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第16話 適当アドバイスが神業に化ける

 大会へ向けた特訓初日。

 俺たちは、マリアの計らいで貸し切られたギルドの特別修練場(頑丈な防魔結界付き)にいた。


「いっ、くぅぅぅ……っ!! やっぱり、だめ……っ!」


 ルミナは背負った魔液タンクのバルブを開き、懸命に魔力を放出しようとしていたが、すぐに苦しそうに膝をついてしまった。

 呼吸は荒く、彼女の白い肌は高熱を帯びたように赤く火照っている。


「大丈夫か、ルミナ殿!」

「はい……。でも、やはり体内の『魔力回路』に大量の魔力を通そうとすると、全身の血管が焼き切れるように痛くて……」


 セレスティアに背中をさすられながら、ルミナが悔しげに唇を噛む。

 特訓の見学に来ている大魔導士ヴァニアも、やれやれと首を振った。


「言ったじゃろう。魔力枯渇症の細い回路に、大出力をそのまま通すのは無理じゃ」


「そんな……! ツナグ様! どうか、どうか未熟な私に導きを……!」


 ルミナが涙ぐみながら、俺の足元にすがりついてきた。


(ヤバい、師匠として何か言わないと! ええい、困った時のラノベ知識だ!)


 俺は脳内のアニメが思い浮かんだ。

 よくあるバトルファンタジーの主人公たちは、魔力を体の中だけで練るのではなく、体の外側にブワァッとオーラのようにまとって戦っていた記憶。

 俺は顔面を硬直させ、さも真理を突いたような顔を作り、極低音のウィスパーボイスでボソッと呟いた。


「……魔力をまとうんだ」


(よし、キザに言えたぞ! あとは勝手に解釈してくれ!)


 俺が内心で祈っていると、ルミナはハッとして目を丸くし、手を顎に当ててうつむいた。


「魔力を纏う……? 魔液は、魔力を極限まで圧縮したもの。外に出せば気化し、体に取り込むことができる……。それを体内に吸収するのではなく、気化した状態で体の外側に『纏う』……っ!?」


 ルミナの考察を聞いたヴァニアが、持っていたキャンディをポロリと落として叫んだ。


「なっ……! 理屈の上では存在した仮説じゃが、実用化できた者はおらん! 気化した魔力を吸収せず、皮膚表面へ這わせて『仮想魔力回路』を組む、そんな精度の魔力操作、普通の人間には到底不可能じゃぞ!」


(えっ!? 俺、なんか常識外れのこと言っちゃったか!?)


 だが、ルミナの青い瞳には、パァァッ! と革命的な光が宿っていた。


「……やります! ツナグ様が私ならできると信じてくださったのだから!」


 ルミナはスッと立ち上がり、決意の瞳で魔液タンクに手を伸ばした。

 そして、服に繋がっていた『一本のチューブ』を勢いよく引き抜きバルブを捻った。


「なっ、ルミナ!? チューブを抜いたら魔液が――!」


 プシュゥゥゥッ!


 音と共に、青いガス(気化した魔力)が彼女を包み込む。

 ルミナから滲み出る魔力とそのガスを混ぜ、体の表面に留めようとするが、すぐに霧散してしまい定着しない。


「だめ……コントロールが……っ! もう一度!」


 ルミナは何度もバルブを捻り、気化した魔力を纏おうと試みる。

 だが、強引に留めようとすれば弾け、弱すぎれば空気に溶けてしまう。

 数十回の失敗を繰り返し、彼女の肌は摩擦熱で赤く爛れ、呼吸は限界に達していた。


「ほれ見ろ、やはり無茶じゃ。常人にできる操作ではない」

「……いいえ! ツナグ様の言葉に、不可能はありません!!」


(うわあああっ! 俺が適当なこと言ったせいで、ルミナちゃんが無理しちゃってる! 止めなきゃ!)


 俺は自責の念に駆られ、たまらず「もうやめろ」と声をかけようと一歩踏み出した。

 だが、その瞬間だった。


 ルミナがフラフラになりながらも立ち上がり、血の滲むような集中力を発揮した。


 (ツナグ様のため……ツナグ様のため……!)


 狂信的なまでの想いが、彼女の限界を突破させる。


 プシュゥゥゥッ!


「……っ!!」


 気化した青い魔力が、ルミナの肌の数ミリ外側を這うように広がり――やがて彼女の全身を包み込む「炎のように揺らめく光のオーラ(仮想回路)」へと見事に定着したのだ。


「ば、馬鹿な……っ! 本当にやりおった……!」

「おおっ……! ルミナ殿の体が、光り輝いている……!?」


 ヴァニアとセレスティアが驚愕の声を上げる。

 俺が止めようと上げた手は、完全に宙を彷徨っていた。


(……うそだ。俺のアニメ知識、気合いで実現しちゃったよ)


 ルミナは熱さによる苦痛を一切見せることなく、両手を真っ直ぐに修練場の巨大な的(ミスリル製の岩)へと突き出した。


「これなら……どれだけ魔力を出しても、熱くないっ! 『フレア・バースト』!!」


 ズドドドドドォォォォォンッ!!!!!


 ルミナの両手から、極太の灼熱の炎がレーザーのように圧縮されて放たれた。

 凄まじい衝撃と爆音。

 修練場の防魔結界がビリビリと悲鳴を上げ、的だったはずの硬度なミスリル岩は、ドロドロに溶解して吹き飛んでいた。


「……っ!」


 砂煙が晴れた後、自分の放った魔法の威力にルミナ自身が一番驚いていた。

 杖すら使わず、己の体をパイプとして放たれた極大魔法。


「や、やりました! ツナグ様!」


 ルミナは感極まったように振り返ると、満面の笑みで俺の胸にダイブしてきた。


 ドンッ!

 柔らかすぎる二つの膨らみが、俺の体に押し付けられる。


(うおっ!? なんだか分からんが威力凄い!? そして密着ヤバい!!)


 ドクンッ!! ドクンッ!!

『対象からの【極めて強い感謝と接触】を感知。肉体負荷ゲージ:15%……40%……60%……』


(ヤバいヤバい! 外套コート着てても、こんな全力ハグされたらメーター上がる!)


「ツナグ様! ヴァニア様の常識を覆す『仮想魔力回路』の理論……! 貴方様は、この世界の魔法の真理すらも見通しておられるのですね!」


 ルミナが顔をスリスリと俺の胸元に擦りつけながら、さらにギュッと抱きしめてくる。

 それに続くように、セレスティアも畏敬の眼差しでその場に片膝をついた。


「これほどの絶技を、ただの一言で導かれるとは……。ツナグ様こそ、真の導き手」


「……あきれた男じゃ。ワシが理論として積み上げてきた仮説の核心を、お主は一言で踏み抜きおる。しかも実現する方も実現する方じゃ」


 ヴァニアも呆れたように、だがどこか嬉しそうにため息をついた。


(違う! アニメの設定言ったら、気合いで実現されちゃっただけだ!)


 俺が自爆の恐怖で冷や汗を流しながら固まっていると、修練場の隅で記録係として控えていたマリアが、両手で顔を覆って激しく身悶えしていた。


(あああっ……! 大魔導士ヴァニア様が積み上げた理論の核心を、ツナグ様がたった一言で起動条件に変えてしまうなんて……! たまらないわ、その圧倒的な理解力で、私の未熟な脳みそをめちゃくちゃに掻き回してぇぇ……っ!)


(お前は何を勝手に興奮してるんだよ!!)


「……っ、ふぅっ」


 俺が内心のパニックと戦っていると、俺の腕の中でルミナがガクッと膝から崩れ落ちた。

 見れば、彼女の背負っている『魔液タンク』のゲージが、完全にエンプティ(赤色)になっている。


「大丈夫か、ルミナ殿!」

「は、はい……。でも、魔力が空っぽに……」


 ヴァニアが顎に手を当てて呟いた。


「威力は絶大じゃが、気化させて纏う分、放出量が多すぎて燃費が悪すぎる。一発撃てば魔液が空になるようでは、トーナメント戦を勝ち抜くのは不可能じゃな」


(な、なるほど。威力を上げた分、すぐガス欠になるってことか……)


 仮想魔力回路による、規格外の火炎レーザー。

 だが、その強すぎる力には『圧倒的な燃費の悪さ』という新たな課題が隠されていた。

 俺とルミナの、大会に向けた特訓の日々は、まだ始まったばかりだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

明日はついに魔導大会!お楽しみに!


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