76. ”治る玉”爆誕と怯える騎士達
時は少し遡る。
王城に着いてから数日が経ち、アレクとヒナもようやく落ち着いてきた頃、
客室に一人のお客さんが来た。
マグリル王国の第四子・リア王女だった。
「りおんさま、あれくくん、ひなちゃん、こんにちは!
わたし、りあです。
あれくくんや、ひなちゃん、いっしょにあそびませんか?」
「「う?」」
突然の訪問と自己紹介と遊びの誘いで、
アレクとヒナはそろって首をかしげた。
「かっ……可愛い……」
あわあわしているリアを見て、
アレクが声をかける。
「りあおねえちゃん、はじめまして。あれくです。あそんでくれるの?」
「りあ…おねえちゃ……ひなです……あしょんで……くれゆの?」
「りあ……おねえちゃん……。
なんて……なんて尊い響き……!」
なにやらリアが悶えて感動している。
「リアか、自己紹介は初めてであったな。神獣フェンリルのリオンだ。よしなにな」
アレンは、ちょっとだけ年上のリア姫が、気を使ってきてくれたのだと思い、
ありがたく思った。
(ヒナにとっても、遊び相手にはぴったりの相手だな。
仲良くできるといいな)
目をキラッキラに輝かせて近づいてきた。
「あのぉ、りおんさま……さわらせて、ください!」
その勇気を振り絞ったような問いに、リオンは笑って返す。
「可愛い子よのぉ。いいぞ」
リアは、いつもアレクやヒナがリオンに埋もれる様子を見て、
自分も一度でいいから埋もれてみたいと思っていた。
(きっとリオン様の毛並みは、柔らかくて、ふわふわで、暖かいのだろう)
そんな期待を胸に、
リア姫は王女であることを忘れ、
全力でリオン兄にダイブして、ぎゅ~っと抱きついた。
そして、リアの瞳が大きく見開き、輝きだす。
「ふぁ~~~~!
ふわふわ~~~!
やわらか~~~い!
あったか~~い!
きもちい~~!
きゃう~~~~!」
そう言いながら、毛並みに顔をくっつけスリスリする。
その姿が可愛らしく、アレクは笑った。
「りおんにいちゃ、ふわふわで……あったかい……でしょ!」
ヒナが鼻高々で、うんうん頷いている。
その姿もまた可愛らしく、アレクはヒナの頭を撫でながら笑った。
そのうち、リア姫はもふもふに埋もれて寝落ちした。
「あははっ。リアひめさま。ねちゃったね」
「ねちゃったー!あはは~!ひなも~」
ヒナはそう言うと、リア姫の隣で、リオンにいの毛並みが埋もれて
もぞもぞしていたが、すぐ寝てしまった。
「アレクはいいのか?」
リオンが、笑いながら聞いてくる。
「おれはいいよ。
それより、”ぎんよく”のみんなは、だいじょうぶだったかな。
それに、じんとみらも……」
ずっと気になっていたのだ。
銀翼ホームを襲撃された時、
ジンとミラはホーム侵入阻止の為に戦っていたようだ。
姿を現さなかったところをみると、
ケガをしてしまったのではないか心配になる。
それに、俺たちが逃げた後、銀翼のみんなが帰ってきたら
犯人と鉢合わせになって戦闘になったのではないか。
「あやつらなら、強いから大丈夫だ。
それに、そろそろこの王城に着くころじゃないか?」
「え?ほんと?」
「あやつらが、おまえらをほっとくわけがなからろうに」
「……そっか。……そうだよね。
それじゃあ、おれは、おれにできることをしようかな」
自分をむかえに来てくれる存在がいる。
それだけで、気持ちが楽になる。心が躍る。前向きになれる。
扉を少し開けて、外にいる護衛騎士を見上げる。
「どうしましたか?」
騎士が突然出てきて見上げてくるアレクに、戸惑いなら聞いてくれる。
「おれ、きしさんたちの、くんれんじょうで、かいふくのれんしゅうがしたいです!」
(あそこなら、怪我人がたくさんでるから、いい訓練になるだろう)
「わ、わかりました。
陛下に聞いて参りますので、少々お待ちください」
そういうと、あっというまに許可を貰ってきてくれた。
「騎士団の訓練場には、私が付き添いますね」
「ありがとうございます!
ではさっそく、ふたりをおこしてきますので、おねがいします!」
アレクはそういうと、ピューっとリオン兄の元に駆けて行った。
「ひなー。りあひめー。おきてー!でかけるよー。
りおんにいちゃん、きしさまのれんしゅうじょうで、かいふくのくんれんする!」
「あいわかった。いこう」
リオン兄はそういうと、ゆっくり立ち上がった。
ヒナとリア姫が滑るように落ちた。
「うにゅ~、どうしたの?」
「もふもふが~!あう~?」
2人とも、むにゃむにゃ言いながら起き上がる。
「ふたりとも、きしさまの、れんしゅうじょうにいくよー」
護衛騎士に案内してもらい、騎士の練習場へ向かう。
2人が目をこすりながらアレクについてきて、
一番最後にリオンがついてくる。
いつの間にか、リア姫が
「まいごにならないように、てをつなごうね!」
と、ヒナと手をつないでいる。
(リア姫、お姉さんぶってる。……可愛い)
通りすがりの人達も、微笑ましげにチラチラ見てくる。
(視線が……生暖かい……)
そうしながら、騎士の練習場の手前の部屋に着き、
騎士団長を面会した。
「ようこそ騎士団へ。
リオン様、アレク君、ヒナちゃん、はじめまして。
私は第一騎士団、団長の”ハゼル”です。
今日は、訓練中の騎士達の回復を手伝っていただけるとか。
よろしくお願いしますね」
「はい。おれは、かいふくまほうをつかえます。
ふぉれっとの、ぼうけんしゃぎるどでも、れんしゅうじょうでやってました。
かいふくまほうの、ぎじゅつこうじょうのため、おてつだいさせてください」
「技術向上って……そんな難しい言葉を3歳で?
これが愛し子……」
騎士団長がぽそっと何か言っていた。
部屋の奥の扉を開けると、中庭のような広い練習場があった。
かなりの数の騎士達がそれぞれペアを組んで、手合わせを行っていた。
剣がぶつかり合う音、地面を蹴る音、
攻撃に力を載せる声、攻撃を防ぐ苦悶の声、
様々な音が騎士達の緊張感のある練習に、
アレクは背筋をすっと伸ばす。
(冒険者とは雰囲気自体違うな。正統派って感じ!)
アレクはさっそく、練習場の隅の一角にある椅子に腰かけ、準備を整える。
「ひな、いつもみたいに、おてつだい、おねがいね。
りあひめさまは、どうしますか?」
「ひな!おてつだい、する!りあひめしゃまも、いっしょにやろう?」
ヒナはいつものように、手伝いする気まんまんで、
リアを引き込む。
「はい!やってみたいです!
ひなちゃん、わたしのことは、ひめとかさまづけはいらないよ」
「……じゃあ、りあちゃん!」
「うん!」
リオンも微笑ましそうに眼を細め、傍らで様子を見ている。
こちらの準備は整った。
騎士団長のハゼルさんと目が合い、『いつでもどうぞ』の合図で頷く。
向こうも意図を察してくれて、頷いてくれた。
そして、騎士団員たちに告げた。
「今日は、愛し子様が、貴方たちの回復の手伝いをしてくださるそうだ。
ケガを恐れず、本気で訓練できるぞ!!気合をいれてやれ!」
『はっ!』
騎士団員達の気合の籠った返事の後、
どこかで「ひ~」とか「うわぁ~」とか聞こえてきて、笑ってしまった。
そしてまた、ペア戦闘訓練が始まる。
となりで、ヒナとリア姫が、「すごいねー!」とか「かっこいいねー」とか言っている。
アレクは考えていることがあった。
自分たちは非力だ。
だから、いざ戦闘になった時は、安全な隅っこや強い人のそばにいることになる。
すると、離れた場所で戦闘している仲間が負傷をしたとき、
”回復魔法をかけに行けない”という状況を、どうにかできないかということ。
目の前でただ仲間が苦しんで、
弱っていく姿を見ているだけというのは嫌だ。
戦闘中に安全のところにつれて行くにしても、
少人数や、敵が強い場合、それさえ出来ないこともあるだろう。
そこで、回復魔法を玉にして飛ばす?投げる?的な事は出来ないだろうかと
考えていた。
今回、それをやってみるつもりだ。
そんなことを考えていると、
「ぐっ!」という、騎士の声がした。
腕に切り傷を負った騎士が、
「まだまだ!」と言って、それでも訓練を続けていた。
アレクはさっそく試してみることにした。
もちろん、演唱なんてしらない。
「治る玉……治る玉……。出来た!」
両手を前に出し、回復魔法の魔力を集める。
集めていくと、金の光あふれ出し、だんだん集まり形になっていき、
金色に光る玉状になった。
護衛騎士が、声は出さずに、
目を見開いて、その光景を見ていた。
(な……演唱なし。
回復魔法って玉になるものなのか?
いやいや……そんなの見たことがないし、出来ないだろう、普通!
本来の回復魔法って、患部に手を当てて、治すものだろう)
護衛騎士は、一見、動じていなく見ているが、
心の中では、かなり混乱していた。
アレクは構わず、出来た玉『治る玉』(※アレク命名)を、
先ほど切り傷を負った騎士団員に投げた。
……届かなかった。
(あれ?)
届かなかった”治る玉”は、アレクの近くの地面に”コロン”と落ちた。
「おちちゃったね。」
「ひかってきれいね~」
ヒナとリア姫はのんきにそんなことを言っている。
「……あれ……?」
と、そろ~っと護衛騎士を見てみると、
一件動じていないように見えて、小刻みに震えていた……。
そして、先ほどから剣の打ち合う音が減った。
なんだろう?そろ~っと見ていると、騎士団員達が座り込んで、背を抜けて、震えていた。
「だって!おれ、3さいだもん!
ちからないから、しょうがないんだもん!」
なんか悔しくて言い訳してみる。
すると、護衛騎士の顔がさらに赤くなって、悶絶していた。
なんだこの可愛い子はみたいな目で見る騎士達。
さらに、笑いながら応援してくれる騎士達……。
騎士達をじ~っと見ていると、
リオン兄がアドバイスをくれた。
「アレク、それは力で投げても飛ばぬぞ。
風に協力してもらえ」
アレは頷くと、治る玉を拾って、もう一度投げる時に、
(風さん、お願い!)
と、お願いしてみた。
すると、治る玉はすごい勢いで、先ほど切り傷を負った騎士さんに当たると、
あっというまに、切り傷が治った。
「よっしゃ!せいこうした!」
拳を握りしめ、天へと掲げる!
「おにいちゃ、すご~い!」
「あれんくん、やったね!」
いつのまにか仲良くなっている、ヒナとリア姫が一緒に喜んでくれた。
リオン兄もそれでいいとばかりに、頷いてくれた。
その傷が治った騎士本人は、
光の玉が急に自分に向かってきたので、怯えてしゃがみこみ、回避した。
が、なんと、光の玉は通り過ぎたと思ったら、
迂回して再度こちらに飛んできて、患部に当たったのだった。
「ひっ!」と怯えたものの、
腕の切り傷の痛みが消えたことに気づいて茫然とした。
もう一度言おう、
回復魔法は、本来回復師が患者の患部に手を添えて治すもの。
決して光が追いかけてきてバチコーンと当たって治すものではない……。
「な、治ってる……」
先ほどから様子を見ていた騎士達も騒いでいた。
「すごい!これなら、手遅れになる仲間も減る!」
「これを……この技術を……他の回復師も使えることができれば……」
「愛し子……これが愛し子の力!」
「騎士団の救世主だっ!!」
アレクは、騎士団のみんなが喜んでいることに満足げに頷く。
(よし!できたぞ!これで、俺もみんなをまもることができる!)
「あとは、ここにいれるじかん、れんしゅう、あるのみ!」
その後、”治る玉”を投げ続けたおかげで、
追いかけてくる”治る玉”に怯える騎士はいなくなった。




