7. 愛し子達の転生
ここから、セリシア転生後編です。
アルヴァス大森林、通称「精霊のゆりかご」
そこは、世界樹があり、精霊王が住まい、
精霊たちが最も多くいる場所で、
この世界を支える要とも言われる場所。
世界樹は、そんな森の中央に、
森も親和性のあるエルフによってが代々守られている。
そんな森は、数日前から世界樹の葉がきらめきだした。
嬉しそうに葉を揺らしている。
動物の動きも浮かれているような、落ち着きのない行動をとっていた。
精霊も期待に胸が躍っているその時を待っている。
妖精も、そんな精霊たちの話をきき、興味津々で踊っていた。
***
その瞬間、世界樹の幹がふるりと震えた。
まるで大地そのものが息を吸い込んだように、
森の空気が一気に澄み渡る。
葉という葉が一斉に光を帯び、
風が喜びの声を運ぶように森中を駆け抜けた。
「……きた……?」
「くる……くるよ……!」
キャンキャン!
グゥ!グーゥ!
キュキュ!!キュキュキュ!!
「とうとう来た!愛し子達がきた!」
嬉しさのあまり、風の精霊が木の間を駆け抜け、
水の精霊が湖面を跳ね、
火の精霊が小さな小さな火花を散らしながら踊る。
森の動物たちも落ち着かない。
ピョンピョンとびはねたり、
小鹿が耳を耳をぴんと立て、
リスたちは木の上を駆け回り、
鳥たちは一斉に枝から飛び立って空を旋回する。
その様子は到来を歓迎するための準備運動 のようだった。
「……あの子が来るの?」
「やっと……やっとだ……!」
精霊たちの声は弾んでいた。
期待、喜び、安堵――
いろんな感情が混ざり合い、森全体が温かく震えている。
その中心で、ひときわ大きな存在が目を開けた。
大精霊――
森を司る“木の大精霊”が、ゆっくりと立ち上がる。
「……ようやく、来るのだな。
世界が求めた、神が求めた子らが」
「……長かった……」
本当に待ちに待った我らの希望がもうすぐ来る。
嬉しさのあまり頬を伝う涙はとまらない。
しかし、今はお迎えねば。と、佇まいをなおし、
「みな、歓迎せよ!暖かく迎えよ。われらの愛し子が今舞い降りる!」
その声は、森の奥深くまで響いた。
空から一瞬眩しく光ると、
まばゆく輝く物体がゆっくり地上におりてきた。
精霊たちは一斉に空を見上げた。見守った。
「きた……!」
「きたきたきた!!」
地上に降りた途端、光が徐々に消えていった。
そこには――
3歳くらいの小さいな男の子。
大樹と、その腕をしっかりつかみながら丸くなって八重だった。
(この日をどれだけ待ったことか。)
精霊王は2人に近寄りながら感動していた。
光が消えた瞬間――
「「「かわいい~~~~!!!」」」
森中の精霊が叫んだ。
(((さすが愛し子達!!こんなに可愛いなんて!!)))
風の精霊はふわふわと大樹と八重の髪を撫で、
水の精霊はきらきらした水滴を花のように散らし、
火の精霊は小さな光の輪を作って踊り出す。
動物たちも近づいてくる。
ふたりは向き合って、抱き合い、
すやすやと気持ちよさそうに寝ており、
八重はときおり大樹の胸あたりの服をにぎにぎしていた。
小鹿がそっと近づき鼻を寄せ、
リスが大樹の上にちょこんと乗り、
うさぎは大樹のおでこにすりより、
鳥たちは頭上で輪を描くように飛び回る。
そんなもふもふ達に、いつのまにかあちこち
もふもふでやわらかくて、くすぐったい感覚がある。
そのすぐったい刺激で、大樹が目をさました。
「ん~~。もふもふきもちい~……なんら?このじょうきょう。
てんごく……。かわいい……」
瞬間、もふもふがぷるぷるしだす。
それももふもふの刺激で気持ちがいいのだが。
(((きみがかわいいよ!!!)))
「すごい…かんげい…しゃれてるみたいだ…。
うれしいな…ありがちょ…」
大樹は、起き上がりにっこり笑う。
もふもふがバタリと倒れる。
もふもふがプルプル震えている。
「てんせい…ぶじに…したみたいらな
いまのじょうきょうを…かくにんしないと…」
大樹が八重を抱えなおしつつ、
自分の手足を確認、顔を両手でぺたぺた確認。
前世をどのくらい覚えているか、確認。
「ん~。セルシオスしんが…3しゃいくらいだって…
いってたな…」
「こどばづかいは、しょーがにゃい…」
「きおくは……しゃかいじんだったのは…おぼえてる
ひとにかんするきおくは……わかんにゃい」
「せかいのはざまでのできごとは…おぼえてるじょ」
あー一気に頭使ったら眠くなってきたー
幼児の体に意識はひっぱられるんだなー
そして、また、こくりこくりとまたふねをこぎだす。
そして、ふらーっと横に倒れこむ。
すかさずまわりのもふもふが、
大樹が頭や体を打って、痛い思いをしないように
下敷きになる。
大樹はもふもふの上にたおっれこみ、
「もふ~」と言いながら、眠りにおちていった。
そんな姿にも動物も悶える。
「「「か、、、かわいい!」」」
「これが神の愛し子か、なんと庇護欲を誘うことか!
さすが、神に選ばれただけあるっ!」
まわりが可愛いとつぶやき、
だれかが妙な納得を勝手にしている。
八重は眠ったまま、
「おにいちゃ……」と呟いき、
大樹の服をぎゅっとにぎるったその瞬間、
森の空気が一瞬止まり、 次の瞬間――
「「「尊い~~~~!!!」」」
森が揺れた。
本当に揺れた。
木々がざわざわ震え、
火の精霊が思わず光を爆発させ、
水の精霊が湖に落ちて「きゃっ!」と跳ねた。
大精霊でさえ胸を押さえ、
「……これは……反則だろう……」
「さすが…、これが世界の愛し子の破壊力……」 と呟く。
大樹がそんな八重を無意識にぎゅっと抱きしめ、
「大丈夫だ、おれが守るから…」とつぶやく。
その言葉が届いたのか、
「にいたま……」と言い、笑顔になって大樹の胸におでこをすり寄せた。
その瞬間――再び
「「「尊い~~~~!!!」」」
精霊たちが爆発した。
大精霊でさえ、思わず胸を押さえる。
「……なんという……癒し……。
さすが……世界がお求めるになるわけだ……」
まわりの大精霊や動物の気持ちは同じだった。
そんな中、
「いや、これは癒しの拷問…私は…もう、もたない…」
だれかがつぶやき、倒れて悶えているものもいた。
それからしばらくして、
なんだ可愛さだけにあてられている
大妖精や動物たちをよそに、
ずっと観察され続けていた大樹がむくっと起きた。
八重がずれ下がってきた居たので抱き直した。
大樹がきょろきょろまわりを見る。
(さっきは自分の事を確認しているうちにねちゃったから、
まわりを確認しないとな)
(なんだかきもちのいいもりだな。
なんだかいっぱいあつまってるが…)
そうしてまわりを観察していると、
優しいあわい黄緑の髪色した大きな透明な羽がついた綺麗な精霊?が近寄ってきた。
「私は木の精霊王、リーフェルといいます。
ようこそ、私たちの世界セリシアへお越しくださいました。
私たちはお2人を歓迎いたします」
そういって、大樹と八重の頭を撫でる。
大樹が驚いて
「お~!ほんとにせいれいしゃんがいる!」とつぶやき、
ぽけーっとしていると、
木の精霊王が顔を赤くしてさらに撫でまわしてきた。
「かわいい~~~!」
「あ、ありがちょ…えへっ…」
綺麗な人に撫でられて、それが精霊で、
どきどきしながらも、可愛いと言われて照れる大樹。
「「「「……!!!!!……」」」」
どこからともなくハッとする息がこぼれる。
「もうすぐお迎えがくるわ。
もう少し待っていてね。
森の空気は温かく、
優しく、
祝福に満ちていた。
八重と大樹の新しい人生は、
こうして――
世界中に歓迎されながら始まった。
相変わらずまわりに精霊やら、動物やらがいた。
大樹はきょろきょろと周囲を見回した。
「……ここが、セリシアか……
きれいなこと…だな」
普通に森だけど、見たことない動物がいっぱいいた。
(妖精もいるじゃん!小さい!初めて見たけど、かわいいな~)
そんなことを言っていると、
ばきっ!バサバサ~!!ぽとっ!
乾いた音とともに、木の上から何かが落ちてきた。
「うわっ!?なんら?」
大樹が驚いて後ずさると、
落ちてきた“それ”は、真っ白なふわふわの毛玉だった。
白いもふもふのかたまり……のような何かだった。
ただし、耳が長い。
瞳は黄緑色でおでこに綺麗な赤い宝石みたいのがついていた。
そして、背中に小さな羽が生えている。
その毛並みはとても柔らかそうで、
触ってみたい衝動を起こさせる。
大樹は手を途中まで伸ばしかけて、もどした。
撫でたい気持ちをがまんする。
「がまん……」
なんだろう、この動物?妖精?
前世の記憶を探してみる。
「か!かーばんくる!?」
羽がぱたぱたぱた!!!
「きゅいっ!!(見つけた!!かわいいの!!)」
と叫びながら、
八重に向かってロケットのように飛んできた。
「わっ!?は、はやい!!」
大樹が慌てて八重を抱き直すと、
もふもふは八重の足にぴたっと張り付き、
尻尾を高速でぶんぶんぶんぶん!!
「きゅいきゅいきゅい!!(かわいい!!かわいい!!かわいい!!)」
可愛いのが飛んできた!なんて思っていると、
近くの不思議動物たちが集まってきて、
同じように「きゅいきゅい」大騒ぎしていた。
(すごい!だいにんきじゃん)
なんて思っていると、大樹の声で驚いた八重が目を覚ました。
きょろきょろして、大樹を見て「だれ?」と聞いてきた。
八重は今、大樹にへばりついて寝ていたのでその体制で見上げてきたのである。
「きみの…あたらしい、おにいちゃ…だよ」
やっぱり声に出すと舌を噛みそうになる。
3歳だから、そうなんだろう。記憶があいまいで、
精神も3歳の体に引っ張られる感じがする。
八重ににっこりわらってやれば、
「おにいちゃ!ほんと?」と身を乗り出してくる。
「そうだよ、おれ、おにいちゃ、いもうとの…きみのこと…まもる!」
「!!うん!おにいちゃ、うれちい!」
八重が嬉しそうにわらった。
「きゅいっ!!」
さきほど落ちてきたこの毛玉は、
八重と大地を見るなり、
目をキラッキラに輝かせて飛びついてきた。
「きゅい~!(私もいれて~)」
「わっ!?ちょ、ちょっと待て!」
大樹は慌てて八重を抱き直す。
しかしそのもふもふは、
八重と大樹の間にちゃっかりいすっわる。
「きゅいきゅいきゅい!!(かわいい!かわいい!かわいい!!)」
……どうやら言語は違うが、
大変喜んでいるようだ。
テンションで伝わる。
もふもふの騒ぎに釣られるように、
また周りが騒がしくなってきた。
胸元にいた急に毛玉が森に帰っていく。
「あっ……」
八重が寂しがっていると、
森の奥から光の粒がふわふわと浮かび上がった。
それは――とても小さい、見るからに妖精という者達だった。
(妖精たちか。はじめてみた。)
「おにいちゃ!あれなーに?」
「あれは…ね…、ようせいしゃんかなだね」
「ようせいしゃん?しゅごい!かわいい~!ひかってる~!!」
八重はきゃいきゃい体を揺らしながら喜んでいる。
こんどは、どこからか風の精霊が近づいてきて、
くるくると八重と大樹の周りを飛び、
水の妖精が小さな水滴を大地と八重のほっぺに飛ばしてきた。
「「ちべたっ!」」
「ふふふっ~」
水の精霊が楽しそう笑い飛んで行った。
その後から来た火の精霊は、まわりに小さな花火をちらし、飛んで行った。
「……しゅごいね!」
「そうだね~」
精霊たちは大樹と八重を見つめ、
まるで“やっと会えた”と言わんばかりに手を振る。
八重も笑顔で手を振り返した。
その後、はしゃぎ過ぎたのか八重はうとうとしだして、
また寝てしまった。
「おにいちゃ……」
八重が寝言のように呟くと――
精霊たちが一斉に悶えた。
「「「かわいい~~~~!!!」」」
森が揺れるほどの歓声。
(精霊ってこんなテンション高いのか……?)




