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73. 古狸どもの五人会議

【古狸ども目線:五人会議】


夜の帳が降り、街の喧騒が消えた頃、

セイナ王国、王都の中心部にある

ガルマニア大交易商会、王都本館の最上階に、

ひっそりと灯りがともっていた。


豪奢な会議室。

分厚い絨毯、磨かれた長机。

その中央に、五つの影が集まっていた。


この五人会議のリーダー、ゲルド・ガルマニアが、

ゆっくりと椅子に腰を下ろす。


「……揃ったようだな。諸君」


その声は穏やかだが、

部屋の空気を一瞬で支配する圧力があった。


他の四人――

ザハル(金融商会)、グラド(薬品商会)、ロウガン(物流商会)、ミルダ(情報商会)は、

ゲルドの取り巻きであり、副主犯である。


それぞれが既に席についており、静かに頷く。


静寂の中、ゲルドが口を開き、

極秘の五人会議がはじまった……。


「さて……。

第三王子ディアスが、

どうやら余計なことを嗅ぎ回っているらしい」


ザハルが鼻で笑った。


「金の流れも知らぬ若造が、

嗅ぎまわって何がわかるというのだ。


あれはただのわがままな馬鹿王子だ。

放っておけばよい」


ロウガンが乱暴に椅子を鳴らす。


「あの馬鹿、フォレットで騒ぎを起こして、牢獄にいるらしいぜ。


何がしたいのかさっぱりわからんが、

マグリル王国を刺激してほしくないぜ。

面倒なことにならなきゃいいがな」


ミルダが、無表情のまま淡々と言う。


「王城の情報網は、すでにこちらが握っています。

うちの国王が何を考え、誰と会い、何を疑っているか……

すべて把握済みです。


悪あがきで、よそ者に接触しようとしても、

事前に阻止できる体制は整っていますよ」


ゲルドは薄く笑った。


「ならば問題はない。

国王は我々の掌の上だ。


お飾りの国王は、

お飾りらしく、おとなしくしておればいいんだ」


全員がクスクス笑う。

自分たちこそが実権を握っていることの優越感。

だからと言って満たされない欲望。


グラドが、机に1本の小さな瓶を置いた。

透明な液体が揺れる。


「……例の“滋養強壮剤”の件ですが、

侍女長には十分な報酬を与えてあります。

あの女は、もう後戻りできません」


ザハルが指を組み、低く笑う。


そして、もう1本、小さな小瓶を置いた。


「主治医の方も、家族を握ってある。

あれも逆らえまい。


この二つの薬を飲ませるだけで、

王族は勝手に弱っていく……。

便利なものだな。


侍女の手により、一つめを飲ませ、

主治医の手により、二つめを飲ませることによって体の中で毒となる。

現在、その毒の解毒剤も発見されていない毒だ」


ロウガンが肩をすくめる。


「現物がある、この2本は、

それぞれ毒じゃねぇから、調べても何も出ねぇ。

“謎の病”ってわけだ。

よく考えたもんだぜ。グラドよ。」


グラドはクスクス笑う。

「本当に大変だったんですよ。

この”混合毒”を見つけるの」


ゲルドは静かにうなずく。

「この”混合毒”は素晴らしい。

よく見つけましたね。

確か古い書物にあったとか言っていましたか」


「えぇ。毒に関する古い書物に載っていました。

たしか、薬の飲み合わせページだった気がします」


「薬を扱う人の為にと書いただろうに。

酷い人に見つかってしまいましたね。ふふふ」


ミルダが静かに付け加える。


「情報ギルドには、

“王族の体質による病”として処理させています。

以前にも同じような症状でお二人が亡くなっていますからね。

今のところ疑う者はいません」


ゲルドは満足げに頷いた。


「よろしい。

この調子で王家は、このままじわじわと弱ってもらおう。


国王が倒れれば、

次は……我々の時代だ。

忙しくなるぞ」


ザハルが眉をひそめる。


「ただ……第三王子が少々気にかかる。

あれは愚かだが、愚かゆえに何をするかわからんところがな。


今回もマグリル王国に、何をしたかったのか、

突撃していって牢屋に入れられてるが、

向こうで、誰かに助けを乞うかもしれないぜ」


ロウガンが笑う。


「だったら、いっそ消しちまうか?」


ミルダが首を横に振る。


「今はまだ早い。

あれは利用価値がある。

暴走させておけば、王家の信用は勝手に落ちる。


今までも問題ばかり起こしているからな、

どの国からしても、ただのわがままの問題児王子って認識だろうよ。

そして、その苦情は国王へ行き、国王をさらに追い詰めてくれる」


ゲルドが静かに言う。


「そうだ。

あの王子は“国王の弱点”でもある。

焦らせれば焦らせるほど、

王は判断を誤る」


ゲルドは椅子に深く座り、

ゆっくりと指を組んだ。


「……セイナ王国は、

王家のものではない。

商人の国だ。

金を動かす者こそが、この国を動かすに相応しい」


その声は静かで、

しかし底知れぬ野心が滲んでいた。


「王家は……

ただの飾りでいい」


四人の古狸が、

その言葉に静かに頷いた。


蝋燭の炎が揺れ、

五人の影が壁に歪む。


その影は、

まるで国を覆う闇そのもののようだった。



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