78. 隣国からの依頼と毒研究チーム
リシュネーゼ帝国は、“研究国家”として知られ、
日夜生み出される発明や薬品が、各国へ輸出されることで繁栄している。
特に冒険者の国、マグリル王国では、
リシュネーゼ帝国が開発した魔導具などにより、
冒険者達の生存率が向上している。
帝国民にとって、「研究こそ国の誇り」
という価値観が根付いており、その誇りを体現する者たちが結構いる。
そう、いわゆる――『研究バカ』。
研究に没頭しすぎて帰ってこない者、
寝食を忘れて実験を続ける者、
気づけば三日徹夜している者。
周囲は大変苦労するが、
彼らが大きな成果を出すのもまた事実。
そして今日も、
そんな“天才であり厄介な存在”が動き出していた。
***
ここは、毒研究チーム。
今回の依頼は、
隣国マグリル王国から密かに届けられた“混合毒”の解毒薬作成。
透明な液体が2本。
どちらも単体では“滋養に良い薬”であるが、混ざると毒になる。
マグリル王国からは、この混合毒の解毒薬が見つかっておらず、
現在、その毒に苦しんでいる者がいる為、解毒薬を早急に作ってほしいという依頼だそうだ。
毒は専門分野だ。
どこにも負けるつもりはない。
「古い書物の“薬の飲み合わせ”に載っていたらしい」
という情報も添えられていた。
(古い書物の薬の飲み合わせ……ねぇ……)
この毒研究チームは、リーダーを筆頭に、
研究の中心となる、天才双子研究者、”キサノ”と”ミサノ”という男女の双子と、
その2人のサポート隊4人の、計7名で稼働している。
この天才双子は、考えることも同じで、
お互い増長し、勝手に盛りあがって、暴走していく。
その暴走がいい方向に行くこともあるが、そうばかりとは限らない。
「この毒、一回受けてみようか」
「そうだねー、この毒がどんな症状をひき起こすのか、きになるね」
そういう方向に行こうとした時、サポート隊が出動。
「いやいや、現在、解毒薬、無いって言っているよね!」
「解毒薬作れなかったら、死んじゃうよ!」
「っていうか、自分で試すな!!」
「どんな毒かを味わいたいとか、毒に魅入られ過ぎだ!」
もはや、サポート隊が言う定番のツッコミになりつつある言葉たちだ。
そして案の定、今回もこの2人は、混合毒に興味を持った。
「すごいね、これ。1本1本は、滋養にいい薬だって」
「なんでも、1本1本別々に飲ませても、体の中で毒になるらしいよ」
「こわーい。それじゃあ、飲ませる前に、薬を押収して調べても、
毒じゃないから、証拠にならないね」
「だけど、ずいぶん手の込んだ事を考える人がいるんだね」
「執念深いね!」
危険な方向に向かっていないならと、
2人の会話をよそに、サポート隊は、古い書物を探す。
研究の資料集めもサポート隊の仕事。
ここは毒の研究室、書庫には毒に関する書物なら、何でもそろっていた。
サポート隊がその書庫を漁り、問題の古書を見つけてきた。
「ありました!薬の飲み合わせ注意のページです!」
それは、古い書物の、薬を扱う者へ書かれた、
薬の飲み合わせ注意のページ。
だが――
「解毒方法が……載ってない……」
「なんで一番大事なところがないのーーー!!」
ムキーっと怒るサポート隊たち。
そして、その横でわくわくし出す、キサノとミサノ。
リーダがチームに一喝いれる。
「遊んでいる暇はない!
依頼主は”早急に”と言っている。
まずは原料が書物と一致するか確認するぞ!」
『はい!』
メンバー全員で気合を入れて返事をする。
キサノのミサノ、それぞれ、解析魔法陣の上に1滴ずつ、薬を落とす。
「「解析開始」」
魔法陣が輝きだし、
空中に成分情報が浮かび上がる。
この魔法陣は、
帝国全体で登録・管理している情報にアクセスし、
照らし合わせ、原料を特定する魔法陣。
これにより、原料の特定の時間を大幅に減らすことが出来る。
帝国最大の自慢のシステムだ。
結果、書物通りの植物が使われていた。
リーダーが解析結果をメモし、次の解析を行う。
「では次、混合毒にして解析だ」
キサノの解析魔法陣に混合毒をのせる。
「解析開始」
魔法陣が輝き、結果が浮かぶ。
リーダーは解析結果を見て驚く。
「……一致する情報が……ないな……」
(飲み合わせ注意であっても、
書物にのっていたのだ、なにかしら情報があるかと思ったが、なかった)
キサノも、もとの2本の薬の結果と、
2本を混ぜた後の結果の変わりように驚いた。
「すごい変化ですね。善と善で悪になるなんて」
ミサノも戸惑ていた。
「これは……どうすればいいんですかね」
サポート隊が追加情報を持ってくる。
「過去にも何度か、
この混合毒の解毒剤作成の依頼があったようですが……
全部“研究一時保留”で終わっています」
リーダーもその現状を聞き、頭を抱えた。
「……やはり厄介な毒だな」
その後も、双子は思いつく限りの解毒薬を調合したが、
どれも毒成分を除去できなかった。
「やっぱり、飲んでみるしかないんじゃないか?」
「症状から薬となる原料を探した方が……」
「だから、やめろって……!」
(依頼は“早急に”だったが……
この毒は過去に何度も断念されている。時間がかかるな……)
そこで、リーダーは決断した。
「今回の依頼はこう返す。
『この毒の解毒薬は現在存在せず、
あらゆる素材で試したが効果はなく、
過去にも複数回作成を断念している。
解毒薬作成には時間を要する』
……と」
帝国は、申し訳ないが、と前置きした上で
その結果をマグリル王国へ伝えた。
だが――
毒研究チームは諦めていなかった。
それどころか、リーダーは燃えていた。
双子も燃えていた。
「必ず、この毒の解毒薬は俺らの手で作るぞ!」
その言葉に、双子もサポート隊も、力強くに頷いた。
研究室の灯りは、
今日も夜遅くまで消えることはなかった。




