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第19話 弟子がバケモノになりました

 大会一回戦を無傷かつ圧倒的な力で突破したルミナは、完全に勢いに乗っていた。


 一方、観客席にいる俺はといえば。

(あ、熱い……! 薬の副作用がまたぶり返してきた……っ!)


 ヴァニアに飲まされた新薬のせいで、異常な高熱と動悸に襲われ、冷や汗をダラダラと流しながら必死に耐え忍んでいた。


 そして始まった、二回戦。

 相手は分厚い大盾を持ち、幾重にも防御魔法を展開する「魔法防御特化」の重装魔導士だった。


「速攻決めますよ! 『プチ・ファイア』『プチウォーター』」

「ハハハ! 俺の『絶対魔力城壁』は、どんな熱も冷気も通さないぞ!」

「そんなもの! 『プチ・スチームノヴァ』」


 ズドォン! と蒸気爆発が直撃するが――敵はルミナの放つ炎と水の融合魔法すらも完璧に防ぎ、無傷のままジリジリと盾を構えて前進してくる。

 このまま距離を詰められれば、ルミナは闘技場の場外へと押し出されて負けてしまう。


(うわ、あんなカチカチの相手が迫ってくるの怖いな! ……ていうか俺、マジで暑い……)


 俺は息苦しさと薬の副作用による異常な発汗から、首に巻いていたタオルで顔を拭った。

 そして、ぐっしょりと濡れたそのタオルを、雑巾のように「ギュゥゥッ」と強くねじって絞り、ポタポタと水気を落としていた。


 すると、迫り来る盾を前に焦っていたルミナが、俺のその行動を見てハッと顔を上げた。


「ツナグ様……! タオルを絞られている……」


(そうか! 相手の盾は熱も冷気も通さず、単発の風圧すら弾く。ならば、闘技場の『瓦礫』を風に巻き込んで重みを持たせ、ねじってドリル化し、連続で削り続ければ……どんな防御も耐えきれなくなる!)


「ツナグ様、ありがとうございます! いきます! 『プチ・ウィンド』……瓦礫融合・旋風回転!!」


(えっ!?)


 ルミナが放った超圧縮された風の弾丸は、闘技場の破片を巻き込み、巨大なドリルとなって敵の魔法障壁をガリガリと削り取り――ついに絶対防御を貫通!

 そのまま凄まじい風圧と瓦礫の散弾で、重装魔導士を盾ごと場外へと吹き飛ばした。


「に、二回戦、勝者ルミナ選手ーッ!!」


「さすがはツナグ様。手首の微細な動き(タオルを絞る動作)だけで、あのような『物理粉砕』の真理を伝達されるとは!」


(ただ暑くて、汗拭いたタオル絞ってただけだよ!! てか風魔法も使えるのか!?)


「さすがはルミナじゃのう。今まで魔力枯渇症のハンデを補うため、あらゆる魔法の知識を叩き込んでいたのじゃろう」


 ヴァニアが頷きながらしみじみと語る。


 続く、三回戦。

 相手は「雷魔法」を自らの肉体と剣に纏い、超スピードで移動する電光石火の魔法剣士だった。


「遅い遅い! 俺の斬撃から逃げ切れるか!」


 敵はジグザグに闘技場を駆け回り、ルミナに猛攻を仕掛ける。


 ガキンッ! ガキンッ!


 ルミナはかろうじて仮想魔力回路を圧縮して斬撃を防いでいるが、完全に防戦一方だった。


(ヤバい! ルミナちゃんが押されてる! それにあの剣士、動きが速すぎて観客席まで土埃や剣の破片が飛んできそう!)


 俺は「破片が目に入ったら痛い!」という極度の恐怖から、思わずギュッと両目を固く瞑り、顔を背けてしまった。

 だが、防戦一方で追い詰められていたルミナは、その俺の姿を見て、またしても雷に打たれたように悟った。


「……肉眼で追えない敵なら、目を閉じて『魔力感知(心眼)』のみで先読みしろという、ツナグ様の無言の教え……!」


(違う! ただビビって目を瞑っただけだ!)


 ルミナはスッと目を閉じ、呼吸を整えた。

 そして、敵が死角から高速で斬りかかってきたその瞬間――見事なタイミングで振り返りざまに杖を突き出した。


「そこです。『プチ・スチームノヴァ』!」

「なっ、ぐはぁぁぁっ!?」


 完璧な先読みによるカウンターの蒸気爆発がクリーンヒットし、三回戦も一撃で決着がついた。


「見事な心眼じゃ。弟子を信じ、あえて目を閉じて見守る師匠の胆力も大したものじゃな」

「あ、ああ。ルミナならやってくれる」


(あああっ……! 弟子の命がけの死闘すら、見届ける価値もないと目を閉じる冷酷なツナグ様……っ! 素敵ですぅぅっ!)


 背後からマリアが熱い視線を送ってきているが、気持ち悪いので全力で無視した。


(だから破片が怖かっただけなんだってば!!)


 俺の無自覚すぎる勘違いアシスト(ただのパニック行動)と、それを「神からの啓示」として受け取るルミナの狂信パワーにより、ルミナはトントン拍子で勝ち進んでいった。


 そして迎えた、準決勝。

 ステージに上がってきた対戦相手を見た瞬間――俺の平穏なスローライフを脅かす、とんでもない『因縁の対決』が幕を開けようとしていた。

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