66. 研究員で冒険者と自分の居場所
俺は、リシュネーゼ帝国で黒いオーラを研究しているチームの研究員のロドス。
リシュネーゼ帝国は、ありとあらゆる研究がされている。
魔法、魔導具、錬金術、聖獣・神獣などの伝説的な獣、
精霊の森、精霊、妖精、スキル、黒いオーラ。
それぞれ純粋に研究を行っているところの方が多いが、
ごく一部は、己の野心を満たすための足掛かりとして研究を行っている者もいる。
私たちのチームは、国から依頼されて行っている大きなチームだ。
黒いオーラの解析、
なぜ発生したのか、
範囲を広げようとする時の進行条件、
黒いオーラに乗り移られたらどうなるか、
最終的な目的は何なのか、
操られると言われているのは本当か、
好戦的になるのか。何かしらの欲が出るのか。
乗り移られた状態で会話は出来るのか、
もし出来た場合、それは黒いオーラの意識なのか、
能力的な向上が見られるのか、
悪い方にせよ、進化するのか。
進化するのであれば、そのエネルギーだけ抽出することはできないのか、
乗り移られた者は、現在黒いオーラを浄化できない以上、どうなっていくのか?
黒いオーラが好むものはあるのか、
反対に避けるものはあるのか、
黒いオーラを弱らせることはできないのか、
村に一人黒いオーラに取りつかれた人間が迷い込んだ場合、どうなってしまうのか、
今までの情報では、あっという間に黒いオーラに飲まれたとあるが、
それは実際にどのように飲まれて行ったのか、
黒いオーラから、自動回復能力は取り出すことは出来ないか、
黒いオーラの一部を、隔離して持ってくることはできないか、
黒いオーラに触れても汚染されることがない素材はあるのか、
隔離すれば、乗り移られることはないのか、
隔離できれば、研究ができるのではないか、
黒いオーラが乗り移ったものを操るとしているが、その操り元の設定を変更することはできないか、
乗り移られた場合、浄化できる者はいないのか、そういう能力はないのか、
疑問は枯れることがない。
研究員とはそういう生き物だ。
”なぜか”、その疑問を解明したくなる。
”どうなるのか”、実際に実験してみたくなる。
そこで、まずは黒いオーラに一番近いとされるフォレットの街に派遣されたのが俺と”キアス”だった。
派遣理由はいつくか言われた。
「黒いオーラを、安全な形で持ち帰る」
(いや、何も研究できていない状態で、丸投げすぎるだろ……)
「黒いオーラが、実際にどんなものなのかを確認すること」
(そのために、冒険者ギルドに所属して、現在冒険者として活動をしている。
もうC級になってしまった。研究員を忘れそうだ)
「黒いオーラの浄化や抑え込む方法の入手」
(これまで、すべての国でそういった者を探した、技術を探した、スキルを探した、
だが、どれも効果がなかったのに、今更みつかるのかよ)
「できたら、黒いオーラに乗り移られてみて」
(いやだよっ!俺、どうなるの!?)
派遣理由を聞くたびに、それぞれにツッコミをいれてしまう俺。
しょうがないと思うんだ。
俺も研究員だ。もう元研究員と言ってもいいくらい離れている。
冒険者になって、もう10年くらいになるかな?
もう普通に冒険者って言ってもいいと思う。
そろそろ帰っていいか?って連絡すると、
”まだそこにいろ”という。
もう俺の席、研究所から消えてる気がするんだよな……
グレていいかな。
辞めちゃおうかな。
だって、冒険者やってた方が楽しいんだもん。
もうパーティーも作っちゃったし。
“月影の寄り道団”っていうパーティを。
冒険者名も、本名使えないから、”オルソー”で登録した。
冒険者をやっているうちに、
愛する人と恋に落ち、結婚もした。
パーティも、キアス以外に3人の仲間が増えた。
キアスなんて、パーティ内恋愛で結婚しちまった。
名前もキアと名乗っている。
(こいつ、名前変えるの面倒だからって“キアス→キア”って……手抜きにもほどがあるだろ)
もう、俺は、フォレットの街の住人だ。
冒険者ギルドの奴らは。口は悪いし、うるせえけど、
何かしらいろいろなものを抱えて、つらい思いをした者が多く、
人の気持ちを察しようとしてくれる優しいやつが多い。
ツンデレも多いが。
厳つい顔でツンデレはちっとも可愛くないがな!
そんな、どこか宙ぶらりんな俺は、とうとう出会っちまった。
あのアレクとヒナに……。
大怪我をし、生死をさまよっているところを、
あのちっちゃいアレクが大泣きしながら回復魔法を覚醒させ、
俺を回復させてくれた。
まだ3歳だぞ。
意識を取り戻した後も、
アレクは抱き着いてきて、助かってよかったと泣きながら喜んでくれた。
俺は、その時のアレクが忘れられない。
力を使い過ぎたのかその後、アレクは倒れてしまった。
俺の為に倒れるほど力を尽くしてくれた。
その後、俺は、アレクを守ってやろうと思った。
もちろん、アレクの大切な妹のヒナもまとめて守ってやると決めた。
そこまでは、まだよかった。
しかし、事は起こってしまった。
フォレットの街に、黒いオーラに取りつかれ、変異個体からまた強化されてしまった魔物が
魔物の森から攻めてきた。
大量の魔物と一緒に。
その瞬間、昔の研究員の派遣依頼を思い出した。
”黒いオーラが、実際にどんなものなのかを確認すること”
これについては問題ない。戦闘をしながら、黒いオーラを慎重に確認した。
黒い炎のように体の一部を燃やしているようだった。
そして、黒い炎がない場所を切り付けられ、負傷すると、
黒い炎が触手を伸ばすように傷口に伸びていき、傷口を回復させた。
あれは、意思があるように思った。
黒いオーラが怖がるものなんて今のところないが、きっとあったら自己防衛もするのだろう。
その後、黒いオーラが反応した。
銀翼のフェンリルのエルミーが言っていた。
”強い魔力に反応している”
なるほど、興味深い、感知もするのか。
それを自分の糧にするのか。
糧にするだけならいい。乗り移られたら、どうなるのだろうか。
まだ人間が乗り移られた姿を見たことが無いが、
もし、あの変異個体のように移動でき、戦闘もできてしまったら、
人間兵器にされかねないと思った。
大魔法使いが手ごまにされたら、どれだけの被害があるだろうか。
考えただけで恐ろしい。
そんなことを考えていると、
クロムが黒クロムになり、魔法で変異個体を拘束した。
すげえと思った。
でも、拘束して、黒いオーラを避けて攻撃しても、黒いオーラはまた回復させるだろう。
俺たちには、もうどうすることもできない。
この後、どうするんだろうか……。
そう思っていると、
オルガがヒナを抱えて変異個体に向かって二つ名通りの神速で駆けていった。
(え?ヒナをどうするんだ!?)
すると、ヒナがにょきっとオルガの腕から出てきて、
「ぺちん」と黒い炎があるところを引っ叩いた。
同時に、冒険者数人が「ぺちん!」と一緒に声を上げた。
「言っちゃうよなー」
「可愛いもんなー」
よくよく話を聞いてみると、少し前に冒険者ギルドに、
黒いオーラに取りつかれた冒険者が運び込まれたそうだ。
その時はじめて、ヒナがぺちんと叩いて黒いオーラを浄化したそうだ。
その後、その冒険者はどうなったんだろうか。
その時、はっとした。
”黒いオーラを浄化できる者がいた”
これは、大変なことだ。
この世界で一人だけ、黒いオーラを浄化できる幼女。
このことが、うちの研究員に知られたら、
どうなってしまうだろうか。
俺は急に背筋が寒くなった。
うちの研究チームは国王からの依頼とあって、人数がとても多い。
研究内容が研究内容なだけに、少人数では無理な内容だ。
俺は、研究員はすべて国王からの依頼を達成しようとするものだけではないことを知っている。
おいしい餌をぶら下げられ、裏の組織と手を組んでいそうな研究員、
研究結果で自分の地位を上げたいと目論んでいる研究員、
とにかくまわりに認められて、自分の名を歴史に残すと野望に燃える研究員、
もちろん、自分の野望があることはいい事だと思う。成長する糧となる。
だが、その為に利用使用する者が後をたたない。
ヒナを研究チーム全体に報告するには危険すぎる。
それこそ、人体実験にでもされかねない。
そこでキアスと2人で話し合うことにした。
キアスとフォレットの街に来て10年。
共に冒険者として生活してきた。
お互いに愛しい人に出会い、結婚した。
もうこのフォレットが自分の居場所となっている。
それに、あの子ら俺たちを助けてくれた。
だから、これから自分が守ると決めいた。
やっぱり、考えていたことは俺と同じだった。
キアスの”ぺちん”を実際に見て、驚いたそうだ。
そして、研究チームの事を思い出したそうだった。
「あの研究チーム全体に話したらアレクとヒナを仕掛けられるかわからない。
だが、ヒナだけが浄化できる状況もよろしくない。いいターゲットままだ」
「そうだよな。
俺もそう考えて、そういった方面に厳しいチームリーダーだけに話そうと思う。
あと、ギルドマスターと銀翼には、俺たちの正体を言った方がいいな。
あのギルドマスターなら、なんとかしてくれるだろう。
研究も、悪いことばかりでない。
真実を解き明かすことであり、解決策を見つけることが出来るかもしれない可能性だ」
その後、変異個体を冒険者で”フルボッコ”にして、清々した後、
ギルドマスターに時間を作ってもらい、キアスを含め3人で会うことにした。
ギルドマスターは、
「冒険者とは、何かしらを背負っている者ばかりだ。
それでも、このギルドで心の傷を癒し合い、助け合い、また立ち上がって歩き出す。
冒険者を辞めても、この街に居続けるやつが多いのは、
ここを自分の居場所としちまった奴ばかりだ。
居場所ってのはな……自分で選ぶもんだ。お前らはもう、ここを選んだんだろ。
だから、アレクとヒナを助けたいと思ってくれた。
仲間が傷つかないように、解決できる手段として”研究”を持ち出してくれた。
ありがとうな!ロ……いや、“月影の寄り道団”のオルソーとキア」
「うちの研究チームリーダーは、純粋に研究が好きなもの好きです。
アレクやヒナをどうにかしようなんて考えない人です。
どうか、ヒナの力をヒナ以外にも作れたら、ヒナが狙われないで済むようになるかもしれない。
ヒナを守る為にも、チームリーダにのみ、話す許可をいただけないでしょうか」
「わかった
この辺は、私だけでは決めることは出来ない。
改めて連絡をするので、それまで連絡を入れるのはまってくれ。
私としては賛成だが、準備というものもある」
「わかりました。では、連絡をお待ちしています」
と、言うことになり。ギルマスや冒険者たちへの後ろめたさも、少し軽くなってきがした。
後日、ギルマスから、研究チームリーダーに、
極秘での研究の依頼をしたいとコンタクトをとってくれないか」
と、依頼された。
私は、急いでいつもチームリーダーへの報告時に使っている
連絡方法で、”装備が壊れたので買ってください。最新式のがいいです。”という、
研究員がふと見てしまっても「なんだこいつら、わがままか!」とも思える暗号文を送った。




