はゴミ。そう思っているに違いない。いや、そうだろう。
ワザとあたり、人を不快にするゴミ。
猫マチが一番嫌いとするバグだ。
ゲーム的には、バグ扱いだが、猫マチ的にはバグではなくゴミ。
全身をバラバラに破壊する勢いで、短剣を奮う。
肩に素早く斬撃を行う。
ゴミが痛がる素振りをみせるが気にしない。
逃げられないよう、両足を切り落とす。
「いだあ゙い!」
悲鳴にならない声が響く。
しかし、猫マチは気にしない。
まだ、足りない。
最後に、目を潰し耳元で囁く。
「ざまあみろ」
そう言い終えると、首をはねた。
そして、男は消えた。
猫マチが余韻に浸っていると、ニャン助こと、助信が通話に参戦してくる。
「よっ!猫マチ!調子はどーや?」
「いやーもうサイコー!めっちゃスッキリしたわ!」
「サイコー!なとこ悪いんやけど、横浜駅でバグレやらん?」
「ん?まあいいけど?てか、横浜駅おるで!」
「ホンマ?すぐ行くわ!少し待っとって!」
ニャン助が来るのを待ちながら、お手洗いをすませる。
*
「お待たせ〜!行くぞー助!どっちが一番バグレるか勝負や!」




