64. 護衛のジンとミラと顔合わせ
「……幼児二人の護衛、ですか?」
辞令を聞いた瞬間、ジンは固まった。
頭の中で、幼児が泣き叫びながら走り回り、自分も泣いている地獄絵図が浮かぶ。
(いやいやいや……俺、騎士だよな?なんで急に……?)
隣でミラがため息をついた。
「ジン、顔に全部出てるわよ。
これは“極秘任務”よ。
冒険者たちに知られたら即アウト。気を引き締めて」
「は、はいっ!」
(ミラさん……いつも冷静でかっこいい……
俺もああなりたい……
それに、美人だ……)
そんなことを考えながら、二人はフォレットの冒険者ギルドへ向かった。
フォレットの街は、冒険者の街と言われるだけあって、冒険者が多かった。
ギルドの扉を開けた瞬間――
「おー!新人か!」
「若いな!」
「お肌ピチピチだな!!」
「冒険者か!?」
「隣の美人さんは彼女か?」
「いいな~!」
「お前!おとなしそうなのに、やるな!!」
「飲むか!?」
「いや用事があるんだろうよ!」
「飲ませろよ!」
「飲ませようとするなよ!」
ジンは一瞬で固まった。
(うるさい……!
いや、陽気……!
いや、やっぱりうるさい……!!)
ミラも驚いた様子ではあるものの、すぐに落ち着きを取り戻し、軽く会釈している。
ここへは、任務できている。
この冒険者達にのまれるわけにはいかない!
護衛任務は“絶対に秘密”。
急いで受付カウンターに行き、依頼時に聞いた人を呼ぶ。
「リーナさん、いらっしゃいますか?」
ギルドに着いたらリーナさんを呼ぶことになっていた。
受付嬢のまとめ役、リーナさんが奥の部屋から出てきて、挨拶と握手をする。
すると、リーナさんがそっと小声で言った。
「こちらへどうぞ。ギルマス室でお待ちです」
ジンとミラは、冒険者たちの視線をかわしながら、
ギルマス室へと案内された。
部屋に入ると、銀翼のメンバー、ギルマス、副ギルマスがすでに揃っていた。
「お待たせして申し訳ありません。
はじめまして。シルヴァラント領、第一騎士団所属ジンと申します」
「同じく、ミラです。よろしくお願いいたします」
まず、ギルドマスターが声をかけてくれた。
「ジンとミラだね。よろしく頼むよ」
そして、私たちの状況についても説明してくれる。
「この二人の護衛任務は、絶対に秘密だ。
冒険者たちには“新人が冒険者登録に来た”とだけ伝えてある」
次に銀翼の皆さんが立ち上がり、挨拶をしてくれた。
「A級冒険者パーティー「銀翼のフェンリルのリーダー、ジークで、
こちら側から、オルガ、エルミー、フリード、クロムと、
2人の保護者のリオンです」
リオンがすくっと立ち、大型犬サイズから通常サイズに戻る。
大きくなると、毛の美しさもより鮮明となり、深い蒼い人瞳と神聖力が漏れ出てほのかに光るフェンリルとなる。
その姿をみて、感動した。
伝説上の生物だと思っていたのに、本物が見られるなん!
しかも、キレイでかっこいいぜ!!
隣でミラも瞳を見開き、満面の笑みで見つめていた。
「我はアレクとヒナの保護者として、天界から参った。
2人の護衛を頼むぞ」
「「はい!おまかせください!」」
ギルドマスターや、副ギルドマスター、銀翼の皆さま達は皆さん明るく、気さくで、
お優しかった。
ジンは少し肩の力が抜けた。
(……銀翼ってもっと怖い人たちかと思ってたけど……なんか……普通に優しい……
年少組と言われる2人は、俺と同じくらいの年齢だろうか)
ソファを勧められ、座ったところで本題に入った。
アレクの金の光がふわりと広がる回復魔法のこと、
スキルを今は忘れているが、今後いろいろ思い出すであろうこと、
前世の知識、
ヒナの黒いオーラの浄化が出来る力のこと、
カーバンクルのこと、
人を引き付ける力があること。
いろいろな話をお聞きした。
神獣フェンリルの他にも、幻獣カーバンクルがいることにも驚いた。
そのうち見せてもらえるだろうかとワクワクしてきた。
アレクとヒナは?と聞いたところ、
週に何度か、アレクが回復魔法を強くしたいと訓練場で、ちびっこ回復師をやっているとのこと。
今日も、訓練場で頑張っているのだとか。
(まだ3歳だというのに、すごいな……)
「私たちは、銀翼の皆さまが依頼で外出している際や、必要な時の護衛を行います。
それ以外の時は、ギルドのランク上げと街の見回りを行います。
よろしくお願いいたします」
「基本的に2人で護衛しますが、
お2人がいつも一緒とは限りませんので、
その場合は、アレクはジンが、ヒナは私ミラが護衛いたします」
「あぁ。よろしく頼みます」
ギルドマスターの一言で、今回の顔合わせは終了となった。
銀翼さんたちと一緒に一階に降りた。
次に、ジンとミラは“表向きの理由”として冒険者登録を済ませる。
受付嬢が書類を見ながら言う。
「ジン、魔法適性もあるのですね!期待しています!頑張ってくださいね!」
「は、はい!」
冒険者たちが遠巻きに覗いてくる。
「新人かー!がんばれよー!」
「ミラさん美人だな~!」
「お前は黙ってろ!」
ジンは顔が熱くなる。
(……なんだこのギルド……
少々うるさいけど……温かいな……)
そんな時、ちょうどちびっこ回復師を終えたアレクとヒナと会った。
「こんにちはー!」
「よろちくね!」
アレクは前世の知識があるとのことで、
大人の会話も可能で、話しておいてほしいといわれていたので、
軽く酒場であいさつをすることになった。
ジンとミラは、2人を見て呼吸を忘れた。
(……な、なんだこの……
天使……?)
アレクは恥ずかしそうに笑い、
ヒナはにこにこしながら手を振ってくる。
ミラは思わず目を細めてぽそっとこぼす。
「……これは、守りたくなるわね」
ジンは深く頷いた。
「じん、これたべる?ぼくがつくったんだよ!」
差し出されたのは――
白くて冷たい、ふわふわの食べ物。
「……あ、アイスクリーム……?」
一口食べた瞬間。
「っ……!?
つ、つめ……っ……うま……っ」
ジンの顔がゆるんだ。
アレクが嬉しそうに笑う。
「おいしい?よかった!」
ヒナもにこにこしながら言う。
「じん、かわいいおかおした!えへ~!
みらさん、びじ~~ん!きゃう!」
ジンとミラは耳まで真っ赤になった。
(……この子たち……反則だ……)
その時、ヒナの首元あたりから、
白いもこもこがちょこっと顔を出して、
ヒナにアイスを貰って引っ込んだのを見た。
ミラを驚いた顔をしている。
(あれを見たんだな。あれか、幻獣カーバンクル。
あんなところにいたとは!
ちらっとしか見れなかったから、今度ちゃんと見せてもらいたいな。
それにすごくふわふわな感じだった!あ~触らせてもらいたい~)
はっ!感動のあまり意識が飛んでいたっ!
あぶない、あぶない。
後から聞いた話だが、
このアイスクリームというは、アレクの前世のお菓子だとか。
それを再現したものだそうだ。
(すごい!本当に食べたことのない菓子だ。
とても美味しい!!弟たちへのお土産に買って帰りたいな……)
その後、ジンとミラは領主館へ戻り、
レオンハルト様へ初日の報告をした。
「……そうか。
二人は元気にしていたか」
「はい!とても可愛い子たちでした。元気そうでしたよ。
アイスクリームというのを出していただきまして、
とても冷たくて美味しい菓子でした」
相槌をうって、ミラさんも続く。
「それにしても、前世の記憶にあるものを作り出してしまうなんて、
すごいですね」
「アイスクリーム!!あれは、俺も食べた。美味しかったなー
ヒナちゃんも可愛かったな……」
レオンハルト様の声は、思い出しながらも、
安堵と、まだ消えない心配が混ざっていた。
ジンは深く頭を下げた。
「はい。
……必ず、お守りします」
その言葉にレオンハルト様は静かに頷く。
「頼んだぞ」
領主館を出た後、
ジンは夜空を見上げた。
(……あの子たちは、ただの幼児じゃない。必ず守らないと)
胸の奥が熱くなる。
(俺が、俺たちが……絶対に守ろう。
泣かないで済むように。権力や犯罪に巻き込まれないように。
アイスもまた食べたいな……!)
ジンは拳を握りしめた。
(よし……明日も頑張ろう)
ジンの護衛任務は、こうして始まった。




