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第20話 因縁の対決

 そして迎えた、準決勝。

 ステージに上がってきた対戦相手を見た瞬間、ルミナの肩がビクッと跳ね、顔からスッと血の気が引いた。


「あら? その不格好なガラクタ、どこかで見たと思ったら……アルジェント家の恥晒し、無能の『ルナリア』お姉様じゃないですか」


 観客には聞こえないほどの小声で、対戦相手の少女がねちねちと嘲笑う。

 華やかな真紅のローブを纏ったその少女は、ルミナを家から追い出した張本人であり、四大魔導名家『アルジェント家』の次女にして天才と名高い、妹のエリスだった。


「エリス……」

「ふふっ。下級民のような偽名を使ってまだ冒険者ごっこなんてしていたの? まぐれで準決勝まで来たようだけど、欠陥品はどこまでいっても欠陥品よ。私がアルジェント家秘伝の魔法で、貴女のその安いプライドごと消し炭にしてあげるわ! 『紫炎の霧(ドレイン・ミスト)』!」


 エリスが豪奢な杖を掲げると、闘技場全体を覆い尽くすほどの、不気味な紫色の霧が散布された。


「いかん! あれは触れた者の魔力を根こそぎ奪い取り、自らの力に変えるアルジェント家の秘術じゃ! ルミナの『仮想魔力回路オーラ』ごと魔力を腐らせる気じゃぞ!」


 ヴァニアが血相を変えて立ち上がる。

 ルミナの周囲を紫炎の霧が包み込み、過去のトラウマと息苦しさから、彼女の顔に苦悶の表情が浮かぶ。


(ヤバい! ルミナちゃんが紫の霧に飲み込まれる! てかあのお嬢様っぽい対戦相手、なんかルミナちゃんのことめっちゃ煽ってない!?)


 俺は心配と怒りであの対戦相手を睨みつけたが、薬の副作用による異常な高熱と動悸がピークに達し、頭がクラクラしてきた。


(くっ……息苦しい! 熱い! 落ち着け俺、まずは深呼吸だ……スゥーーッ……ハァーーッ……)


 俺は観客席で、目を閉じて高熱の痛みに耐えながら、深く、重い呼吸を繰り返した。


 すると、霧の中でトラウマに囚われかけていたルミナが、観客席の俺の姿を見て、またしても「究極の勘違い」を発動させたのだ。


(凄い深呼吸を繰り返していらっしゃる。何かのメッセージなのでしょうか)


 その瞬間ルミナの瞳に、再び強い光が宿る。


「――過去のしがらみ(紫炎の霧)などに怯えず、真っ向から吸い込み受け止めろと……仰っているのですね!」


 ルミナは意を決して、過去の恐怖を完全に振り払い、杖を強く握りしめた。

 そして、仮想魔力回路の『吸引力』を限界まで引き上げた。


「私の回路は、体の外側にあります。ならば……アルジェント家の秘術すらも、ただの魔力(外気)として巻き込んで融合させるッ!」


 ゴォォォォォォッ!!


 ルミナの体に纏う仮想魔力回路が、エリスの放った紫炎の霧を、巨大な竜巻のような凄まじい勢いで一気に吸い込み始めたのだ。


「う、うそでしょ!? 私の魔力をただの欠陥品が、吸い込んでいる!?」


 妹のエリスが、初めて高慢な仮面を崩して驚愕の悲鳴を上げる。

 ルミナの杖の先端で、炎と水、そして『エリスの紫炎の魔力』までもが混ざり合い、凶悪な反発エネルギーを生み出していく。


「私はもう、アルジェント家の無能なルナリアじゃない!」


 ルミナの凛とした声が、膨大な魔力に乗って闘技場全体へと響き渡る。


「私は……偉大なるツナグ様の一番弟子、ルミナです!!」


 ルミナが誇り高く名乗りを上げ、杖を振り抜く。


「うるさい、うるさい! こんな出来損ないに私が負けるわけ……」


 エリスは杖を構え攻撃体制をとった瞬間。


「いっけえええっ! 『紫炎・爆流蒸破パープル・スチームノヴァ』!!」


 ――ズドゴォォォォォォォォンッ!!!!!


 天才の妹が放った魔力すらも『燃料』として上乗せされた、超絶威力の蒸気爆発。

 闘技場を揺るがす大爆発が巻き起こり、妹のエリスは防御魔法を張る暇すらなく「そ、そんなああぁぁぁぁっ!?」と無様な悲鳴を上げながら、吹き飛んでいった。


『き、決まったァァァーッ!! 圧倒的な力で、ルミナ選手、決勝進出です!!』


 大歓声が闘技場を包み込む。


 そして、爆風に乗って闘技場の場外――あろうことか、俺のいる特別観覧席に向かって一直線に飛んできたのだ。


(うわあっ! こっち飛んできた! 危ない!)


 俺は咄嗟に身を乗り出し、飛んできたエリスの体をガシッと両腕で受け止めた。

 その瞬間。


(あっ……やべっ)


 腕の中に、柔らかい女の子の感触。

 薬の作用も相まって、俺の心臓は一気にレッドゾーンへと跳ね上がった。


 ドクンッ!!

『対象からの【物理的接触】を感知。肉体負荷ゲージ:70%……80%……!』


 俺の体から、陽炎のような『黄金のオーラ(自爆寸前の魔力)』がブワァァァッ! と噴き出した。

 俺は全身の骨が軋む高熱に耐えながら、必死に顔面を硬直させてエリスを見下ろした。


「あ、あぁ……っ」


 腕の中に抱かれたエリスは、恐怖で顔面を蒼白にさせ、ガタガタと震えていた。

 溢れ出る魔力(ただの動悸)を至近距離で浴びたエリスは、完全に心をへし折られていた。


「ひっ……お、お許しを……っ! わ、私が愚かでございました……っ!!」


 エリスは涙と鼻水を流しながら、俺の腕の中で平伏するように命乞いを始めた。


(違う! ただ落ちてきて危なかったから受け止めただけだよ! ていうか早く離れて! 爆発する!!)


 俺が冷や汗を流しながら無言で睨みつけていると、周囲の観客たちがゴクリと息を呑んだ。


「み、見ろ……! あの傲慢なアルジェント家の天才が、あの男の威圧だけで涙を流してひれ伏しているぞ……!」

「ツナグ様……なんという圧倒的な覇王の器……っ!」


 マリアが鼻血を出してメモを取っている。


 観客が熱狂する中、貴賓席の一角では――アルジェント家の当主夫妻が顔面を蒼白にさせていた。


「ば、馬鹿な……っ! 存在を抹消したはずの失敗作が、我が家の天才をあんなデタラメな魔法で一撃で……!?」

「あなた! 周りの貴族たちが『無能な長女とは何事だ』とこちらを見ていますわ! ああ、我が家の名声が……っ!」


 名門の秘密を暴露され、自慢の次女が粉砕されたショックにより、当主夫妻は泡を吹いてその場に卒倒した。


「なんという恐ろしい機転じゃ! 名家の秘術すらも素材として巻き込むとは!」


(ルミナちゃん怖っ!! 対戦相手を魔法ごと粉砕するとか、メンタルがバケモノだよ!!)


 俺の心臓は別の意味でバクバクと鳴り続けていた。

 俺のただのパニック行動(深呼吸とお色気キャッチ)が、不遇だった彼女を過去から救い、名門の実家への極上の『復讐』を完遂させ、大会最強のバケモノへと育て上げてしまったのだ。


 そして。

 いよいよ次なる戦いは、この大会の頂点を決める『決勝戦』。

 対戦相手としてステージに上がってきたのは――白銀のローブを纏った、底知れぬ魔力を放つ『勇者パーティの賢者』だった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

魔導大会もクライマックス!次回決勝戦!


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