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第一話 真凜の朝

マム猫こと、村山真凜。


 真凜の部屋は、女の子らしい可愛い部屋ではない。

 ベッドと机と椅子しかないシンプルな部屋だ。

 机には、"アイドル"の写真や、友達との写真が飾ってある。時計だけは特殊で真凜が大好きな"BCG"というゲームに登場する、レッサーパンダのキャラクターがモチーフになっている。

口の部分に、時計が付いていて、頭を撫でるとアラームが止まる。

耳を触ると、デジタルとアナログを切り替えられる。

触り心地がめっちゃよくて、真凜のお気に入りだ。


 朝、遅刻ギリギリのアラームの音が鳴る。

 飛び起きて、自室の扉を勢いよく開ける。

 階段を駆け下りて一階のリビングへ顔を出し、朝の挨拶をする。妹が既に座り、朝食を食べていた。

「おはよー!お母さん!なんで起こしてくれんと」

「あんた高校生なんだから、ちゃんと起きんな!ご飯は食べてく?」

 茶碗に、ご飯をよそいながら応える。

「五分で食べれる量でお願い!」

「はいよ!納豆がいい?卵?」

「納豆かなー」

 席に着いて、おかずを取り分けている真凜の所に納豆が

 運ばれてくる。

「お母さん。ありがとう」

「どういたしましてー」

 お礼を言い終えると、手を合わせいつも通り

 「いただきます」という。

 そうして、手早く納豆を混ぜ、ご飯にかける。

村山家では、ご飯を食べている時、テレビを見るのが日課になっている。

「今日のニュースです。いついつの運営をしている。骨骨財閥(こつこつざいばつ)の骨骨太郎(こつこつたろう)氏が、昨夜から消息不明となっている模様です……」

 (いついつの、運営トップがいなくなってるなんて…)

 そんな事を考えながら、ご飯を食べ終わるとシンクに持っていき、先に食べ終わっていた妹と母親の分の食器を洗う。洗い終わると、歯磨きをして、そのまま家を出る。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい!気をつけてね」


 家を出ると、いつも着けているゲームデバイスから、"真凜のソロ曲"を再生する。


「あなたの幸せを願います。あなたがくれた幸せは〜あなたに倍にしてお返しします!あなたがくれた迷惑行為は〜度合いに応じて処理します!バグレ!バグレ!フルセット!あなたに捧げる愛してる!(フルセット!)

 バグ(あなた)にあげた、愛してる。愛をもって一太刀。あなたを貫いてあ・げ・る♡」

 

 いついつに依頼されて、真凜が歌詞を書き下ろした楽曲だ。

 先方からは、少し過激な歌詞で作曲して欲しいとの事だったが、過激なだけでは可愛げがないので、真凜らしく可愛い要素を混ぜた結果、こういう歌詞になった。

バグレのコンテンツに合った曲なのかもしれない。

 

 ミリにゃんと真凜の家は徒歩三分ほどしか離れていない。

ミリにゃん宅の方が学校に近いため、いつも真凜が来るのを家の前で待っている。


 例の曲が"近づいてくる"

 (音漏れというか、接続させずに聴いてるなあやつ!)

 相変わらず、前髪を下ろし、眼鏡をかけ地味子を"演じている"

 (いつ聴いてもいい曲だ。私、天才!)

とか考えてるんだろうなー!


 真凜が、アイドル活動をしているのを知っているのは、ミリにゃんと真凜の家族だけだ。

「おはよー!真凜!」

「あ、ミリにゃおはー!まさか、聴こえてた……?」

 曲の再生を止めて、デバイスを外す。

 二人は、歩幅を合わせながら、学校へと向かう。

「もちろん」うなずきながら応える。

「ホンマ?」

「ホンマにホンマ!」

「またやってもーたなー笑」

 ミリにゃんは、笑いながら応える

「相変わらずやん!あんた、一応有名人なんだから、しゃんとしい!」

「ごめんやん!気をつけます!」

 姿勢を正し、敬礼してみせる。


 交差点で、信号が点滅したので歩道で止まる。

 後ろから、自転車がベルを(チリン、チリン)と鳴らしながら歩行者をかき分けて走ってくる。

「多分、あいつやるで」

「せやなー!まあ、現実だから数千円の罰金やろ」

「かもね……危険運転で立件されれば良いのに…」

 会話の途中で、赤信号をそのまま突っ切る自転車

「危ないやろ!怪我でもしたらどないしてくれるん?」

 ミリにゃんが、怒るが聞く耳を立てずそのまま通過していった。


 趣のある古い校舎へ着くと、雨が降りそうなどんよりとした灰色の薄曇が広がっていた。

 空を見上げて真凜が応える。

「帰り、雨降りそうやね…」

「そうやね〜。傘持ってきたかな」

 そう言いながら、三階の一年次の教室へと階段を上る。

 周りにも、生徒がいて思い思いに喋っている。

 (骨骨太郎、どうなったんやろう…)

 (いついつ、サ終しないよね…)

 そんな会話が聞こえてくる。


 階段を上がると左側に自然と足が進む。

「真凜!そっちちゃうよ!そっちから行くと遠回りや」

「あ、ごめん…なんかぼーっとしてたかも」

 綺麗な回れ右を披露し、ミリにゃの元へ向かう。

 私たちの教室は、一年二組で、クラスは一学年六クラスある。

 一年二組の教室に着くと、八割ほどが既に登校していた。

「おはよー!」

 二人で元気よく挨拶をすると、教室からもこだまのように挨拶の波が押し寄せる。

 (なんか、こういうのいいよね。)

 現実だから味わえる。ゲームではないリアルな感触に、改めてありがたみを感じる。


 真凜とミリにゃの席は離れている。言ってしまえば、日本とブラジルみたいな感じで、対角で一番遠い座席に座っている。

 真凜の右隣は、女子で、前は男子だ。

左には、窓があり、グランドを囲む様に校舎は立っている。

そのため、真凜の座席からは、グランドが見える。

 グランドを見ながらぼーっとしていると、チャイムが鳴った(キーンコーンカーンコーン)聞きなれたあの音が流れる。

 若い美人の教師が教室に入って来た。

「おはようございます。今日は、大事な話があります」

 生徒達が顔を合わせる。

「茅根乃音(ちのねのね)さんが、家庭の事情で今日から転校される事になりました。」

 教室がざわつく。

 (え?明後日遊ぶ約束してたんやけど?)

 (俺もや、今日放課後映画観る約束しとったんやけど…)

「皆さん落ち着いてください。"ご両親"から連絡が来ており、海外に行かれるみたいです。」

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