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65. 暗躍と撃退

【暗躍者側視点】

ここは、とある領地の貴族館のゲストルーム。

豪奢な部屋の中央で、ひとりの貴族がソファにふんぞり返っていた。


その背後には、

“筋肉の塊”と“細長い影が薄い”のような護衛が二人、無言で控えている。


「イグナルド君、来たね。座りたまえ」


言われるままにソファへ腰を下ろす。

私は イグナルド・オルドレア男爵。

寄り親からの“汚れ仕事”を一手に引き受ける、影の実働部隊だ。


手元には、隠密に長けた手下たち。

さらに、幼い子どもを攫って育てた“従順な隠密”もいる。

これがまた、よく働き、扱いやすい。


(寄り親の信頼も厚いし、金も入るし……悪くない仕事だ)


貴族はワインを揺らしながら言った。


「今回の依頼は、珍しい獣のコレクターからだ。

とても贔屓にしてもらっていてね。……頼めるかな?」


(断れるわけないだろうが)


「承りました。詳細を」


貴族は満足げに頷き、口を開いた。


「最近、フォレットの街に“神獣フェンリル”が犬に成りすまして住んでいるそうだ。

隠しているつもりらしいが……全然隠せていないそうだから、見つけるのは簡単なようだ。」


(……なんだそりゃ)


「フェンリルは強い。なにせ神獣だ。

正面からは到底無理だろう。

近づいただけで感づかれるだろう。


だから、フェンリルが守っている幼児二人を人質にして、

言うことを聞かせ、“従属の首輪”をつければいい。

あれは成長してもサイズが変わる優れものなのだよ

本来の大きさになっても取れてしまうことは……ない」


貴族は嫌な笑みを浮かべて、

既に得たフェンリルの想像でもしているようだ。


(優れもの……ね……怖えぇな)


「幼児二人のことだが、なぜか周囲が異常に守りを固めているらしい。

何か隠していそうだ。ついでに攫ってこい」


(……なんだ、結局幼児を攫えばいいんだろう。簡単じゃないか)


報酬は金で受け取ることにした。


「その依頼、承りました」


***


私は館に戻り、

暗躍部隊を招集した。


こいつらは小さい頃から育てたことで、

私を裏切ることはない。


私の野望の為なら、なんでもしてくれることだろう。


「今回の任務は神獣フェンリルへの従属首輪装着だ。

幼児二人を人質にすれば簡単だろう。

あと、その幼児二人も一緒に攫ってこいとのことだ。」


「「承りました!」」


(あの幼児には、どんな使い道があるのだろうな。

兄の方が、3歳だったか、そろそろしつけるにはいいころ合いかもしれない。

妹の方は、兄から引きはがしてまずは私たちに懐くように洗脳かなだな。

小さい頃から洗脳すれば、ちょっとやそっちゃじゃ解かれることはない。

この2人を盾に、あの街に乗り出すのもいいかもしれんな。

様子を見ながら、どんな能力があるのかを見定めればいいか)


「今回の仕事は、私たちのターニングポイントとなりそうな気がする。

しっかりやってくれることを願うよ」


「お任せください。父様。

すぐにフェンリルと幼児2人を連れてきますね」


「あぁ、よい子たちだ。

私は君たちがいてくれて本当に幸せだ」


「まかせてよっ!」

「父様の欲しい物、なんでも俺がとってきてあげるから!」

「いつものように、あっという間に終わらせる!


部下たちは自信満々だった。


……この時までは。


***


フォレットの宿屋に潜伏した隠密たちは、

開始早々、壁にぶち当たった。


「……おかしい。視線を感じる。

監視されているようだ。なぜだ」


「正体もバレてはいないはずなのに」

「きっと見ない顔だからだろう。気にすることはない。

慎重にうけばいい」


しかし、この街はすごく居心地が悪い街だった。

「冒険者の街で冒険者登録をしたい!」という名目で

この街に来ただけの者に対して、こんなに監視の目があるのか?

これじゃあ、動きにくいぜ。でも、このままでは何もできない……。


「目標は確認できたのに。

それに、フェンリル、まじで犬に成りすましている気か?

ぜんぜん普通にフェンリルのままにしか見えんが……。

ただ体が小さくなっただけにしか見えないのは、何かの罠か?

まわりもぜんぜん気にしていないが。

あ、たまに他の街から来たと思われる冒険者が驚いて腰抜かしているが。

その態度でも気づかないのか?

あのフェンリル、実は抜けているのか?」


しかし、このままでは埒があかない。

たしかに、フェンリルに近づくのは無理そうだな。


まずは、どんなものか、実行に移してみると、

近づいて2人のうち、1人でも攫おうと忍び寄っても、

いつの間にか若い冒険者が割り込んでくるんだが?

「お?新入りか?どうした?」

別の冒険者が声をかけてくる。

(どうしたじゃねーよ!!じゃまなんだよ!おまえら!)


「いえ、可愛いちびっこいのがいるなーと思ってよ」

「あぁ、こいつらか、すげーわんぱくなちびっこたちだよ」


「ちびじゃないもん!あれく、もう3歳だもん!」

「ひな、もう2しゃい……だよ!」


「おい、ちびっこたち、十分、ちびっこだぞ」

「むきー!」「む~!」


なんだ、このほんわかな雰囲気は……。

いや、お近づきになるチャンスか?


「俺、冒険者の街で冒険者になりたくて来た、ロニーだ。よろしくな」

子供と握手をしようとすると、さっき割り込んできた若い冒険者がまた間に入ってきた。

それとは別の冒険者が前に出てくる。


「オレはオルガ、よろしくなーロニー。こいつらちびっこいから気にしなくていいぞー」

「だから、ちびっこくないー!おるがのばかー!」

「むー!」

幼児2人がオルガという冒険者の両足にしがみついて講義している。

「か……かわいい」

「だろ?だから、ちょっかいかけてくれるなよ」

「……あ、あぁ」


こいつに、幼児を狙っているって気づかれたか?

任務失敗。

寒気がして、その場を離脱。


翌日、別の者が任務についた。


買い物帰りを狙って走り抜けざまに強引に攫おうとしたが――

気づけば幼児の前に若い冒険者が立っている。


(……はえぇ!いつのまに移動した?)


おかげで若い冒険者に体当たりをしそうになった。

「わりぃ!急いでてちゃんと前見てなかったわ」


また任務失敗。

そういって、その場を離脱した。


ホームに忍び込もうとしたら、

ドドドドドッ!って大量のゴーレムに追いかけられた。

「ひ~~!!!こえ~よ!なんだこの家!!」


(普通、家にホームにゴーレムなんかいねーよ!?)


一旦家の外にでて、再度入れそうなところを探していると、

若い冒険者に威嚇攻撃される。


「何者だ」


(強い……!強すぎる……!なんだあいつ……!)


顔を覆っていた布が取れてしまった。

急いで被るも、切れてしまってうまくかぶれない。

顔を見られた恐れがある為、やむなく離脱。


……任務失敗。


次は“冒険者ギルドにいる冒険者たちに紛れて仲良くなって攫う作戦”。


しかし――


「お前、どこ出身だ?」

「最近来たんだよな?何しに?」

「妙に質問が多いな?」

「あのちび達に無理に近づこうとしない方がいいぜ。疑われる。」

「なんてったって、我がギルドのマスコットだからなー」

「かわいいもんなー!『いってらっちゃい!』だからな~」

「もう、俺なんてハートを鷲掴まれたぜ……」

「あの子たちはこのギルドの宝だからなー」

「そうそう。お前も依頼をこなして帰れば『おかえりなちゃい』って言ってもらえるぞー」


(……探られてる?……

……近づくなと遠回しで言われてる?……)


隠密は青ざめ、遠出の依頼を理由に撤退。


……任務失敗。


(……手がない)


最終手段として、実力行使に出ることにした。

配下十名を配置し、大通りの細道や店の影に潜ませた。

一気に攻めれば、対応は難しいだろう。どこかにほころびができるはず!


「よし……今だ!」


突入しようとした瞬間――


「……あれ?仲間の気配が……ない?」


次の瞬間、後頭部に衝撃。


「ぐっ……!」


意識が遠のく中、

幼児たちの楽しそうな声が聞こえた。


(……なんで……何も心配もないような笑い声が……)


***


目を覚ますと、

シルヴァラント領・ラントの領主館の牢獄だった。


「目が覚めたか。

ここは、領主館の牢獄だ。

これからいろいろ吐いてもらうぜ」


(……な、なんで領主館……?)


そこに現れたのは――

領主レオンハルト本人だった。


(なんで領主が直々に!?

やっぱり、あの幼児……何かあるのか!?)


尋問は容赦なかった。

魔法、薬、心理攻撃……

隠密として鍛えた精神も、ついに折れた。


(……終わった……)


だが、最後の忠義として、

父とあおぐ、イグナルド様に逃げるよう伝えねばならない。

(父様に知らせなきゃ!)


夜、脱獄を決行。

監視は多かったが、なんとか突破した。


(急がねば……!)


イグナルドの館に飛び込み、叫んだ。


「父様!至急、お逃げください!

任務に失敗しました!申し訳ありません!」


その瞬間――

窓が割れ、冒険者が突入してきた。


「なっ……!」


再び捕縛。


イグナルドは、失敗の報告を少し前に受けており、

急いで依頼元の貴族に助けを求める手紙を出していたが――

返ってきたのは冷たい一文。


「私は何も知らない。そんな依頼をした覚えもない」


(……尻尾切り……!)


イグナルドの顔が青ざめた。

暗躍は、こうして完全に崩壊した。


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