67. 嗅ぎつける商人とフォレット陣
ここは冒険者ギルド、ギルドマスター室。
今日は、商業ギルドのギルドマスターのマルク・フェルネスがやってきていた。
「よう!マルク!久しぶりだな」
「レオ、悪いな、時間作ってもらって」
「いや、大丈夫だ。
それより、急ぎみたいだが、何かあったのか?」
マルクにソファをすすめ、自分も座る。
「最近、商人の間で何やらうわさになっていることがあってな」
「冒険者に関係することか?」
「あぁ、少し前の事だが、ある商人が、
森から”黒い炎に焼かれた冒険者”をパーティーの仲間らしき冒険者たちが
街の方に連れて行ったのを見たというんだ。
黒い炎って、あの“黒いオーラ”のことだろ?
触れたら乗り移って、消すこともできないって噂の……。
魔力を削るんだか、生命力を削るんだかで、
乗り移られたら最後、炎はどうやっても消すことが出来ず、そのまま死んでしまうらしいって。
たぶん冒険者ギルドに運ばれたんだろうって話だけど、
あれから冒険者ギルドは大騒ぎになっていない。
だから、何かあるんじゃないかって噂になっているんだ」
「え……」
「冒険者ギルド内もいつもと変わらない。
それじゃあ、黒いオーラに乗り移られた冒険者はどこに行ったのか。
そして、黒いオーラはどうなったのか。ってね。
気を付けてくれ。
特に“悪だくみが大好きな商人”が探りを入れてるらしい。
最近この街に商人増えただろう。
情報収集隊もいるだろうから、なにか問題行動をしたら、こちらに行ってくれ。
本人呼び出して注意するから」
「あ、あぁ」
「詳しい事は聞かないさ。
知りたい気持ちはやまやまだが、
こういうことは知らない方がいいこともある。
……だろ?」
こいつは、こういう入ってほしくないところに
気づいてくれる。
気遣って一歩引いてくれる。
商人の血が騒ぐだろうに……。
「あぁ。ありがとう。
詳しく話せるようになったら、聞いてくれるか?」
「もちろん、その時はいつでも呼んでくれる!
いつでも聞こうじゃないか」
そういって、マルクは帰って行った。
(商人も何か嗅ぎつけてきたか。
だから商人の情報網は怖いんだよ。
まだ、”何か”には気づかれていないようだが、
時間の問題でもありそうだな。
それに、次に黒いオーラの被害者でも出たら、
露見するのは避けようがない……か。
難しいもんだな。どうすっかなー。
とりあえず、冒険者からの聞き取りでもしてみるか」
その後、ギルドホールの受付カウンターのカウンターリーダーのリーナを呼んだ。
「リーナ、ギルドマスター室に来てくれ。依頼したいことがある」
リーナに簡単に事情をはなし、
最近増えている商人の様子を冒険者に聞いてもらうことにした。
何か聞かれたことがあれば、それも聞いてほしい。と付け加えることは忘れない。
それから数日後、
その1回目の報告が届いた。
「現在、商人が以前の2倍くらいに増えているようです。
商人たちからは「最近黒い炎に焼かれた冒険者が出たって聞いたんだけど、その後どうなったかってしっていますか?」という直球から、
最近立て続けに魔の森から魔獣や変異個体が出てきたそうですね。どうでしたか?という遠回りの質問、最近何か分かったことありましたか?」という大雑把な質問まで、商人からの質問がやけに多いそうです。」
「やっぱりそうか。
うちの冒険者は余計な事言う奴はいないだろうが、外部からきた冒険者がいた場合は別だ。
このあと銀翼がギルドに来るだろうから、その時にでも注意しておくか」
「報告ありがとう」
***
銀翼の一行は冒険者ギルドに来ていた。
「ギルドマスターがお待ちです。こちらへどうぞ」
受付嬢に案内されて、いつものギルドマスター室に向かった。
中に入ると、ギルドマスターが待っていた。
「ぎるます!こんちゃ!」
「ぎるましゅ!ちゃ!」
ギルマスはアレクとヒナのお気に入りだ。
駆けだしてギルマスの両足にしがみついて、
にこにこ笑っている。
ギルマスも2人の頭を撫でて、
「よく来たなー」と笑っている。
(……完全に孫とじいさんだな)
「何か話があるようで、どうしましたか?」
「あぁ、まずは座ってくれ」
みんなでソファに座った。
今日は早い者勝ちで
アレクは、フリードのお膝。
ヒナは……。
オルガのお膝あった。
「ぐぬぬぬぬ~~~~!今日も負けたぁぁぁ!!」
と、クロムが叫んでいた。
「私も抱っこしたかった……」
ひっそりエルミーが悔しがっていた。
「おるがだ~~!わ~い!」
ちなみ、リオンはソファの横で寝そべっている。
ジンとミラも今日は一緒で、2人はもう座るところがない為、立っていた。
「さて、早速だが、最近フォレットの街に商人の数が増えているのに気付いているか?」
「はい。最近多いなとは思っていました」
「その件なんだが、お前たちが、指名依頼で辺境に行っている時に、
黒いオーラに取りつかれた冒険者が、冒険者ギルドに運び込まれてきたんだが、
その様子をある商人がたまたま見たそうなんだ。
さすがに冒険者ギルドに入ることは出来なかったが、
その後冒険者ギルドはいつもの様子だし、
黒いオーラも消せるはずのないのに、それはどうなったのかって
商人の中で噂になっているそうだ。
それで、何かあると踏んだ商人がこの街に来て探っているらしい。
まだヒナのことはばれていないようだが、注意してくれ」
その時、アレクはふと思い出したことがあった。
「そういえば、さいきん、しょうにんのちかくを、とおると、
まいかいでは、ないけど、たまに、ひながむひょうじょうになって、
おれのうしろに、かくれることがなんどか、あったんだよ。
それで、どうしたのか、ひなにきいたら、
いやなかんじがするって。
ちかづいちゃだめなひとって、いってた。
なにかを、かんじたとったみたい」
「あぁ、それ、俺も見ました。
ヒナちゃんが隠れた商人をみると、
どの商人もギラギラした目で何かを探しているようでした
ヒナちゃんは、“悪意”に敏感なのかもしれません」
一応ヒナにも聞いてみる。
「ひな、しょうにんみたいなひと、きたとき、かくれたのはなんで?」
「あのね、ああいうひと、ちかづいちゃ、め!なの。
近づくと、すごくこわくなって、すごくさむくなるの。
だから、にいちゃに、かくれるの。
にいちゃに、かくれると、ほっとするの」
「そっか、ヒナ、よくやった!えらいぞー!自分の身を守ること大切なことだ。
何か他にも気づいたことがあったら、言うんだぞ」
「あい!」
ギルドマスターがさて、と佇まいを整える。
「さて、これからのことだが、
短気な商人は、平気でごろつきを雇う。
何をしでかすかわからん。
ここだという綻びが見つかったら。
人質でもなんでもとって暴こうとするだろう。
どこで何があるかわからない。注意してくれ」
***
フォレットの街のある建物内。
ここでは、シルヴァラント領の領主の影の部隊の
支部が設置されていた。
ここ最近のフォレットの街で、冒険者に手を出そうとしたごろつき数人、
子供を攫おうとした商人数人、冒険者ギルドの前を何度もうろつく不審者数人を
街のフクロウ担当の常駐騎士に通報。そのたびに捕えているが、半数ほどは証拠不十分で釈放となっている。
ただ、この行動で、自分たちが監視されていることが
商人たちの中でも広まったようで、少しずつ商人たちの動きも減って行っている。
ただ、それでもあきらめない者もいたり、
新しいゴロツキや商人が来たりと、尻尾切りの状態であった。
「この状態、なんとかならんですかね。
相手だってなにか証拠があるわけじゃないのに、
なんでここから離れないんすかね。暇なんですかね」
「だなー。暇なんだろうなー。
ただ、こんなことしているうちは、まだいいのかもしれない。
ろくでもない事をする奴はどの時代にもいるから、
そんな奴が来なければいいと思うよ」
「あ、先輩、それフラグってやつですよ」
「フラグ?なんだそれは。旗か?
そんなことより、コツコツ隠れて何かやっている物をどんどん吊り上げようや」
***
そんな中、冒険者ギルドに知らせが届いた。
セリナ王国よりA級冒険者という『黒雷のドラグーン』がフォレットの街にやってきた……。
黒雷のドラグーン――その名を聞いた瞬間、空気が変わった。




