69. 極秘の謁見と渦中の幼子達 2
「つづきまして――
リシュネーゼ帝国の黒いオーラ研究チームの一員が、
10年前からフォレットで冒険者として活動していました」
レオンハルトの言葉に、国王は目を細めた。
「……あそこは研究国家だ。
だが研究のために冒険者にまでなるとはな。
命を落とせば研究どころではあるまいに。
まったく、奇妙な連中だ」
「はい。しかし彼は、以前アレクに命を救われております。
その時、アレクの回復魔法が発現したようです」
国王の眉がわずかに動く。
「回復魔法の発現……?」
「瀕死の仲間を見て、アレクはその姿にショックを受け、
大泣きしながら回復魔法を発現させて治したそうです。
その必死な姿に、心を打たれたとか」
レオンハルトは続ける。
「そして、ヒナの浄化を目の当たりにし、
“ヒナを守るために研究したい”と申し出ています」
「……帝国の研究者が、こちら側に立つと……?」
「はい。
彼らはアレクとヒナを守りたいと心から言っています。
ただし、研究チーム全体に知らせるのは危険とのこと。
悪意ある者もいるためだそうです
そのため、不正に厳しく、
真に研究を世の為に行いたいと言っていて、
国王の信頼も厚い研究チームリーダーにのみ
極秘で話を通し、
浄化技術の研究を進めたいとのことです」
国王は深く頷いた。
「うむ……。
その研究が成功すれば――
黒いオーラに怯える時代が終わるかもしれぬな。
リシュネーゼ帝国の国王にも話を通す必要があるな。
……結局、三か国での協議になるか」
レオンハルトは頭を下げた。
「はい。よろしくお願いいたします。
そして……一つお願いがございます」
国王が視線を向ける。
「今、フォレットは渦中にあります。
いつアレクとヒナに危険が及ぶかわかりません。
一時的にどこかに隠すか、護衛を厚くする必要がございます」
国王は重く息を吐いた。
「……幼子が、いたい場所に居られぬとは……。
まだ三歳と二歳。甘えたい盛りだろうに。
育ての親たちから引き離すのは、あまりに酷だ……
しかし、2人に危険が迫った時は、王城で守ろう」
その時だった。
――ドンッ!!
部屋の外から、騎士が荒々しく扉を叩いた。
「失礼します!!
今、神獣フェンリルが幼い子供二人を連れ、
裏門から押し入ってきました!!
レオンハルト・シルヴァラント辺境伯に会わせろと……!!」
レオンハルトの心臓が跳ねた。
「リオン様……?」
その名を口にした瞬間――
「そこにおったかッ!!」
扉がバンッ!!と弾け飛び、
神獣フェンリルのリオンが姿を現した。
背中には――
大泣きしているアレクとヒナ。
「アレク!? ヒナ!?」
レオンハルトが叫ぶと同時に、
騎士たちは剣を抜き、リオンの背後に陣取った。
宰相は王の前に立ち、
護衛騎士がその前に剣を構える。
部屋は一瞬で戦場の空気に変わった。
「レオンハルト様!
これは一体どういう状況なのですか!!」
騎士が叫ぶ中、
アレクとヒナはリオンの背から飛び降り、
レオンハルトにしがみついた。
「じいちゃ……こわかったぁぁ……!」
「りょうしゅさま……!みんなが……たすけて……!」
幼い泣き声が、部屋に響き渡る。
国王は立ち上がり、
驚愕に目を見開いた。
「レ、レオンハルト……!
この子らが……アレクとヒナなのか……!?」
「はっ!
間違いございません!
フォレットで何かが起き、逃げてきたようです!」
レオンハルトは二人を抱きしめながら説明した。
「現在、フォレットの街は、危機的状況にあります。
しかし、探りを入れている者も多く、迂闊に動くわけにはいかない状況でした。
その為、何かあった時、リオン様が二人を私の元へ連れてきてくださるよう頼んでありました。」
リオンが国王を見据えた。
「おぬしがこの国の王か。
私は創造神に二人の保護を任された、神獣フェンリルのリオンという」
国王は一瞬呆然としたが、
すぐに手を振り、騎士と宰相を下がらせた。
「神獣フェンリル様……!
お会いできて光栄です。
部下の無礼をお許しください」
リオンは一度うなずき、語り始めた。
「我は、この国に来てよかったと思っている。
フォレットの者たちは、この子らを大切にしてくれた。
懸命に守ろうとしてくれた。
まずは感謝を」
国王の胸に誇りが灯る。
ここは冒険者の国とも言われる。
魔の森に多く面している為、冒険者が実に多い国だ。
多く冒険者は、様々な痛みを知り、抱える者が多い。
その為、口は悪くても、心優しい者が多い。
だが、少なからず、相手を蹴落とそうとするものや、
自分が強いと天狗になってしまう者もいるだろう。
そんな荒くれ者の中に、子供を守ってやろうとする者が、
こんなに多くいてくれたことが本当にうれしかった。
リオンは続けた。
「この子らは、この世界にとって大切な存在だ。
だが、まだ三歳と二歳の幼子。
甘えたい年頃の、ただの子供だ。
守ってやってほしい、大切にしてやってほしい、愛してやってほしい。」
そして静かに2人に目線を映し、続ける
「この子らは、大きな使命を背負っている。
この子らが、この世界を大切に思えば、
きっと黒いオーラから世界は救われることだろう。
現にフォレットの街は何度もこの2人に救われた。
しかし、もしこの子らが、この世界を嫌いになれば、
創造神やこの世界自体も、そなたらを見放す恐れもあることも
知っておいてほしい」
その声は、願いであり、警告でもあった。
部屋の空気が凍りついた。
国王は震える声で言った。
「……この幼子たちが……世界を救う鍵であり、
同時に世界中から狙われる存在……ということか……」
リオンは静かに頷いた。
「黒雷のドラグーンという、
セイナ王国の第三王子が所属するA級冒険者パーティーが、
一度冒険者ギルドに来た時に、「黒いオーラの詳細を聞かせろ」と、
来たそうだ。
その時は「後日時間を取って説明する」として、
黒雷のドラグーンは素直に帰ったそうだ。
そこまでは、我の聞いている。
その日は皆でパーティーホームで団欒を楽しんでいたのだが、
急に銀翼パーティーメンバー全員でギルドに行くことになり、
その理由が、
黒雷のドラグーンが、冒険者ギルド付近に潜んで探っていて、
どうもアレクとヒナの名前を小耳にはさんだらしいこと。
詳細までは知らないようだが、
何か関係があるのだろうと疑い、2人に会わせろと言い出したこと。
ギルドマスターは、
冒険者でもない、まだ小さな子供たちの為、
それはできないと、拒否したそうだだが、
セイナ王国の第三王子が、保護者を呼べと言い出したこと。
だそうで、説得してすぐに帰ってくると出かけたのだが、
出かけた後、少ししたころに、
急に警報がなり、大きな爆発音がなり、
アレクとヒナは慌てて飛び起きて私にしがみついていた。
気配がこちらに来たと思ったら、
偉そうな冒険者が現れ、
「すげぇ!本物のフェンリルがいる!」とか、
「あの子供たちだ!みつけた!」
と言って、アレクとヒナを攫おうと襲い掛かってきおった。
そして、「2人を捕まえれば、フェンリルも一緒についてくるぞ!」
などと言いながら、アレクとヒナを攫おうと近くに寄ってきた。
その為、私が神聖力を込めた威嚇をし、相手が硬直しているうちに、
怖がって泣き出した幼児2人を背に乗せ、脱出し、冒険者ギルドへ行った。
冒険者ギルドに行くと、銀翼はパーティーホームに向かって出ていて
居なかったが、ギルドマスターに、
レオンハルトの近くの方が今は安全だからと言われて、ここに来たのだ」
アレクは涙を拭いながら震える声で言う。
「……こわかった……
ひな、まもらなきゃって……
でも……おれも、こわかった……」
ヒナも泣きながらアレクにしがみつく。
「いやだ……あのひと、こわかった……
にいちゃ、いなくなっちゃうかと……!」
レオンハルトは二人を抱きしめた。
「もう大丈夫だ。
ここは王城だ。
誰もお前たちを傷つけない」
アレクは震えながら言う。
「……みんな……だいじょうぶかな……」
アレクは自分がこんな状態でも、
まわりを心配できる強いくて優しい心を持っている。
思わず頭を撫でる。
「大丈夫だ。
みんなA級冒険者だ。すぐに来る。」
国王は深く息を吐き、
二人の前に歩み寄った。
「……レオンハルト。
この子らは、我が国が守る。
どんな脅威が来ようともだ」
その声は、王としての決意そのものだった。
「この城に預けよ。
我が孫たちも歳が近い。
共に遊ばせ、心を癒してやろう。
その間に、私がこの騒動を鎮めてみせる」
レオンハルトは深く頭を下げた。
「……ありがたき幸せ」
次に国王はリオンに向き直る。
「リオン様も、よろしければ、こちらでお過ごしください。
2人と一緒にいてあげてください」
リオンも静かに言う。
「そうさせてもらおう」
レオンハルトは二人に向き直る。
「アレク、ヒナ、よく聞きなさい。
2人は当分、この城でみんなの帰りを待つんだ。
もちろん、リオン様も一緒だから、安心するといい。
ここなら、みんながお前たちを守ってくれるからな。
俺は、やることがあるから、一緒に居ることは出来ないが、
絶対に迎えに来るから、いい子にしているんだぞ」
「やだぁ……!
じいちゃ、いっちゃやだぁ……!」
「いかないで……いっしょにいて……!」
幼い泣き声に、国王は胸を痛めた。
そして国王は思った。
(子供とはこれが普通だ。
親がいなく、やっと育ての親に心を開いたと思ったら、
育ての親とも離され、知らない者たちの中に放り込まれた。
何度かしか会ったことが無い人でも、いないのは怖いのだろう。
不安にならないわけがない。)
リオンが尻尾で二人を撫でる。
「二人を守るために、フォレットを守るために、
レオンハルトは頑張っているのだ。
邪魔をしてはならぬ」
「……はい……」
「あい……」
二人はリオンにしがみついた。
レオンハルトは優しく微笑む。
「すぐ帰ってくる。
銀翼のみんなと一緒にな」
「うん……!
はやく、かえってきてね……!」
国王はその様子を見て、
静かに微笑んだ。
(なんと健気な……。
どうか、この子らが背負う重荷を、少しでも軽くしてやりたい)
そして、レオンハルトは
2人に「いってきます」といい、
ヒナは「いってらっちゃい!」と、もう既に癖になっている言葉を口に出す。
その言葉に笑顔を向け、王城を後にした。




