75. セイナ王国潜入調査と遠征の終わり
セイナ王国の手前の森の入口に着いた。
「……さて、行こうか」
森の中で冒険者に変装した。
本当は行商人に変装したいところではあるが、
ここは商人の国。
大陸中の登録情報がすべて把握されている恐れがあり、
登録のない行商人など、即刻拘束され、
“様々な方法”で調べ尽くされる。
(……商人の国は面倒だな)
その為、冒険者として入国することにした。
ギルドは、国とは別で運営されており、
国への個人情報の情報提供は大きな犯罪などでない限りは、していない。
我らからしてみたら、隠れ蓑にちょうどいいのだ。
入門受付の列に並び、
自分の番になっても、ギルド証の提示で簡単に国に入ることができた。
ギルドに行かねば。
証拠の為に、依頼を受けておこう。
ギルドを出て、買い物をするフリをして、街中を見る。
商人の国だけあって、情報が命とばかりに、
様々な情報網が張られている。
普通に商品を売っている人で会っても、
兼任で街の監視役をやっている者もいるという。
報告するだけで、監視代金が入るので、
やりたがる者も後を絶たないとか。
いい迷惑だ。
保安としてはとてもいい体制なのだろうが。
歩いていると、所々で結界を見つけた。
見つけたと言っても、視覚的に分かるわけではなく、”魔力で感じた”。
それは、立ち入り禁止の中にあったり、
建物の中に入ってすぐのところに結界の気配を感じたり、
一般に重要施設や関係者以外立ち入り禁止のところだろう。
王城に至っては、結界があちこちに張ってあった。
あれに触れれば、王城の騎士が飛んでくるのだろう。
獣化し、気配を消す。
城の周りは高い城壁を音もなく飛び越える。
王城侵入後は、闇に溶け込む。
ただし、王城の中は、セイナ王国の影もいる。
影に見つかれば終わりだ。
気配を探りながら慎重に進む。
まずは侍女長の部屋にいく。
地図は、第三王子に書いてもらったため、場所は分かる。
だが――
「……チッ、見張りか」
侍女長の部屋の近くの廊下に、見張りがいた。
ここで見つかるわけにはいかない。
そこで、少し手前の曲がり角を曲がったところにある
花瓶を魔法で壊した。
「ガチャンッ!」
見張りは急いでそちらの方に走って行った。
(今だ)
少し走って、十字路を右に曲がったところにある、侍女長の部屋を発見。
この時間は、仕事の為、不在のはず。
すんなり鍵を開け、音を立てずに部屋に忍び込む。
侍女長は、やっぱり不在だった。
まずは、薬を探す。
1本だけだと、ただの滋養にいい薬。
だが、侍女長には、大切な薬なのだから、
そう簡単なところには保管しないだろう。
と、思いつつ、様々なところを見て回るが、
薬瓶はどこにも見つからなかった。
獣人特融の臭覚、聴覚を使い、
薬らしきものが保管されているところも探す。
……まったく見つからなかった。
元侍女がもっていた薬ビンを同じもので、
色も無色ではあったが、ほんのり甘い匂いがした。
この部屋からはそんな匂いも、同じような薬瓶も見つからない……。
(もしかして、ここにはないのか……)
そう思った時、『ギシッ……』床がきしんだ。
もう一度踏んでみる。『ギシッ……』
他のところで音はしない。
「ここか……」
床板を調べてみる。
床板の一部が簡単に外れた。
そこには 小箱が隠してあった。
小箱には鍵はかかっていたが、
こんなの影にとっては玩具も同然。
チョチョイと簡単に鍵を開けてみる。
箱の中には――
薬瓶が一つ。
前に元侍女に貰った薬瓶っと同じ瓶だった。
透明な液体が揺れており、ほんのり甘い匂いがする。
「これだ!」
ロアは“見つからないほどの少量”だけ持参した小瓶に移し、
元通りに戻した。
「まず1つ完了。
次は、国王のところに行こう」
一番監視が多いと思いきや、思ったよりも少なかった。
(国王にはどうすることもできないだろう)といったところか。
獣化で気配を消し、監視の目を潜り抜け、
天井裏に上り、王の執務室に入った。
王の執務室には、1人監視が付いていた。
しかし、その監視の姿が見えない。
ただ、どこにいるかは分かった。
(これは……接触は厳しいな……)
そう思い、王を見ると、
少し驚いた様子でこっちを見ていた。
(……感知能力が高いな。
影の俺をすぐに見つけるとは……)
そこで、マグリル王国の旗を、ちらりと見せてみる。
体を一瞬揺らす王。
少し考えた素振りをしてごまかし、
監視に気づかれないように、寝室をちらりとみた。
(……寝室に行け、ってことか)
国王はわざと大声で話し、
見張りの注意を逸らした。
その隙にロアは、寝室へ滑り込んだ。
王の声が聞こえる。
「今日は体調が悪い。
どうせそこにいるのだろう。
私は寝る」
そう言って寝室に来てベッドに入った。
監視の気配も一度寝室に来たが、その後どこかへ行った。
「……君は、マグリル王国の影か?」
「はい。セイナ王国 第三王子ディアス様の願いと、
マグリル王の命により、姫様の謎の病の特定と、解毒方法の調査と、
セイナ王国の古狸の調査をしております。
マグリル王から伝言です。
おつらい状況であると認識しておりますが、もう少しだけ耐えてください。
必ず、姫様も貴方も助けます!それまで、どうぞお心を強くお持ちください」
それを聞きたセイナ王は、
一人静かに涙した。
「ディアスは、貴方方の国に迷惑をかけたと聞く。
それなのに、力を貸してくれるのか」
「はい。ディアス殿下は、国と家族を守ろうと必死でした。
手段は間違えたものの、その気持ちが皆の心を動かしました。
今回は、きちんとマグリル王に話が出来ていましたよ。
もう……大丈夫です」
国王は震える声で言った。
「ありがとう。どうか、どうか娘を…。娘を…。
よろしく頼む……」
その言葉を聞くと、ロア一言、
「おまかせを!」といい、姿を消した。
王城をでて、慎重に主治医の家に向かう。
その途中で、
でたまたま”古狸”の一人を見かけ、後をつけて行った。
すると、ガルマニア大交易商会へ行きついた。
気配をたどり、王都本館の最上階の窓の外から内部を確認。
古狸勢ぞろいで会議を始めた。
それはそれは、言いたい放題の会議だった。
だが、ディアス様の証言通りの面子だった。
(お前たちの天下はもうすぐ終わる……)
***
今度こそ、主治医の家に向かう。
遠目で位置を確認したところ、監視が数人いた。
辺りは暗くなっており、ちょうど影に隠れられる時間にはなってきたが、
慎重に監視の気配察知に気づかれぬように獣化する。
獣化すると、気配を感じにくいほど薄くすることができる。
その能力を使いつつ、主治医の家に着き、裏に回る。
窓から部屋の様子を伺うと、ちょうど主治医が一人でデスク仕事をしていた。
音を立てずに窓から侵入し、壁を軽くノックする。
「!?」
主治医は、ビクッと体を震わせ、音の方を見て、驚く。
ロアは既に獣化を解いて、口に人差し指を当てる。
「あなたを捕まえに来たわけじゃありません。
俺はセイナ王国の調査をしているロアという者だ。
周りに悟られず、話を聞きたかったもので、窓から失礼した。
怖がらせてすまない。
私は、こちらの国のディアス様とマグリル王の指示でここに来ました。
ディアス様の妹姫様を救うために協力していただけませんか?」
ロアがそう言うと、
主治医は、ぽろっと涙をこぼした。
「お……お待ちしておりました……。
やっと……やっと来ていただけた……」
そう言って、今までの経緯を話してくれた。
元侍女が話してくれた内容と一致していた。
そして、主治医が薬瓶を1本持ってきた。
薬が半分くらい残っている。
「こちらをお持ちください。
現在、妹姫ララ様に飲ませている薬を、
あいつらに見つからないように毎回少しの分量をこちらの瓶に移しております。
姫様に少しでも飲ませたくないのと、
こういう調査にきてくださった方に渡せるように、とっておきました
最近、姫様の容態がまた悪化しております。
…どうか、急いでください。
……よろしくお願いいたします」
主治医は、深く頭を下げた。
「わかった。全力を尽くします」
(……これで十分だ。
まずは、マグリル王の元に帰り、報告だ)
こうして、獣化したロアはあっという間にマグリル王国まで戻ってきて、
マグリル王に報告にやってきた。
「ロア、よくやってくれた。
この薬は、リシュネーゼ帝国の毒研究チームに依頼する。
最新の情報で、解毒が作れるかもしれん。
……あと、国王に伝言感謝する。」
ロアは深く頭を下げ、スッと姿を消した。
こうして、ロアの大変な遠征は終了した。
「……甘い物食べて寝たい」
こうして、ロアの長い遠征は幕を閉じた。




