↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/33

第27話 夢魔の始祖を威圧でテイム

 狂乱のミノタウロスすら逃げ出すほどの『未知の恐怖』。

 俺たちは冷や汗を流しながら(俺は物理的に胃痛に耐えながら)、ダンジョンの最深部へと足を踏み入れた。


 そこは、巨大な地底湖と水晶に囲まれた、幻想的かつ不気味な空間だった。

 そして、その中央。

 宙に浮遊しながら、退屈そうに長い脚を組み、妖艶に微笑む『少女』がいた。


「あら。逃げ遅れたゴミ虫かと思ったら……随分と美味しそうな人間たちが来たじゃない」


 漆黒の山羊の角に、純白のツインテール。

 妖しくも美しい赤みがかった肌と、背中から広がるコウモリの翼。

 そして何より目を引くのは、布面積が絶望的に少なく、肌を容赦なく締め付けるボンデージ風の扇情的な衣装だった。


 ……だが、俺は見てしまった。

 宙に浮いて見下ろしてくる少女の、ベルトの隙間から覗く下腹部が――なんだかほんの少しだけ、運動不足のように柔らかく『ぽよん』と弛《たる》んでいるのを。

 しかも、その絶妙な肉付きのヘソの下には、誘惑するような『ハート型』のホクロまでが浮かんでいる。


「あ、悪魔……! しかもあの山羊の角と翼、そして空間を歪めるほどの圧倒的な淫靡《いんび》な魔力……! 間違いない、神話に語られる『夢魔の始祖』リリスよ……ッ!」


 賢者のエルリアが、血の気を失った顔で震える声を上げた。

 その言葉通り、女から発せられる魔力は、これまでの魔物とは次元が違った。

 ただそこにいるだけで、呼吸すら苦しくなるほどの重圧《プレッシャー》。


(や、ヤバいヤバいヤバい! 夢魔の始祖ってマジもんの悪魔じゃん! ていうかあの衣装エロすぎない!? ヘソ下のホクロがハート型とかアウトだろ! ――いや待て、あのお腹、絶対引きこもってサボってた肉付きだ!)


 俺の心臓が、恐怖と、謎の親近感と、別の意味での興奮で早鐘を打ち始める。


「人間にしては、なかなかの博識ね。ふふっ……ん?」


 夢魔の始祖リリスは、甘い瞳でルミナたちを一瞥した後、俺を見てピタリと視線を止めた。

 そして、獲物を見つけた蛇のように、紅い唇を三日月型に歪ませた。


「……信じられない! 貴方、人間なのに『悪魔』の波長を隠し持っているのね。しかも、恐ろしいほどに濃密で、純粋な……」


「なっ!?」


「いいわ、気に入った。ねえ坊や、こんな脆弱な人間どもなんか捨てて、私と契約《つが》いましょう? 私と貴方の魔力が混ざり合えば、この世界すら……」


「「「断る!」」」


 俺が返事をするより早く、アルクとセレスティア、ルミナが同時に声を上げ、俺の前に立ち塞がった。


「ツナグは、お前のような邪悪な存在に屈する男ではない! ツナグの器は、この世界を導くためのものだ!」

「ツナグ様を汚すことは、この剣姫が絶対に許さん! ゆくぞ勇者殿、ルミナ殿!」

「わかりました!」


 俺を護るため、ルミナ、セレスティア、そして勇者パーティの面々が一斉に武器を構え、悪魔へと殺到した。


「リン! ソフィア! 側面を頼む! エルリアは魔法支援を!」

「了解ッ!」


 リンの豪腕が空を切り裂き、エルリアの極大魔法が悪魔を包み込む。

 だが、悪魔は余裕の笑みを崩さず、指先一つでそれらをすべて弾き飛ばした。


「遅いわね。そんな鈍足で、私に届くと思って?」

「……本命は、こちらだ!」


 悪魔の死角。

 ルミナが気化させた全魔力をパスし、それをセレスティアが『絶対魔力耐性』のオーラで極限圧縮して大剣に封じ込めた。


「ルミナ殿の魔力を受けて……穿てッ! 『極光の覇剣(オーバー・ブースト)』!!」


 セレスティアの放った光の斬撃が、悪魔の死角を完璧に捉えた。


「――チッ!」


 初めて悪魔の顔に焦りが浮かび、咄嗟に防御障壁を展開する。

 凄まじい閃光と爆音がダンジョンを揺るがし、悪魔の姿が爆炎に呑み込まれた。


「やったか!?」


 アルクが安堵の声を上げた、直後。


「……ふふっ。痛いじゃないの、下等生物ども」


 黒煙の中から、無傷の……いや、わずかに頬に傷を負った悪魔が姿を現した。

 その瞳には、先ほどまでの余裕は消え、明確な『怒り』と『殺意』が宿っていた。


「私の美しい顔に傷をつけるなんて……万死に値するわね」


 悪魔が指をパチンと鳴らした瞬間。

 空間がグニャリと歪み、目に見えない不可視の重圧《グラビティ・プレス》が、ルミナたち全員を上から押し潰した。


「きゃあっ!?」

「ぐはぁっ……!」


 ルミナ、セレスティア、アルクたち勇者パーティ全員が、床に叩きつけられ、ピクリとも動けなくなってしまった。


 一撃。

 たった一撃で、最強の戦力たちが完全に無力化されたのだ。


「み、みんな!」


 俺は恐怖も忘れ、倒れたルミナたちに駆け寄ろうとした。

 だが、俺の目の前に、フワリと悪魔が舞い降りた。


「さて、お邪魔虫は消えたわ。……さぁ坊や、もう一度聞くわよ。私と契約して、こっち側に来なさい。さもなくば、この小娘どもの命はないわよ?」


 悪魔は妖艶に微笑みながら、俺の頬にその白く冷たい手をそっと撫でるように滑らせた。


(ヒィッ!? ち、近い! おっぱい当たりそう! っていうかめっちゃいい匂いする!)


 ドクンッ!! ドクンッ!! ドクンッ!!

『対象からの【極めて濃厚な接触と性的興奮】を感知。宿主の心拍数、危険域《レッドゾーン》へ突入――』


(ヤバい、このままじゃ俺が爆発する……! でも、ここで俺が逃げたら、ルミナちゃんたちは確実にこいつに殺される!)


 俺は、極度の恐怖と爆発の予感に震える両足に、無理やり力を込めた。


 逃げるな。

 俺の命(自爆)を懸けてでも、こいつからみんなを守るんだ! 


 ボンデージ姿の絶世の悪魔美少女。

 その究極のお色気接触により、俺の心臓はかつてないほどの爆音を鳴らし始めた。


『魔力【350】――乗算開始。×1,000……×15,000……!』

『上限エラー:【魔力】999,999 到達。致死量の余剰魔力を検知』

『基本スキル【身体強化】限界突破《リミットブレイク》。全物理ステータス【ERROR】』


「あら? どうしたの坊や。顔が真っ赤よ? ふふっ、可愛い……え?」


 悪魔の笑みが、ピクリと凍りついた。

 俺の体から漏れ出した、カンスト状態の『自壊寸前のプレッシャー』を、至近距離で真正面から浴びたのだ。


「な、何よこれ……!? こんなの、人間の魔力量じゃないわ……っ! 空間が、私の結界が軋んで……ッ!?」


 俺は全身の骨がミシミシと悲鳴を上げ、毛細血管が焼き切れるような激痛と高熱に耐えながら、必死に顔面を硬直させ、極低音のウィスパーボイスでボソッと呟いた。


「……触るな。俺の仲間に、指一本触れてみろ」


(お色気で俺を自爆させようとするな! みんなを助けるんだ!)


 俺が冷や汗を流しながら(※威圧感MAXで)赤く光る十字の瞳で睨みつけた、その瞬間。


「ヒッ……!? ご、ごめんなさァァァァァァッ!!!」


 俺の視線のプレッシャーに耐えきれず、悪魔は悲鳴を上げて一瞬で後方へ吹き飛び、そのまま壁に激突して『ポンッ!』と白い煙を上げて消滅した。


「……え?」


 俺が呆然としていると、煙が晴れた後――そこには、妖艶な悪魔の姿はなく。

 代わりに、身長20センチほどの、二頭身の『ぷっくりとデフォルメされた悪魔(マスコットサイズ)』が、プルプルと震えながら正座していた。


「な、生意気言って申し訳ありませんでしたぁぁっ! 私のような下っ端悪魔が、貴方様のような真の『大悪魔様』に逆らうなんて……! どうか、どうか命だけはお助けを……っ!」


 小さな悪魔は、俺の足にすがりついてワンワンと泣き叫び始めた。

 どうやら、圧倒的な力の差(威圧感)を本能で悟り、生き残るために自ら魔力を極限まで縮小して降伏したらしい。


(ええっ!? なんかめっちゃ小さくなった!? ていうか俺、何もしてないのに勝ったの!?)


 俺がパニックになっていると、ルミナたちが、信じられないものを見るような目で俺を見上げていた。


「ツナグ様……あの高位の悪魔を降伏させ、矮小な姿に封じ込めたというのですか……!」


「なんという力だ。僕たちの全力の奥義ですら倒せなかった悪魔を……ツナグ、君は本当に……」


(違う! エロい悪魔に触られて心拍数カンストして、俺が爆発しそうになってただけだよ!!)


 俺の心の叫びは届かず、俺は「悪魔すらも威圧で屈服させる真の魔王」として、またしても伝説を作ってしまった。


 そして、俺の足元でプルプル震える小悪魔が、恭しく頭を垂れた。


「主様! 一生貴方様にお仕えいたしますぅぅっ! さぁ、どうか私の『真名』をお呼びください!」


「……真名?」


「はいっ! 私の真なる名は『リリス・ヴァン・レヴィア・アルジェン・テネブラエ……』」


(長ぇよ! 覚えられるか! ていうか見た目ただの小悪魔《デビル》だし、もう適当でいいや!)


 俺は長ったらしい自己紹介を途中で遮り、極低音のウィスパーボイスでボソッと告げた。


 俺がそう言い捨てた、その瞬間だった。


 ピキィィィンッ……!


 小悪魔の額に浮かんでいた複雑で禍々しい紋章(リリスの真名)が、まるでガラスが割れるように砕け散り――代わりに、全く別の簡素な紋章が焼き付くように刻み込まれたのだ。


「ヒィッ!?」


『条件クリア。悪魔の真名【リリス】の強制破棄を確認』

『新規個体名【デビィ】として、絶対従属契約(テイム)が完了しました』


(えっ!? なに今の音!? 俺ただ短いあだ名つけただけだよね!? 勝手にシステムが契約結んじゃったんだけど!)


 俺が内心でパニックになっていると、額に新たな名(デビィ)を刻まれた小悪魔が、ビクッと肩を跳ねさせ、次いで恍惚とした表情で両頬を押さえた。


「ああっ……! 誇り高き『リリス』の真名を容赦なく物理的に叩き割り、私に『ただの悪魔(デビィ)』という種族名そのものの安っぽい名を刻み込み、絶対的なペットとして堕とす冷酷さ……! さすがは私の主様! 痺れますぅぅっ!」


「なっ……! ただ名を呼んだだけで、悪魔の真名を強制的に上書きし、完全な『使い魔(眷属)』にしてしまっただと!?」


「ツナグ様、なんという神業……!」


 エルリアが戦慄し、ルミナが目を輝かせている。


(違う! 小悪魔だからデビィって適当な名前を呼んだら、勝手にシステムが発動しただけだよ!)


 またしても特大の勘違いが生産されていく中、足元では小さなデビィが「デビィ、一生ついていきますぅ!」と俺のブーツにすりすりとしている。


(……なんか、変なマスコットペットが増えちゃったよ……)


『警告。短期間での度重なる【限界突破《リミットブレイク》】および、高位悪魔の波長干渉により、宿主の魔力回路が深刻な変異を起こしています』

『――基本ステータスを更新』

【魔力】450(※残熱蓄積・危険域《イエローゾーン》)


(おいおいおい!? ベースの残熱が一気に450まで跳ね上がってるぞ!? これ、乗算したら一瞬のドキドキで自爆寸前状態になるんじゃないか……っ!?)


 俺の命綱の『幻封石』はどこにあるんだよ!? と、俺は切実に石を探し始めた。


 こうして、俺の(エロハプニングによる)自爆の危機は、高位の夢魔をマスコットペットとしてテイムするという、斜め上の形で決着を迎えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。