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68. 極秘の謁見と渦中の幼子達 1

シルヴァラント領主、辺境伯レオンハルト・シルヴァラントは、

王都の別邸の執務室で、

山積みになった報告書と向き合っていた。


明日、国王への謁見がある。

そのための報告書をまとめているのだが――。


『ピーッ!ピーッ!ピーッ!』

机の上の魔導通信石が淡く光り、緊急報告が届く。

その魔導通信石の転送陣の上から手紙を取る。


「……フォレット支部からの緊急の手紙……またか」


今日だけで何度目だろう。

フォレットの街は、今まさに“渦中”にある。


いろいろなちょっかいが後を絶たない。

現在は主に商人と、商人が雇ったゴロツキ。

まだ証拠が挙がっていない為、証拠探しに躍起になっているらしい。


それを見張り、撃退しているこちらの陣営。


まだ、アレクとヒナとの関係性は露見していない。

が……心配でたまらない。


(……あの子たちに、これ以上危険が及ぶのは絶対に避けたい)


アレクとヒナの笑顔が脳裏に浮かぶ。

あの小さな手で、どれだけの命を救ってきたか。

どれだけの冒険者が、あの子たちに癒されてきたか。


(あの子たちは、ただの幼児じゃない。

だが……“ただの幼児”として守ってやりたい存在だ)


本当はフォレットの街に行って

もっと詳しく話を聞きたいが、無理なことを嘆いても仕方がない。


(転移魔法……本気で欲しいよ)


報告書に追記しながら、レオンハルトは深く息を吐いた。


明日、国王との謁見がある。

伝えるべきことは山ほどあるのに、更に増える一方だ。


今回、国王の謁見で、一番に伝えなければいけないことは、

黒いオーラを浄化できる者が現れたということ。


現在、黒いオーラの浄化能力がヒナだけにある――

この事実は、世界にとって“喉から手が出るほど欲しい力”だ。


もし複数の国で黒いオーラの被害が同時に出れば、

ヒナは“奪い合い”の対象になる。


最悪――

戦争の火種になる。


(そんな未来、絶対に許さない)


さらに、噂を嗅ぎつけたのか、

セイナ王国の王族が所属する《黒雷のドラグーン》が

フォレットに到着したという報告。


(外交問題に発展するのも時間の問題だな……。

この問題に関しては、国王に託すしかない……)


商人の国・セイナ王国は、情報網が広く、動きも早い。


(……もう嫌だ。頭が爆発しそうだ……)


次に、忘れてはならないのが、


リシュネーゼ帝国の研究員であり、

今はフォレット側となった二人の冒険者。


彼らはアレクとヒナに命を救われ、

フォレットの街で伴侶を得て、他の冒険者と共に、この街で暮らしている。


そんな彼らが提案してきた。


「信頼できる研究チームによる浄化技術の研究」は、

ヒナを守るための唯一の道だ。


現在、『ヒナだけが浄化できる』が、『ヒナ以外でも浄化できる』になれば、

少なくとも、ヒナの奪い合いにはならないはず。


だが、その研究チームのリーダーは

国王の信頼厚い人物で、

研究をはじめなら、国王の許可が必要だという。


(……結局、どの国も関わってくる。

国王様、一気に世界を巻き込む案件ですが、

どうぞよろしくお願いいたします。アレクとヒナの為に。

……国王も頭を抱えることになりそうだな……)


レオンハルトは頭を抱えた。


(そうだ。アレクとヒナと、

保護者の神獣フェンリルと幻獣カーバンクルの

説明もしないといけないか。

……あの子たちとアイスクリームでも食べて、全部忘れたい……」


「はぁ……気が重いぜ」


***


翌朝。

執事とメイドが手際よく支度を整えていく。


黒地に銀の刺繍が施された礼装。

シルヴァラント家の紋章が胸元に輝く。


普段は自分で支度するが、

今日は“国王謁見”という正式な場だ。


(……あの子たちの未来がかかっている。

失敗は許されない)


書類を鞄に入れ、

馬車に乗り込もうとしたその時――


「レオ様、また緊急報告の手紙が到着しました」


執事のクラウスが一通の手紙を持ってきた。


「これから城に行くって時に……」


手紙を開封すると……。


『黒雷のドラグーンが、

黒いオーラに取りつかれた冒険者の件で

事情を聴きたいと冒険者ギルドに来た』


「……は?」


レオンハルトは額を押さえた。


(国を跨ぐ案件だぞ。

普通は国王同士で話し合うだろうが……

もしや、今回は、あの三男坊が、勝手に動いたな)


結局、

正式な場を改めて設けることで合意したらしい。


(あー……やっとまとめたのに……

……あの三男坊、また余計な火種を投げ込みやがって……!)


ぶつぶつ文句を言いながら、

レオンハルトは馬車に乗り込んだ。


***


王都の中心にそびえる王城。

白亜の石造りの壁は陽光を反射し、

塔の先端には王家の紋章がはためいている。


今日は裏門からの入城予定。

他の貴族に見つかるわけにはいかない。


入口の門番には、2人の騎士が待っていた。

「ようこそお越しくださいました」


さすがお忍び対応の騎士、

ここで貴族の名前は呼ばない。


貴族家紋の入っていない、一般的な馬車に乗っていた私は

門の前で降り、騎士の案内で入城した。


裏門といっても、高貴な身分の者がお忍びで来たりするので、

とても豪華な作りになっている。


大理石の床、高い天井、天井に描かれている絵。


王城は、

“権力そのもの”を形にしたような場所だ。

反対にそうでなければならない。


騎士に案内されて通されたのは、

謁見の間ではなかった。

極秘とのことで用意してくれたようだ。


中に入ると、

ソファとテーブルが置いてあり、

一番奥の黒地に金色の豪華な刺繍が施されたソファに

マグリル王国国王――

アレクサンドル・マグリルが座っていた。


白銀の髭、鋭い眼光。

その存在だけで空気が張り詰める。


「よく来たな、レオンハルト・シルヴァラント辺境伯。

……極秘の報告があると聞いた」


「はっ。

黒いオーラとフォレットの件につき、緊急の報告がございます」


レオンハルトは片膝をつき、

書類を広げた。


「まず、変異個体が森から出てくる事例が増えております」


国王の眉がわずかに動く。


「……ああ、ワシもそう聞いている。

黒いオーラが動き出している証拠だと聞く。

冒険者の負担も増えている事だろう。

だが、毎回殲滅できていると聞いている。さすがよの。」



「次に――

アレクとヒナという幼子についてです」


国王の視線が鋭くなる。


「その名は、報告書で何度か見たな。

3歳の兄と2歳の妹だったか。

……何者だ?」


レオンハルトは慎重に言葉を選んだ。


「二人は、精霊の森から現れました。

保護者として、神獣フェンリルが付き添っております」


「……あの神獣フェンリルが、だと?」


部屋の中がざわめいた。

この場にいるのは、王が信用置ける数人のみ。

宰相と護衛の騎士2人。


どちらも神獣フェンリルについて、

「神獣フェンリルですと!見てみたい者ですな」

なんて顔を高揚させている。


「フェンリルが言うには――

兄のアレクは創造神の愛し子。

妹のヒナは“世界の愛し子”だそうで、

黒いオーラに対抗できる可能性のある者だそうです」


国王の目が大きく見開かれた。


「創造神……世界の……?

レオンハルト、それは確かな情報なのか」


「はい。

フェンリル本人からの証言です」


「フェンリルは話せるとは本当の事であったか!」


国王は玉座の肘掛けを強く握った。


「兄のアレクは、創造神から多数のスキルを授かっています。

ただし、それぞれ“鍵のかかった箱”に入っているようで、

心が揺れた時や危機的状況で解放されるようです」


「……なんと」


「現在は回復魔法が使えますが、

通常とは異なり、金のオーラを纏う特別な魔法です。

その意味はまだ不明です」


国王は息を呑んだ。

(回復魔法も、ただの回復魔法ではないということは、

まだ秘めたる魔法も、普通の魔法でないかもしれぬの)


「妹のヒナは――

黒いオーラを“叩いて浄化”したそうです」


「叩いて……浄化……?」


「はい。

その方法を教えたのは、

幻獣カーバンクルだそうで、

いつも姿を隠して、ヒナと一緒にいるそうです」


部屋が再びざわめく。


「2人の近くには、

神獣フェンリルに幻獣カーバンクルまでいるのか!

すごいのぉ。まだワシも見たことがないぞ。


だが、フェンリルが2人を守っているというだけで、

商人が2人を狙いそうだの。


それに、黒いオーラを浄化できる者など、

今まで存在しなかったはずだ……!


だからこそ、過去、見ている事しかできず、多くの村や町が黒いオーラに飲まれて、

魔の森の一部となっていった……」


「そうです。それが、これからは黒いオーラを浄化し、

村や街を救うことができ、取り戻すこともできるようになります。


それができるのは、現在、ヒナのみ。

唯一の存在です」


国王の表情に、

驚愕と同時に深い不安が浮かんだ。


レオンハルトは続けた。


「ある時、黒いオーラに取りつかれた冒険者が

瀕死の状態でギルドに運ばれました。


アレクが瀕死から回復させ、

ヒナが黒いオーラを浄化しました」


「……なんと……!」


「その後の大量の魔物と変異個体と

黒いオーラに侵された変異個体の襲撃でも、

二人の力で死者ゼロで殲滅させ、乗り切りました。


二人の存在は、黒いオーラに対抗しうる“唯一の希望”です。

もう瀕死を負った友を目の前で諦める必要がなくなるのです」


国王はソファから身を乗り出した。


「幼子が……そこまで……?」


「はい。

しかし、その力が外に漏れれば――

二人は世界中の心無い者、

黒いオーラに苦しめられている者たちから狙われます」


「すでに商人たちがフォレットに集まり、

黒いオーラの噂を探っています。

現在はゴロツキまで雇って手荒に探っております。


さらに、本日の出来事ですが、

セイナ王国のA級パーティ《黒雷のドラグーン》が

“黒いオーラの詳細を聞かせろ”とギルドに押しかけたようです。

あのパーティーは、セイナ王国の第三王子が所属しているパーティーで、

時に強引な手段にでると聞きます」


国王の顔が険しくなる。


「こういうことは本来、国同士で話し合いを持つものだ。

なのに……あの三男坊、また勝手な真似を……!」


宰相がふと過去を思い出す。


「たしかセイナ王国の第三王子は、

過去にも同じように周りをひっかき回して、

たしか、国外禁止と国王に言われたと聞いたが、

まったく反省していなかったようですね」


「このままでは、外交問題に発展する可能性があります」


「そうだな。セイナ国王に書状を送ろう。

ただ、黒いオーラについては、何かしら聞かれるだろうな……」

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