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第10話 水着美女を見てはいけない ★

 王都から馬車に揺られること数時間。

 俺たちは目的の地である『深蒼しんそうの地下湖』の入り口へと到着していた。


 洞窟の奥へと続く階段からは、肌が粟立つような濃密な水魔力の気配と、ひんやりとした空気が漏れ出している。


「では皆様、さっそくマリア特製の『専用魔法水着』にお着替えください♡ あ、ツナグ様もですよ?」


 案内役としてついてきたマリアから布の面積の極端に少ない水着(海パン)を渡され、俺たちは男女に分かれて岩陰で着替えることになった。


(マジかよ……。非モテ童貞が、女の子たちと一緒に海パンで水辺のイベントとか、今度こそ爆死するのではないか!?)


 俺はため息をつきながら、早々に海パン一丁に着替えて岩陰から出た。

 本来ならテンションが上がるはずの水着イベントだが、今の俺にとっては『視覚刺激による自爆』のリスクを伴う完全なデスゲームである。


「お、お待たせいたしました……っ。ツナグ様……」


 やがて、岩陰からルミナが顔を出した。

 純白のフリルと青い宝石があしらわれた、可愛らしいビキニ姿だ。

 だがその可憐なデザインとは裏腹に、彼女の豊かな胸は布地から零れ落ちそうになっており、恥ずかしそうに胸元を隠す仕草が破壊力抜群だった。

 そして彼女の華奢な肩には、魔法を使うための命綱である魔液タンクが、水着姿にも関わらず不格好に掛けられ、ビキニにチューブが接続されている。


「ツ、ツナグ様っ、いかがでしょうか……? その、あまり見ないでくださいね……っ」


「このような破廉恥な格好、本来ならば切腹ものですが……主君のためならば我慢いたしましょう……っ」


 ルミナの後ろから現れたセレスティアは、黒を基調とした、布面積が少ない大人なデザインの水着に不釣り合いの剣を腰に携えていた。

 引き締まった美しい腹筋。

 そして何より目を引くのは、過酷な鍛錬と戦場を生き抜いてきた証である、逞しくも肉感的な「太い太もも」だった。


 だが、普段のスリット入りの鎧では隠れている柔らかな腹部や背中には、いくつもの無骨で痛々しい『傷跡』が刻まれている。


「セレスティア様……そのお体の傷……っ」


 ルミナが息を呑んで口元を覆う。

 セレスティアは自身の体の傷と、騎士として太くなりすぎた脚を隠すように、恥ずかしげに身をすくませた。


「……ツナグ様。見苦しい体で、申し訳ありません。機動力を上げるためのスリット鎧から覗く部位にこそ傷は目立たないですが……こうして胴体を晒し、無骨に太くなった脚をお見せするのは、やはり女性として、少し躊躇ためらわれます」


(う、うわあああああっ!! 絶世の美女三人の水着姿!? しかもセレスティアちゃん、傷があってもスタイル良すぎてエロい! ていうかあのむっちりした太ももと、水着の布地からこぼれそうな下尻のライン……! しかもそこに、トドメみたいに色っぽいホクロまであるし!!)


 ドクンッ!! ドクンッ!! ドクンッ!!

『対象からの【極めて強い視覚的刺激と性的興奮】を感知。宿主の心拍数・危険域へ突入。肉体負荷ゲージ:50%……70%……85%……!』


 ジリッ!


 手の甲の魔法陣が焼け焦げるような熱を発し、警告灯のように激しく点滅し始めた。

 ただでさえ水着姿で破壊力があるのに、ルミナたちは俺から漏れ出ている『魅了』のフェロモンに当てられ、とろんとした熱い視線をこちらに向けている。


「ツナグ様ぁ……なんだか、水着になったら余計にツナグ様にくっつきたくなってきちゃいましたぁ……」

「私としたことが……っ、主君の半裸のお姿を前に、理性が……っ」


 ルミナとセレスティアが、ふらふらと俺に近づいてくる。

 そしてマリアは「あああっ、ツナグ様の雄の匂いが直接……っ! たまりませんっ!」とヨダレを垂らして突進してこようとしている。


(待て待て待て待て!! 水着姿の美女三人に密着されたら、一瞬でゲージが振り切れて、地下湖ごと大爆発する!!)


 俺の心臓は、恐怖と興奮で破裂寸前だった。


『限界突破への進行度――90%……95%……!』


(落ち着け! 煩悩を捨てろ! 意識を別の何かに集中させて、視覚情報を完全にシャットアウトするんだ!)


 俺は必死にパニックを抑え込み、いつもの痛い処世術――『クール系主人公』の仮面を被る。

 かつて読んだラノベの、どんな誘惑にも動じないストイックな賢者の姿を脳内に降臨させ、その場にドカッと胡座あぐらをかいた。

 目をギュッと固く閉じ、視界を塞ぐ。


 そして俺は昔丸暗記した『中二病ラノベの超絶長い魔法詠唱』をブツブツと高速で唱え始めた。


「……我は深淵を覗く者、星辰の理を紡ぎて絶対の虚無を顕現せん。第一の結界は拒絶、第二の結界は不可侵……」


(くぅぅ、水着の女の子の前にいるのに凝視できないとわ)


 目を閉じてひたすらブツブツと呪文を唱え続ける俺の姿を見て、ヒロインたちはピタリと足を止めた。


「こ、これは……っ!?」

「ツナグ様から、凄まじい魔力の波動が……っ!」


 俺の体から、自爆寸前まで溜まった『残熱』のプレッシャーが重低音となって周囲の空間を揺らしていた。

 その光景を見たセレスティアが、ハッと息を呑んで戦慄する。


「……なんという事だ。こんな無防備な私たちの姿を見ても、一切の欲情に呑まれていない。それどころか、ご自身の内に巣食う『大悪魔』の衝動をねじ伏せるため、これほど高度な深淵の呪文を紡いでおられるのか……!」


「それにあの言葉……! 人の身には到底扱えない、悪魔を縛るための絶対の結界魔法です! きっと、強まった『魅了』から私たちを守るために、ご自身の精神を削ってまで詠唱してくださっているのですね!」


 ルミナが両手を組み、俺に向かって祈るように瞳を輝かせた。


 そしてセレスティアは、ハッと息を呑み、自身の体に刻まれた傷跡をそっと撫でた。


「……それだけではない。私が恥じていたこの醜い傷跡を見ても、ツナグ様は顔をしかめるどころか、真っ直ぐに目を閉じ、ただ静かに深淵の魔法を紡いでおられる」


 セレスティアの翡翠の瞳が、熱い涙で潤む。


「――『外見の美醜や過去の傷跡など、俺にとっては些末なこと。お前の本質(騎士としての魂)だけを見ていればよい』……あの方は無言のまま、私にそう伝えてくださっているのだ……!」


「ご自身の内に巣食う大悪魔の衝動をねじ伏せながら、不名誉な傷を抱える私を、これほどまでに全肯定してくださるとは……。ああ、なんと気高く、慈悲深き御方なのだ……!」


(だから違うって! 俺がエロい水着に興奮して爆発しないように、必死に目瞑って中二病のポエム唱えてるだけだから!! ちょっと黙っててくれ!)


 俺の悲痛なツッコミは届かず、「己の内の悪魔を封じ、仲間のために深淵の魔法を詠唱する孤高の英雄」という勘違いが、またしても強固になっていく。


 そして、一人だけ勘違いのベクトルが違うマリアは、両手で顔を覆い、太ももを擦り合わせながら激しく身悶えしていた。


(あああっ……! これだけの水着でアピールしたのに、目すら開けない完全なガン無視プレイ! 私の体なんて路傍の石ころ同然ってことですね!? なんてドSで冷酷なお方……っ! ゾクゾクしますぅぅ……っ!)


 マリアの変な声が漏れ出ている。


(マリアのやつ、絶対よからぬことを考えてるな!!)


『対象の【精神統一】により、交感神経の乱れが沈静化。肉体負荷ゲージ:95%……30%……』


 どうにか自爆の危機を脱した俺は、恐る恐る目を開けた。

 だが、ここはまだ地下湖の入り口に過ぎない。

 俺の心臓と胃袋を削る、過酷な素材探し(スローライフへの道)は、まだ始まったばかりだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

10話の挿絵いかがでしたでしょうか。


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