第25話 勇者パーティは女子会でした
翌朝。
俺たちは王都近郊の高難易度ダンジョン、『深淵の地下迷宮』へ向かう……その前に、王都の冒険者ギルドへと立ち寄っていた。
Fランクの俺とルミナが、Sランク指定の危険地帯に潜るための「特別許可」をもらうためだ。
「……なるほど。勇者パーティの探索に、君たちも同行したいと」
ギルドマスター室。
クロエはキセルをふかしながら、俺とアルク、そしてルミナたちを見渡した。
「本来ならFランクの立ち入りは絶対に認めないが……。勇者アルクの護衛、大会の優勝者ルミナ、騎士団長、そして何より、君のような『底知れぬバケモノ』が一緒なら、問題はないだろうね」
「感謝する」
俺がクールに(本当は超ビビりながら)頷くと、クロエはニヤリと妖艶に笑って許可証にサインをした。
そして、豊満な胸の谷間が強調されたドレス姿でしなやかに立ち上がると、俺の耳元に顔を寄せて甘く囁いた。
「許可を出す対価は……君が無事に帰ってきた後、たっぷりとその『体』で払ってもらうからね?」
(ヒィッ!? 大人のセクシーお姉さんのド直球な誘惑!? や、やばい、ドキドキしてメーターがっ……!)
「クロエ様! ツナグ様をからかわないでください!」
ルミナが顔を真っ赤にして間に割って入り、俺の腕をグイッと引っ張ってギルドマスター室から連れ出してくれた。
(あ、危なかった……! ルミナちゃん、ナイスタイミング!)
俺は心の中でルミナに感謝しつつ、今度は一階の受付カウンターへ向かった。
「ツナグ様ぁ……! どうか、どうかお気をつけて……! 私のために無事に帰ってきてくださいねっ♡」
受付嬢のマリアが、目を潤ませて(というよりただ発情して)俺を見送ってくれる。
俺は「あぁ」と短く返しつつも、彼女からは微妙に距離を取っていた。
というのも、マリアの瞳があまりにも「ガンギマリのドMの目」をしており、異性としてのドキドキよりも「生物的な恐怖」が勝ってしまい、自壊ゲージがピクリとも反応しなかったからだ。
(マリアのヤバい視線から逃れられるのは助かるけど、この先は魔物だらけの地獄なんだよな……)
俺が内心で盛大にため息をついていると、横からアルクが不思議そうに首を傾げた。
「しかしツナグ、君自身はなぜこの危険なダンジョンに同行を? ルミナ君たちの修練の成果を見たいだけなら、ギルドで待っていても良かったんじゃないか?」
(本当は俺自身の命(自爆)を守るための最強のセーフティネット……『幻封石』をこっそり探すためなんだけど、そんなこと言えるわけない!)
俺は冷や汗を流しながら、いかにも『厳格な師匠』を装って極低音のウィスパーボイスでボソッと答えた。
「……あいつらの成長は、この目で見届ける」
(よし! これなら戦闘に参加しなくて済むし、こっそり石探しに集中できる!)
俺が内心でガッツポーズを決めていると、アルクとセレスティアたちはハッと息を呑んだ。
「あえて自らは一切手を出さず、死の危険が迫ろうとも弟子の力を信じてただ見守り続ける……。ツナグ様、なんという深く厳しい愛情……!」
「わかった。ツナグのその気高い意思を尊重し、僕たち勇者パーティも、君に一切の手を煩わせないよう全力で前衛を張ろう」
(よっしゃあ! 勇者パーティが前衛で全部倒してくれるなら百人力だ!)
***
そして数時間後。
俺たちは目的の地、『深淵の地下迷宮』の入り口に到着していた。
「紹介しよう。僕のパーティメンバーだ。賢者のエルリアは知っているね。そしてこちらが、武闘家のリンと、聖女のソフィアだ」
「ちっす! アタシがリンだ! アンタがアルクをビビらせたっていうすげー男か! よろしくな!」
虎の耳と尻尾を生やした獣人の少女、リン。
褐色の肌に、引き締まった腹筋。そして何より、動きやすい軽装の武道着から零れんばかりの『凶悪なほどの爆乳』が、彼女が動くたびにブルンッと弾けている。
「そ、ソフィアと申します……。その、お見知りおきを……」
もう一人は、目深に被った純白のフードから緑色の髪を覗かせた、小動物のようにビクビクと震える聖女、ソフィアだった。
こちらはリンとは対照的に、折れそうなほど華奢で小柄な『ツルペタ体型』の可憐な美少女だ。
(おおっ……! 爆乳ケモミミ武闘家に、ツルペタ聖女! ……賢者エルリアに男装勇者アルクっていうことはお前ら『女子会パーティ』だったのかよ!)
俺が内心でテンションを上げていると、エルリアが眉間を揉みながら進み出てきた。
その手には、ギルドの入域許可証が握られている。
「ねえ、ちょっといいかしら? ギルドから回ってきた書類を見たんだけど……ルミナ、あなた【Fランク】なの!? 大会で私を倒して優勝したのに!?」
「あ、はい……大会の功績で特例昇格の打診は頂いたのですが、ギルドの規定上、最低限の依頼達成数が足りなくて手続きが保留になっていて……」
「そんなのすぐに片付けなさいよ!」
「私、魔液タンクがないと魔法が使えないポンコツで、魔液と報酬が釣り合わなくて金欠でしたから」
ルミナが恥ずかしそうに頬を掻く。
「じゃあ、あのデタラメな魔法理論を教えた師匠のツナグは!? 最低でもSランク……いや、特級冒険者よね!?」
「いえ、ツナグ様も【Fランク(村人)】ですよ」
「は……?」
勇者パーティ一同が、ピタリと固まった。
「Fランクの弟子に、Sランクの私が負けた……? そしてその師匠もFランク……? ま、まさか……!」
「ああ。ツナグは意図的にギルドの査定を誤魔化し、底辺のランクに偽装しているんだろう。能ある鷹は爪を隠すというやつだ。本当に底知れぬ男だよ」
アルクが納得したように頷き、エルリアが戦慄の汗を流す。
(違う! 俺は登録したてで実績ゼロの、本当に正真正銘のステータス最弱Fランク村人だから!!)
「へぇ……」
俺が必死に心の中で否定していると、武闘家のリンが目を細め、獣人特有のしなやかな動きで俺の目の前まで歩み寄ってきた。
そして、獲物を定めるような鋭い瞳で俺をジッと睨みつける。
「おいおい、Fランク偽装ってマジかよ。アタシの『野生の勘』はごまかせねーぜ? どれ、アタシがアンタの実力を直接測って――」
リンが挑発的に俺の胸ぐらを掴もうと手を伸ばした――その瞬間だった。
(ヒィッ!? ちょっ、近い!?)
リンの豊満な胸が近づき俺が極度の緊張から心臓が爆音を鳴らして『自壊ゲージ』が跳ね上がった。
ドクンッ!!
「……ッ!?」
俺の体から漏れ出した自爆寸前の魔力(威圧感)を真正面から浴びたリンは、伸ばしかけた手をピタリと止め、顔面を土気色に変えて後ずさった。
恐怖で獣が尻尾を巻く。
「……リ、リン? どうしたんだ?」
「ア、アルク……こ、こいつ……ヤバい……ッ!!」
リンはガクガクと震えながら、アルクの背後に隠れ込んだ。
「アタシの全力の拳を叩き込んでも、微動だにしないどころか……逆にアタシの腕が消し飛ぶ未来が見えた……! こいつ、ただ立ってるだけで、全身から『魔王』みたいなプレッシャーを垂れ流してやがるッ!」
(いや、刺激的な女性に心拍数上がっただけなんだけど!?)
リンの言葉に、今度は聖女のソフィアが「ひっ……!」と小さな悲鳴を上げた。
彼女は祈るように両手を組み、震える声で俺を指差す。
俺が冷や汗を滝のように流して絶望していると、ソフィアは感極まったようにポロポロと涙をこぼし始めた。
「わ、私にも分かります……! その紫に赤十字が浮かぶ恐ろしい瞳、そしてツナグ様のお体からは、まるで魔王のような……底知れぬ『邪悪な悪魔の波長』が漏れ出しています……!」
「なんだって!? ツナグが、悪魔だと!?」
エルリアが驚愕し、アルクが険しい顔になる。
「ですが……あんなにも恐ろしい力を身に宿しながら、ツナグ様からは微塵も殺気を感じません! きっと、ご自身の強靭な精神力で、その邪悪な呪いを完全に封じ込めているのです……! なんという気高く、尊い自己犠牲……っ!」
(えっ!?)
「おおっ……! さすがは聖女ソフィア、ツナグの器の大きさを魔力から見抜いたか!」
「知略のエルリア、物理のリン、そして魔力のソフィア……。各分野のスペシャリストである私たちが、全員揃って格付けを済まされてしまうなんてね。本当に、ツナグ君には敵わないよ」
アルクが頬を赤く染め、熱を帯びた瞳で俺を見つめてくる。
その後ろでは、リンとソフィアも「なんてすごい男だ……」「尊いお方です……」と、すっかり俺の信者(ヒロイン枠)に加わってしまっていた。
(……なんで俺、Sランクの勇者パーティ全員から崇拝されてるんだよ!)
俺の胃痛とパニックをよそに、ルミナとセレスティアが誇らしげに胸を張る。
「フフッ、お分かりいただけたでしょうか? これが、私たちの偉大なる師匠、ツナグ様です!」
「さぁ、行くぞ勇者殿! ツナグ様の御前で、私たちの成長を見せつけるのだ!」
こうして。
Fランクの偽装と、悪魔の封印という新たな特大の勘違いを背負いながら。
俺の命(魔力消費)を懸けた、最高戦力によるダンジョン探索が、静かに幕を開けたのだった。




