77. 瀕死の騎士と希望の光
「もう一つ、ためしたいことがあるんだ」
アレクは、もう一つ、考えていることがあった。
俺の回復魔法の金の光のことだ。
はじめてつかったときは、
金の光は雨のように降り注ぎ、
死にかけた仲間を包み込んだ。
しかし、その後は違う。
光は溢れるだけで、雨にはならない。
(なんでだろう……?
なんで、あのときだけ……?)
また、そもそも、他の人の回復魔法は、金の光は出ないそうだ。
では、俺の金の光とはなんだろう?
「もうひとつ?」
「まだあるのですか?」
ヒナとリア姫は期待のこもった目で見つめてくる。
リオン兄も俺に訪ねてきた。
「今度は何をするのだ?」
アレクは小さな拳をぎゅっと握りしめた。
「おれのかいふくまほう……なんでひかるのか、しりたいんだ。
はじめてつかったとき、きんいろのあめがふったのに……
そのあとは、あめにならない。
なにか、りゆうがあるとおもうんだ」
顎に手を添えて、ぐぬぬ悩むアレク。
「そうだの。
金の光が出る時点で、ケガの回復だけではないと思うぞ。
……推測だが、解毒もできるのではないか?」
「……どく!それはかんがえてなかったな……。
まずは、そこのけんしょうからいくか。
どくにかかってるひと、いないかな?」
すると、すかさず護衛騎士が教えてくれた。
「王城内の治療所に、毒を受けた患者が一人おります。
……ご案内しましょう」
***
治療所は静かで、薬草の匂いが漂っていた。
「所長、先ほど、うちの騎士団から知らせがいっていると思いますが、
毒を受けた騎士の治療をさせていただきたく来ました。」
所長のセトが深く頭を下げる。
「聞いております。
愛し子様……どうか、力をお貸しください」
毒を受けた患者は、
変異個体の蜂の魔物に刺された騎士だった。
その後、変異個体は、なんとか討伐したものの、
戦闘直後、
市販の解毒剤を使用したが効かず、
処方したの解毒薬も効果がなかった。
受けたのが変異個体の毒だったせいか、
通常の蜂の魔物の解毒役では、
毒も変異して効き目がなかったそうだ。
それで、今はいろいろ解毒剤を試しているところらしい。
「体力も下がっているだろうから、
回復魔法もかけたんだ。
しかし、毒も活発になるタイプらしく、
余計に苦しめてしまってね。
これだから変異個体は嫌なんだよ」
最後、本音がぽろっと出てたが、
変異個体ってそういうところも変異してしまっているのかと、
アレクも驚いた。
(ただ強くなるだけでは……ないんだな……。厄介だな)
「あの、おれのかいふくまほうを、かけてみたいのです。
おれのかいふくまほうは、きんのひかりがでて、
それで、もしかしたら、げどくにができるかも、しれないんです。
かんじゃさんが、りょうしょうしてくれたら、かけていいですか?」
所長は考える。
(この子は愛し子だという。
通常の回復魔法と異なり、金の光も放つという。
その金の光が毒にも効くのであれば、喜ばしい事だ。
しかし、通常より強力な回復魔法だとすれば、
毒が活性化し、患者は次の瞬間に命を落とすかもしれない。
……しかし、現状、この毒に効く解毒薬は見つかっていない。
このままでは……数日もたない)
「承知……いたしました。
解毒薬は今だ見つかってない。
アレク君の回復魔法にかけるしかない状況だ。
患者に話してみる。
……少し待っていてくれ」
所長は、患者のいる病室に向かっていった。
少しして、所長は帰ってきた。
「お願いしたいそうだ。
もちろん、悪化することもありうることは、伝えてある。
それでも”可能性があるなら”と……」
真剣な眼差しの所長が、アレクにそう言った。
患者にとっては、最後の希望をアレクにかけたのだ。
「わかりました。
かんじゃのもとへ、あんないをおねがいします……」
所長は、一度頷き、案内してくれた。
病室に入ると、薬の匂いがした。
そして、ベッドには、呼吸が浅く、血の気が引き、
顔は蝋のように白くなった男性が横になっていた。
「こちらが先ほど話ました、愛し子のアレク様です」
「アレクです。こんかい、ちりょうをさせていただきます」
挨拶をして、ベッドで横になっている男性を見る。
男性は、体を動かすことが出来ないようで、
目だけをアレクに向け、かすれた声で言った。
「よ……ろし……く、おね……がい……し……ます……」
苦痛に顔を歪めながら、アレクに挨拶をしてきた。
毒がもう全身に回っているのだろう。
動かすだけで激痛を感じているようで、しゃべるのも辛そうなのに……。
その一言に、アレクの胸がぎゅっと締めつけられた。
この人は、仲間を庇って魔物に刺されたそうだ。
(こんなにがんばった人が……
仲間をまもった人が……
こんなに苦しむなんて……いやだ)
アレクは背筋を伸ばし、小さく息を吸い、
患者に手をかざし、回復魔法を少しずつかけていく。
「どく……でてって……!
からだ、げんきに……なって……!」
アレクのそんな言葉を、
護衛騎士は隣で手を握りしめ、聞いている。
その言葉は、詠唱ではない。
ただの願い。
ただの祈り。
だが――
金の光は、応えるように溢れた。
柔らかく、あたたかく、
患者の身体を包み込む。
護衛騎士は息を呑んだ。
すると、一瞬、患者が苦し気に唸った。
「あなたっ!」
奥さんが咄嗟に席を立ち患者に寄る。
「奥さん、落ち着いてください。
見てください。旦那さん、落ち着いてきたでしょう
一緒に祈りましょう」
所長は奥さんをなだめて椅子に座らせる。
患者の様子を見ると、
一瞬苦し気に唸ってはいたが、
その後、痛みが薄れてきているようで、
顔の歪みが、ゆっくりとほどけていく……。
そのうち、金の光がふわりと揺れ、
患者の身体から、黒い蒸気のようなものがふわりと立ち上った。
(よし、どくが……ぬけていく……)
顔色が戻り、乾いた唇に潤いが戻り、
荒れた肌が滑らかになり、
体中の傷跡も、治っていく……。
それは神秘的で、不思議な光景だった。
アレクは、魔法が弾かれる感覚を覚えた。
(もう……だいじょうぶだ)
ホッとして、手を下ろす。
患者は、目を見開いて、ゆっくり上半身を起こす。
痛さを感じず起き上がることができ、顔を触り、体を触り、両手を見た。
「あぁ。……痛くない……動ける……声が出る……」
妻は泣きながら夫に抱きついた。
「あ……あなた。よかった……。よかったわ……!」
(どうやら、リオン兄の推測どおり、解毒効果もあったみたいだな。
だけど、やっぱり今回も金の光だけだったなー。ま、そのうち分かるかー)
アレクは、その辺は考えてもわからないので、先送りにした。
「愛し子アレク様、本当に……本当に、ありがとうございました。
もうだめかと思っておりました……。
また、騎士として、この国を守ることができます……。
……妻も泣かせずにすみました……」
患者は最後ににこっと笑うと、
奥さんと抱き合い、声を震わせて泣き出した。
「いえ、おれも、たすけることができて、よかった」
そういうと、2人にしてあげようと、
病室を出たのだった。
***
「たすけられてよかったね」
「やはり、我の推測通り、毒にも効いたな。
金の光は、ただの回復ではない。
もっと……根本に触れる力なのであろうな」
「じゃあ、”なおるたま”は、かいふくも、げどくも、
どっちもできちゃうってことだね!ばんのう!」
「はっはっは。たしかに、そうだな。万能な力だな」
自分が助けられる範囲が増えてことに喜んでいると、
「おにいちゃ、すごい!なおしちゃったね!」
「あれくくん、すごいわ!なんでもなおしちゃう、おいしゃさまです!」
「うん。ありがとうね!」と言って、2人の頭を撫でる。
ヒナはいつものように喜び、
リア姫は「子ども扱いしない」と言われるかと思ったけど、
じもじして照れていた。
そんな微笑ましい様子を見ていると、
護衛騎士が声をかけてきた。
「アレク様……
同僚の命を救ってくださり、
心より感謝いたします。
貴方は、この国の、世界の希望の光だ。
これからも我々は、命がけでお守りいたします!」
(急に”アレク様”になっちゃったよ……)
「あたまをあげてください。
おれのことは、いままでどおり、あれくくんがいいです。
おれ、まだ3さいだし。
みんな、おれやひなのこと、まもってくれるから……、
おれも、おれのやりかたで、みんなまもりたいんだ。
そしたら……さいきょうでしょ!」
ふんすっ!と胸をはってみる。
護衛騎士は、涙をこらえながら笑った。
「……そうですね。最強ですね!」




